めんどくさいオタクは『公務員、中田忍の悪徳』を読んだほうがいい的な文章
めんどくさいオタクの皆さんこんにちは!
初めまして。普段はラノベを書いたり書かなかったり、なんなら5年書かずにAPEXばっかやっている人間のクズa.k.a境田吉孝と言います
後輩から献本をもらったのでなにかしら感想を発信したいもののTwitterのツリーにぶら下げるのもあまり気乗りしないので、小粋にもnoteなどを用いて感想文とか書こうと思い立って開設に至りました。
今後更新する予定はない。
それで、こんな辺境の地にやってきてしまうオタクはマジでめんどくさいし自意識は肥大化してるし映画とかアニメ鑑賞時、現実味のない展開や変に説明調の長台詞に対しては「ねぇわwwww」ってツッコんでそうっていう前提の元話を進めるんですけどどう?
今日もフィクションに対して野暮なツッコミ入れてる?
俺は入れてる。
何故なら俺は自意識の肥大化しためんどくさいオタクだから。
朝の特撮を見れば「この国の軍隊なにしてんの?寝坊?」って言うしマーベル映画見れば「なんで異星人なのにみんな人類の色違いバージョンみたいなん?種の起源同一?」って言う。
めんどくせえ。貧しい感性で野暮なこと言うな。お前と見るコンテンツ全部おもんなくなるわ。
ラブコメアニメのモブ男子生徒が、
「アレは!学校のマドンナの○○さんだ!」
「成績優秀、運動神経抜群、眉目秀麗…その上性格もよしときた!」
「あんな子と付き合いてぇよなぁ〜」
みたいな作劇的都合をバリバリ感じさせる説明台詞を喋り出した途端に萎えるのもよせ。
もっと大らかな心でコンテンツを楽しむんだ。
お前ら(ここでいうお前らには僕も含まれます)みたいな厳しい客に向けてモノ書く時が一番気ィ使うわ。
というか、そういうダルい視座を捨てきれないから俺は全然小説が書けないんだろ。なんの話なのコレ?
さておき、今日の本題はそこじゃないんだ
『そんなめんどくさいオタクにこそオススメのラノベがある』
俺がそう言ったら…なぁ?あんた、どうする??
公務員、中田忍の悪徳(著/立川浦々 イラスト/楝蛙)
僕があらすじ説明をするのも野暮なので担当編集・濱田さんが書した神あらすじをまずは読んでくれ。
区役所福祉生活課支援第一係長、中田忍(32歳独身)。
責任感の強い合理主義者。冷酷だが誠実、他人に厳しく自分自身にはもっと厳しい男。
ある深夜、帰宅した忍は、リビングで横たわるエルフの少女を発見。忍は悟る。
「異世界エルフの常在菌が危険な毒素を放出していた場合、人類は早晩絶滅する」
「半端な焼却処理は、ダイオキシンの如く地球を汚しかねない」
「即座に凍結し、最善で宇宙、次点で南極、最悪でも知床岬からオホーツクの海底へ廃棄せねば……」
だがその時、《エルフ》の両瞼がゆっくりと開き――
イカれてんのかこいつ??
部屋に美少女エルフ転がってるの見つけて人類の滅亡までシームレスに見据えるな。
もっとラノベの主人公らしく驚いた拍子にラッキースケベ連発して某界隈の人たちに舌打ちされろ。
毒素満載見込みの冷凍エルフを投げ入れられる知床岬の身にもなれ。
ツッコミどころが過積載でこんなあらすじを書いた濱田さんがどうかしてるのか、元の話を書いた立川浦々くんがバケモンなのかもう俺にはわからん。
わからんけどとりま表紙のエルフが可愛い。
左の男は怖い。こいつが主人公・中田忍。
全体のパッケージ、超好き。強面の男と可愛いエルフ。
そしてデカデカと赤字で「悪徳」――
書店で見かけたら一旦見て見ぬふりしたあととりあえず手に取る表紙、控えめに言って良き
実はこちらの作品、第15回小学館ライトノベル大賞の受賞作なのだけれども、その応募作の途中審査を僕が担当した関係で、実際の製品が出版される前に読ませて頂いておりました。
応募作を読んだとき、作品の面白さにノータイムで選考通過を決めはしたものの、「でもコレ、パッケージングどうすんだろ…。エルフのデザインもどうするのか見当もつかん…」と素人目線ながら戦慄したけど、この表紙を見た途端に「あーなるほどこうすればいいんだ」と綺麗な正解を見せられてプロの仕事を感じた。編集さんてすげー。
ちなみに中田忍のデザインは応募作を読んでるときに頭に浮かんでた忍と驚きの100%合致。マジで文章からイメージする忍ってこんなん。
俺はもうこの主人公が怖いよ。
中田忍は『ファンタジーの都合VSリアリティライン』で作られた一級コメディ(たぶん)
冒頭から散々めんどくさいオタクdisみたいな文言を書してしまったけれど、実際にそういう作中の作劇的都合に対してエクスキューズを入れるのは作家的にもカロリーの高い作業だと思う。
小説というのは端からすべてが嘘の作り話であることが普通で、嘘だからこそリアリティから乖離する箇所は絶対に生じる。
たとえば現代の人間が異世界転生するとして、そこって現世とは全然違う成り立ちを持つ世界なわけで、じゃあそこに棲息する菌はこの地球とはまるで違うはず。
菌が違えばそんな世界に放り込まれた我ら人類が健常でいられるってあり得なくない?
