#16 常磐精工株式会社
今回は看板やアルミフレームを使ったプロダクトを開発されている常磐精工株式会社の取締役営業部長 喜井翔太郎さんにお話を伺いました。商品への想い、将来実現したいことはどのようなことなのでしょうか。
堺市で盛んな賃加工業で事業をスタート
弊社は様々な会社が起業していた終戦後の昭和39年(1964年)、祖父が創業しました。当時堺市は金属加工業や賃加工業が中心で、弊社も産業用機械の駆動部に使われるベアリングを作る町工場としてスタートしました。
町工場ですから、親会社が指定する設計書通りにベアリングを製作するという形でした。しかし、なかなか安定した売上を得るのは困難でした。親会社は弊社以外にも複数の工場を持っているため、最も安く最も早い工場が優先されてしまうんです。中には中国の工場もあったので、どれだけ頑張っても中国の工場の圧倒的な安さとスピードには敵いませんでした。
売上を上げるために父も家業に戻ってきたのですが、子どもながらに「忙しいんだな」ということはわかっていました。遊びに行った記憶もほとんどなくて、弟と祖母の家で過ごしていたことを思い出します。
売上がなかなか上がらない中、昭和58年(1983年)に祖父から父へ代表が交代となりました。交代から数年後、部品を製作して親会社に納入するサプライヤービジネスから、自社製品の開発・販売を行うメーカーに転身しました。
祖父から受け継いだ技術をアウトドア業界・看板サイン業界へ
メーカーに転身して最初に作ったのが、アウトドアで使うペグです。ペグとは、アウトドアのテントなどを設営する際に、ロープを地面に固定するための杭のようなものです。祖父がはじめた賃加工や切削加工の技術を使って製作しました。
また、アウトドアで使用する金属の棒を自立させる脚部の構造も製作しました。具体的には、テントの天井部分であるタープを立てるためのポールを支えるものですね。脚部構造は特許を取得しました。他にも、お葬式会場に置かれている生花スタンドもつくりました。
今は看板サイン事業を行っているのですが、この生花スタンドの製作がきっかけでスタートしたんです。葬儀業界と取引していると、お葬式会場にある案内看板も必要だなと考えるようになったんです。そこで、生花スタンドだけでなく、看板もつくるようになり、2001年には看板サイン事業に参入するようになりました。
考えれば、四半世紀ほど看板サイン業界で看板づくりに取り組んでいますね。今では、自立型スタンド看板の生産量が国内1位になるほどになりました。カフェ前に看板が置いていたり、商業施設にフロアガイドの看板が置いていたり…、街ではさまざまな看板を見ると思うのですが、そのうち10台に1~2台は弊社の商品であるほど広いシェアを誇っています。
弊社の看板の強みは、安定して高品質な商品を供給できることです。海外製品はどうしても傾き具合が異なったり、納期が不安定だったりと、安定した供給が難しいんです。弊社は自社工場を持っているため、安定して供給することはもちろん、高品質で提供できます。また、1台からオーダーメイドも可能なので、多くのお客様にご評価いただいています。
社会に貢献できるものを作りたい
看板サイン業界は、アートな分野から参入する会社が多いため弊社のようにものづくりの業界から参入することは結構珍しかったようです。でも、逆に言えば珍しさって強みになると思うんですよね。
2016年に、大阪公立大学と新たな製品を共同開発しました。弊社の賃加工と切削加工の技術を活かし、普段は看板として使用し、緊急時には担架として使える「サポートサイン」をオリジナルアルミフレームで製作しました。看板という商材を使って社会貢献がしたい想いが形になった瞬間でした。
令和3年(2021年)には「堺市ベンチャー調達認定制度」にサポートサインが選定されました。新しいプロダクトの開拓を行った会社を認定し、販路開拓を支援する制度です。堺市の公園事務局や図書館に加え、西日本で最も大きい堺市総合防災センターにも導入いただきました。堺市総合防災センターは行政の方や防災に関心のある方が来られる施設です。その場所に導入いただけたことは、サポートサインの拡大の1歩だと思いますね。
