忍者 夢日記2023.3.20

 城跡。
 石垣だけが残っていて、天守はおろか、やぐらも、門のひとつすら、今は無い。
 天守台とやぐら跡の間が、広い駐車場になっている。僕は忍者装束を着て天守側の石垣を登っていた。
 うちの家系は代々、忍者なのだ。何代目になるのか知らないが、僕が後を継いでいる。両親ともに亡くなり、兄弟もいないし結婚もしていないので、ひとりで忍者をやっている。
 といって、忍者の仕事が特にあるわけでなく、普段は世を忍ぶ仮の姿で働いている。そして、城跡の決して人目に付かない場所にある住居で暮らしているのだった。何の意味もないのに、よそに引っ越すことができない決まりになっているのだ。
 おーい、と呼び掛ける声が聞こえた。やぐら側の石垣の上に人影がふたつ、片方の女性が大きく手を振っている。ほかに人もいないので、どうやら僕に対してらしい。石垣の途中でそちらをよく見てみると、小中高と同じ学校だった女性だ。
 僕は忍者の家に生まれたことで、正体を隠さなければいけない関係上、なるべく人と仲良くするなと教育されて生きてきたので、友だちと呼べるような相手はひとりもいなかった。しかし、なぜか彼女だけは、どんなに無愛想にしても親しげに話しかけてきた。懐かしい思い出だ。
 ほかの地方の大学に進んで、そこで就職もしたと風の噂で聞いていた。もう何年も会っていないのに、僕のことを覚えていたのか。
 急いで石垣を登り切り、手を振り返した。
 彼女と一緒にいるのも見覚えがある女性だった。このふたり、子どもの頃から仲が良かったのを思い出した。
 あんなやつほっといて行こうよ、と腕を引っ張られて、手を振りながら去っていってしまった。

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