日米豪印(クアッド)首脳会談レポート ~ 内閣官房副長官 さかい学が見た各国首脳の人間力 ~
■ クアッド首脳会合の意義
対面式の「日米豪印(クアッド)首脳会合」が初めて開催されることになり、総理に同行して9/23~26の日程でアメリカのワシントンDCに参りました。この4か国会合は、「インド太平洋地域に法の支配に基づく、自由で開かれた国際秩序を実現する重要な取り組み」と菅総理が発言した通り、経済、技術、防衛など幅広い分野において、基本的価値観を共有する民主主義国が協力を深めていくことを確認するという重要なものでした。
■ 副長官の仕事
スケジュールも米豪印首脳と個別の会談を持った上で、4か国でのクアッド会合、そしてアメリカのハリス副大統領との会談と、かなり過密でした。
内閣官房副長官としての私の仕事は、総理がよい仕事をできるような補佐とメディアの皆さんへのブリーフィング(会合の中身を伝えること)です。特に会議の中身に関しては、参加人数が限られているため、副長官ブリーフで説明したことが報道されることがままあります。
■ 「もったいない」を連発
今回、一連の日程を終え、一番に感じたことは、「外交は国と国の関係」とは言いながらも、最終的には首脳と首脳の人間関係だということです。
この点で言うと、菅総理はバイデン米国大統領、モリソン豪首相と太い信頼関係ができていると強く感じました。日米首脳会談に関して言えば、今回はジル夫人を交えての懇談会という形式になりました。ジル夫人は別の公務を切り上げてホワイトハウスに戻ってきてくださったそうで、菅総理とは単なる仕事上の付き合いというよりも、一歩踏み込んで個人と個人の関係で考えてくださっているのだと感じました。オバマ大統領の時も、トランプ大統領の時も、ファーストレディまで含めて単なる仕事を超えた付き合いができたことはなかったそうです。
これはもちろん、アメリカにおいて日本の比重が格段に大きくなった安倍外交の成果が背景にありますが、それにしてもここまで信頼できる関係ができたことに「退任するのはもったいない」と、外務省関係者もしきりに言っていました。
■ 日米トップ同士の信頼感
今回、福島原発事故に由来する日本産食品の輸入規制撤廃が、菅総理の訪米直前にアメリカ側から発表されました。4月の訪米時にしっかり話をして頼んできたのですが、この発表のタイミングを考えると、菅総理の顔を思い浮かべながら日本に配慮したと思われます。トップ同士の信頼感、人間関係が課題を一つ進めたと言えます。
こうしたアメリカの動きは、まだ輸入規制を行っている韓国をはじめとする国々に、科学的根拠に基づけば日本産の食品は安全だという強いメッセージになり、波及効果も大きくなるものと期待しています。
今回4か国首脳会合が終わった後、バイデン大統領は菅総理のところまで握手を求めながら歩み寄り、「総理をやめてもヨシの知恵は徹底的に借りるからね。私からは逃げられないよ」と肩に手を回して声をかけて来ました。
■ 予想外の出来事
モリソン豪首相とは、4か国首脳会談の日の朝食を共にして、かなり率直なやり取りを交わしました。具体的な話が多く、他の首脳とのやり取りとは違うと感じました。外務省の職員から聞いたところによると、英国でのG7サミットの際、菅総理はモリソン首相からオーストラリア国内での法律の取り扱いについて相談を受け、現在、菅総理の助言に沿った形で動いているそうです。そうしたやり取りの積み重ねは、国のトップ同士というより、普通の人間関係と全く変わらないと思うのです。
4か国首脳会談の中においても、モリソン首相が菅総理の働きを評価し、ねぎらったタイミングで自然発生的に会場全体から拍手が沸き起こりました。予想もしなかった出来事に、私まで嬉しく、温かい気持ちになりました。
■ 外交で求められるトップの人間力
今回の会合では、インフラ、宇宙、クリーンエネルギー、人的交流などの分野でも協力を進めることになりましたが、それ以上に4か国の強い結束を世界に示し、毎年の首脳会合の実施を合意できたことがメッセージとして大変大きかったと思っています。
この日米豪印の枠組みは、安倍総理の時から日本が実現に向けて積極的に動いてきた案件ではありましたが、菅・バイデンのコンビになって、今年の3月に初めてオンラインで実現したものです。日本としては定着させることが次の課題でもあったわけです。
オンライン会談にも同席させていただきましたが、やはりオンラインと直接対面とは全く違います。対面の方がそれぞれの人間の雰囲気がよくわかります。信頼関係を構築するには対面で会う機会を重ねることが重要だと実感しました。
今回の外遊に限らず、官邸の中に入って感じたのは、コロナ禍でやり取りの回数が減っているとはいえ、外交案件が想像以上に多いということです。必然的に、総理は外交に詳しくならざるを得ません。と同時に、総理の人間力が求められます。
日本産食品の件も含め、今回もトップ外交の力の大きさを実感しました。通常では体験できない首脳会合の現場に立ち会えたことに感謝し、私自身も実力をつけていかねばならないと改めて肝に銘じました。
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