私たちは、将来的にサポートサインがAEDと同じ認知度になることをめざしています。AEDが出てきたころは、配置されている場所も使い方を知っている人も少なかったと思います。でも今では自動販売機や駅など多くの場所に置かれていて、多くの人が使い方を知っている。サポートサインがさまざまな場所に置かれて、緊急時に誰でも使えるプロダクトになるよう、普及していきたいと考えています。
アルミフレームを身近に感じてほしい
現在は、看板に使用している軽くて錆びないアルミを利用し、事業やブランドを生み出し、新たなものや価値を提供していく「ATTATOSA FACTORY」の運営を行っています。今年8月には、応援購入サービス「Makuake」にて、「TABLEX(テーブレックス)」という商品がデビューしました。
TABLEXとは、アルミでできたプロダクトです。机にも椅子にも、棚にもなる。アルミパイプの可能性で遊べるよう、今までになかった使い方や拡張性のあるプロダクトを製作しました。クラウドファンディングでは、200万円以上応援購入していただけました。
とはいっても、私たちがめざしているのは、アウトドア業界への参入ではありません。看板やサポートサイン、TABLEXに使用している「アルミフレーム」を拡げていきたいと考えています。TABLEXはモデル商品です。TABLEXを購入してくれた方がアルミフレームの可能性に気づいてくれたらなと。
DIYをする方が増えたと思うんですが、アルミを使ってDIYする方って少ないですよね。もしアルミフレームを渡されたとしても「どうやってDIYするの?」って感じると思うんですよ。そこで、TABLEXをお手元にお届けすることで、「アルミフレームは軽いのに頑丈で、簡単に組み立てできるんだ」「アルミフレームでテーブルを作れるんだ」「棚にもなってアウトドアでも日常生活にも取り入れられるんだ」のように感じてもらいたいと考えています。
新たな価値の拡大には難しさも
看板づくりやサポートサインづくり、ATTATOSA FACTORYの運営…。さまざまな事業を展開していますが、やっぱり苦労も多いです。例えば、サポートサインの普及が難しいなと感じます。販売開始した当初はすごく多くのメディアに取り上げてもらいました。しかし、ものすごく普及したか、飛ぶように売れたかと言われたら、そうではありません。展示会やイベントに出展しても、魅力を感じてもらえたとしても購入にはなかなか結びつきません。今まで世の中になかった新しいものだからこそ、提案して普及していくのは本当に難しいですね。
また、新たな事業ATTATOSA FACTORYでも苦労があります。これまでは企業向けに商品を発売していました。なので、ATTATOSA FACTORYで発売したTABLEXは初めての個人向け商品でした。新しい商品を作ることももちろん難しいですが、個人向けに販売するためにどのようなブランドを作ればいいのか…。とても難しいですね。
困難に感じることは多いですが、新たな価値を広めるのも私たちの役割です。興味を持っていただいた個人・企業の方と直接コミュニケーションをとって、商品の魅力を伝えるように心がけています。
例えば、文章や写真などを投稿できる「note」というサイトで情報発信したり、SNS広告を使って直接ユーザーとコミュニケーションを取ったり。SNSでつながった教授の方など、情報発信をしてくれる人も探しています。直接販売してくれる人じゃなくて、情報発信してくれる人と直接コミュニケーションを取ることが大切だと考えています。
社内から事業を盛り上げたい
新事業をはじめるとなると、経営者層だけが取り組むようなイメージがあるかもしれません。私は社内全体で事業を盛り上げたいと考えています。社内に新事業への思いが浸透したら、社内から社外へどんどん広がっていくのかなと思うんです。
社内から社外へ広げるのは簡単ではありません。そもそも従業員に「作らされている」という意識があると、社内でも新事業やプロダクトへの思いが広がりません。看板を購入するのはほとんどが企業ですから、従業員自身も看板を身近に感じられないと思うんです。しかし、今は個人向けに作っている商品があります。身近に感じられて、友人や家族に「こんなもの作ってるんだよ」と話せるようなものだったら、自発的に考えられるような体制が取れると思うんです。
