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諦めんな!!|超短編小説|ショートショート

「諦めんな!!」

江口がゲキを飛ばしたのとほぼ同時に、試合終了のホイッスルは鳴り響いた。

まるでそのゲキを嘲笑うかのように。

先刻まで誰もが我が物にしようとしていたサッカーボールは、誰にも触れられる事なくラインを割って転がっていった。

部活では長身エースアタッカーとして知られている江口だが、普段は物静かで、授業中も滅多に発言しない。

担任の私ですら彼からそんな迫力のある声が出た事に驚いた。

『3年最後の大会』『これに勝てば優勝』これらの思いがそうさせたのだろう。

江口はグラウンドの中央で膝をついて動けないでいる。

ここから教え子の顔は見えないが、小刻みに震える彼の背中が涙を流している事を容易に分からせた。

ライン外に居た私は、彼のもとに足を踏み出した。

歩みの中で、なんと声を掛けるべきか思考を繰り返す。

そのせいで、側から見れば私の歩みはやけに悠然としたものになったかもしれない。

センターサークルのラインを越え、揺れる江口の肩にそっと手を置き私は言った。

「球技大会やから」

江口は震えたままだ。

厳しいかもしれないが、担任として、彼の今後の為にも、今このタイミングで、私が伝えなければならないことがある。

「怖いから。球技大会とかであんまほんまの大っきい声出すな」

目に涙を溜めた教え子は私を見てつぶやいた。

「サッカーが大好きなんです」

私は微笑んだ。

「ほななんでバレー部やねん」

ーENDー

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