そもそも、異世界のはずなのに地球の知的生命体に限りなく近似した知的生命体がやっぱりいるのはなんで?
そもそも酸素あるの? 異世界の食べ物って大丈夫? 同じ地球でも外国の食べ物どころか、軟水硬水の違いだけでお腹壊す人もいるのに?
すべてに説明をつけていくのは不可能だし、その辻褄をあわせたとして、そもそも面白さに繋がらない。だから、こういう部分に対するツッコミどころは見て見ぬフリで書くのがこの手のジャンルだし、読者だって別に気にしない。
「そういうものなんだから別によくない?」
これが、この疑問に対する完全回答。
よって、これら「物語を成立させるための欺瞞」は常に見逃されている……んだけれども、そうは問屋を卸させないのがこの作品の主人公・中田忍である。
中田忍は堅物の地方公務員であり、合理主義者であり、現実主義者、というキャラ付けの32歳。
彼の厳格さ、度を超えているが故におかしみのある生真面目さ、小うるささ、知識を披露できるタイミングを見逃さないオタク性……この主人公造形は、アニメを見て「ねぇわwwwww」って言っちゃうめんどくさいオタクのそれに似ているというか、その七兆歩くらい先に行ってる。
彼は恐らくは異世界から現れたのであろう美少女エルフと出会っても、一切ラブコメ的な反応は表さない代わりに神妙な顔で言う。
「エルフの常在菌は人類滅亡の引き金になり得る~云々」
「焼却処理では不十分。液体窒素で凍結したのち、宇宙へ処分すべき~云々」
お前、ファンタジー楽しむの下手くそか!?
でも、リアルに異世界からエルフがやってきたら、そこについては考えなきゃいけないよな……ってなる。
この堅物にしてリアリストの主人公・中田忍と、突如現れたエルフ少女(正確にはその容姿がフィクションのエルフに酷似しているというだけでエルフ的な生命体かは謎)・アリエル、この二人の異文化コミュニケーションがこの小説の基本骨子。
1巻時点ではマジでこれだけのお話なんだけど、これだけのお話があまりにも面白いし新しい。
相手は異世界出身(たぶん)なので、もちろん言葉は通じない。というか、文化圏が違うので、お互いのどんな行動や習慣が相手にとってどう見えるのかも果てしなく謎。
そんなエルフ・アリエルと同居生活を始める中田忍はかなりの苦労をしながら彼女と一歩一歩交流を重ねていく、というお話の筋が、そのまま『ファンタジーの欺瞞、或いは、作劇的都合でスポイルされがちなご都合的要素、というボケに対してツッコミを重ねていくコント』のようになっている。
『作家が面倒だし意味がないから無視する要素』とガッツリ相撲とりに行って、その様式そのものがお話になっちゃう……って発想が天才でしょ。
面白くないわけないでしょ。
立川浦々は天才。
今日はそれだけ覚えて帰って欲しい。
細かいことはいいからとにかく俺を信じて読んでくれ
普通にコメディとしても楽しめるし、玄人向きのジャンル小説としても面白い第1巻。
個人的には、この手のジャンルにある程度読み飽きてる読者に特にオススメしたい1巻かもしれない。
すごく変な味の小説だし、だからこそ新しい作品なので、『いままで味わったことないもの食べてぇ~!』ってテンションの人にドンピシャな強烈な問題作。
作家目線で言うと、キャラ立ての巧みさ、文章の上手さ、敢えて引き算しない作劇とちゃんと引き算するポイントなどなど、勉強出来るところ盛りだくさんで楽しい。そもそもあまり見ない話作りを要求される作品なので、どういう組み立てをしてくるのか、という点で面白く見られる。
更に言うなら、小説家志望の方にも強くオススメしたい。
マジで勉強になる箇所が多いし、新人賞を勝ち抜く一個の方法論として完成された1巻になっているとも思う。
正直、天才の力業感があまりにも強いのでこれで挑戦するのはオススメしないけれどもあくまでも参考として……。
とまれ、『我こそはめんどくせぇオタク!!!!!!!!!!』という自意識を持つオタクの皆様に是非是非読んで頂きたい一作でございます
それでは!!!!!!!!!!!!!
P.S.(私信)
立川くん、献本ありがと〜〜〜!!
こんなダル絡みで後輩から献本を巻き上げてしまったことについて一応反省はしている
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