実際にそのような体制が進みつつあります。TABLEXの開発の中で社内のデザイナーやSNS運用の担当者を外部とのミーティングに参加させてみたりすると、自主的にホームセンターでパーツを購入して、新たな案を提案してくれるんです。目に見える変化があるのは本当に嬉しいです。0から1の仕事ができるよう、私もエネルギーをもって従業員を引っ張っていきたいです。
また、今年はインターンシップを積極的に取り入れています。学生さんに事業への思いや製作に触れてもらうことで、「ものづくりさせられている」のではなく、「ものづくりをしている」という楽しい感覚になってほしいですね。オープンファクトリーも実施しているので、楽しさを感じてもらえればと思います。
子ども向けのイベントも開催しています。ワークショップとして、地域のお子さまに商品開発体験を通してものづくりの楽しさを知ってもらえると嬉しいなという気持ちで取り組んでいます。
堺市からものづくりの楽しさを広げたい
今後も堺市から看板やサポートサイン、そしてものづくりの楽しさを広げていきたいと考えています。オープンファクトリーやワークショップを行うことで、それらが広げられるのではないのかなと。「FactorISM」という八尾市を中心に堺市の商工会議所も参加しているコミュニティがあるのですが、そちらにも参加させていただいています。
そのコミュニティでは、工場で出る残材を使ったアートイベントを行っています。看板を作っていると、どうしてもアクリル板の切れ端が残材となってしまうんです。新たな看板を作れるほど大きなものではないため、どうしても捨てるしか方法がありませんでした。なんとか再利用できないかと考え、アートイベントを開催しています。1日100名程度の方にご参加いただき、ものづくりの楽しさを感じてもらえているのではないかと思っています。
また、SNSで「看板づくりの残材のアクリル板が欲しい人はいないか」と呼びかけたところ、想像よりも多くの方に反応いただいたんです。私たちが残材だと思っているものが、フィギュアのカバーやアクセサリー、基盤作りなどに使いたいと思ってくれる方がいたんです。このようなイベントを通して、堺市からものづくりを広げて行きたいですね。
弊社の中長期的なビジョンは、商品を通してものづくりの楽しさを拡大していくことです。楽しさだけでなく、奥ゆかしさも広げていきたいと考えています。
ものづくりや製造業って、身近なものではないと感じている人が多いと思うんですよ。実際に弊社に入社した従業員は「製造業には興味あったけど、自分がそれに携われるとは到底思わなかった」と言っていました。営業や事務として関われたとしても、工場に入り製造業に直接携われるとは思ってなかったと。
その理由は製造業やものづくりのイメージにあると思うんです。最近のテレビなどのメディアでは、「誰にも真似できない匠の技術」が放送されているじゃないですか。その技術ももちろん素晴らしく、ものづくりへの憧れを抱いてもらうにはすごくいいと思うんです。ただ、仕事にするというイメージがつかないのではないのかなと。
そこで、弊社のアルミフレームでものづくりや製造業に興味を持っていただければいいなと考えています。「こんなに簡単に棚が作れるんだ」「電動工具やハンマーがなくても六角レンチだけでDIYできるんだ」と思ってもらえるといいなと思います。アルミフレームでのものづくりは、量販店の家具を作るより簡単です。
プラモデル作りなどの感覚で製作できるのがメリットだと思います。〇〇専門の商品ではなく、机や棚、椅子にもなるという拡張性のある商品なので、楽しんでいただけるはずです。また、作り方の動画も出しているので、女性でも「やってみようかな」と気軽な気持ちでスタートできるのもメリットだと考えています。
今後も現在の商品を堺市から広げることはもちろん、家庭向け・オフィス向けなど商品の裾野を広げて発信していきます。
ものづくりへの意識が変わるお話でした。より多くの人がものづくりの楽しさを知ったり、社会に貢献できるプロダクトが開発されたり…今後も常磐精工株式会社に期待です。
堺市イノベーション公式Instagram
【堺市イノベーション】(@sakai_innovation) Instagram写真と動画
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?