「俺」って言い出すタイミング
僕はね、自分の事を「僕」って言ってるんだ。
でもホントはね、「俺」って言いたいんだ。
お父さんは自分の事を「僕」って言わない。
ご飯の時にね、僕を見ながら自分のウインナーを指差して、
「俺の分も食うか?」
すごく格好いい。
「俺がもらって良いのか?」
って返せたらっていつも思うよ。
でも友達の中にはね、自分の事を「俺」って言う子も居るよ。
だから一度勇気を出して、お母さんがお買い物に行く時、
「俺も一緒に行く」
言ってみたんだ。
お母さんはいつもの優しい顔で僕を見て、
「おいで」
と言った。
でもね、
「おいで」はいつもと違う気がしたよ。
スーパーまで一緒に歩いてる時、そっとお母さんの横顔を覗いてみたんだ。
寂しそう。
だから僕はまだダメだ。
僕は「僕」だ。
お父さんに言われてるんだ。
「俺の女に寂しい想いをさせたらタダじゃおかねえ」
ごめんねお母さん。
僕はまだ「僕」でいるね。
ちなみにね、
お母さんは自分の事を「俺」って言うよ。
ーENDー