フリスク1個ずつ出せるん知らんの?|超短編小説
「1個もうてええ?」
「ええよ」
俺は自分の持っていたフリスクの蓋を外して彼女に差し出した。
彼女は一瞬目を丸くさせた後、笑いながら「いや珍し過ぎるやろ」と言った。
俺が「何が?」という顔をしているのを見て彼女は「え?ほんまのやつ?」と訊いて来た。
だから俺は「何が?」と実際言ってみた。
「いや、フリスク1個ずつ出せるん知らんの?」
「1個ずつ…」
「え?スライドできるんは知ってる?」
「スライド…」
「めず!多分知らんの世界でアンタだけやで」
「…」
「ちょ貸して、いい?見といてな」
カシュッ。
「な、こうやってスライドさせて」
「…」
「手ひろげて。いくで」
彼女は俺の掌の上でフリスクを振った。
3個出た。
スライドできるんはもちろん知っていた。
ただ、1個もうてええ?と言って来た彼女の掌の上で俺がフリスクを振って1個だけ出す自信がなかった。
今しがたそうだったように3個ぐらい出て、せっかく初めて喋りかけてくれた彼女の前で変な感じなってもうたらどうしようと思った。
ずっと気になっていた彼女に喋りかけられてテンパった俺が瞬時に出した答えが蓋を外すだった。
蓋を外して中身丸出しで差し出していつもこっから直接1個取ってもらってますけど?の顔をするだった。
彼女が俺の掌に転がった3個を見て、
「実はな、この出し方あんま1個ずつ出えへんねん」
はにかみながら言った。
かわいいと思ったのと同時に勝負から逃げた自分がとても情けなく感じた。
俺は手の内にある3個を一気に自分の口にほうり込んだ。
3本の矢とでも言わんばかりフリスクは強力で、情けなさを戒めるように頭の奥までスッとさせてくれた。
小細工は無しや。
緊張で手が震える?関係あらへん。
「1個出すから手ひろげて。いくで」
俺は彼女の掌の上でフリスクを思いっ切り振った。
40個出た。
ーENDー