#02 Rehabilitation3.0株式会社
リハビリテーションというと、怪我や病気によって日常生活で支障をきたした部分を回復させるというイメージが強く、健康的な人は自分とはあまり関係のないことだと思う人も多いのではないでしょうか。
そんな今までのリハビリテーションのイメージを覆すサービスが誕生しようとしています。
Rehabilitation3.0株式会社はSAA(Sleep Activity Assessment)システムという、睡眠情報から運動能力と認知能力を推定するAIを開発しました。
そして、このサービスによるリハビリテーション技術とテクノロジーを用いて、子どもから大人、高齢者、全ての人が自由な生活を送りながら健康な未来に向かう社会をめざしています。
では、SAAとはどのようなサービスなのでしょうか?そして、サービスに込められた想いとは?
代表取締役の増田浩和さんにお伺いしました。
一人ひとりに合ったヘルスケアを
私は、リハビリテーション専門職の作業療法士として、18年間従事してきました。
リハビリテーションとテクノロジーを掛け合わせた全く新しい技術で、健康な未来をすべての人に提供したいと考えています。
弊社が開発したSAA(Sleep Activity Assessment)システムとは、睡眠時バイタルから日中の運動能力と認知能力を推定できるAI技術です。強みは3つあり、まず利用者は睡眠のバイタルを測定するだけで健康状態を知ることができる簡便さ、2つ目は、睡眠を測定するデバイスは、ウェアラブルでもマット型でも何でも対応可能な汎用性の高さ、3つ目はセラピストと同じように120万通りの中からその人に合った健康増進法を提案してくれる個別性の高さです。
リハビリテーションは、予防医療として3つの要点があります。
1つは早期回復。
ケガや病気などを患った際に原疾患の回復だけでなく、運動能力や認知能力も向上させてできるだけ早く元の生活にもどりましょう、という考え方です。これは皆さんがイメージしやすい、まさにリハビリテーションだと思います。
次に、早期発見
早期発見は、例えば高齢者が転倒する際、かなり前から足腰が弱っていたり、認知機能が低下している場合が多いので、その状態をできる限り早く発見して、転倒予防につなげたいという考え方です。フレイル(虚弱)予防も同じで、弱り過ぎて回復できなくなる前に、弱り始めたときに適切な対処をして元気になってもらおうということです。
また、MIC(Mild Congnitive Impairment)軽度認知障害のように、認知症と診断される10年も前からごく軽度な症状がでていることがあるんです。その症状は我々作業療法士が1カ月に一度30分評価して、ずっと経過観察すれば発見できるものです。
しかしながら、まだはっきり症状も出ていない時にそれだけの時間とコストをかけるのは難しいと思います。
でも、SAAを使えれば、毎日寝ている間に自動的にセンサーで測って記録して、データをもとに判断できると、すごく手軽に推定できると考えています。
最後に、健康増進、ヘルスケアの考え方です。
そもそも、病気を患ったりけがをしないように健康増進をすることがすごく大事だという考え方です。
これまでの臨床現場では、対面で関わってきて目の前の患者さんには早期回復や早期発見にそれなりに寄与できたと感じています。でも、『健康増進』はほとんどできていない。これは社会保障制度が存在しないため、公的保険で提供できないことが大きいと思います。
私たちセラピストが自費で関わるととても高価になってしまいます。
フィットネスジムなどで運動をする方は多いと思いますが、『自身の最適なプログラムは何か?』わからないと思うんですね。
そこで、SAAを使ってもらえば、その人の状態を正確に推定することができ、正確な健康状態に合わせた最適な健康増進方法を提案することができる、さらには、場所や時間を問わずに世界中の人にサービスを提供することができる。しかもアプリなので格安です。
このように、ヘルスケアに対してもリハビリテーションとテクノロジーで解決していくことをめざしています。
患者さんから教えてもらったことは正しかった
私は小学校1年生の頃からおばあちゃんに育ててもらったので、おばあちゃんこなんです。なので、物心ついたときから、おばあちゃんの力になりたいという想いがあって、なんとか恩を返せないだろうかというのがずっとあったんですね。
人が好きで、動物も好きで、そして何が一番おばあちゃんの力になれるだろうと考えていた高校生の時に、資格の本を読んでいて作業療法士が目に止まったんです。
そしてリハビリテーションを知れば知るほどすごく楽しくて、これは人生をかけて突き詰めていける分野だと思ったんです。
10年前に株式会社リハビリプラスという在宅医療の会社を起業しました。セラピストや看護師と地域医療に携わる中で、8年ほど前に患者さんの立ち上がるとか寝返るとか、ひとつの動作を見るだけでその患者さんの運動能力や認知能力がおおよそわかるようになってきました。
これは、私だからというわけではなく、相応の経験を積んできたセラピストはみんな同じことを言うということに気がついたんです。
ある時、確信を持ったのが、私がある患者さんのひとつの動作を見て、別のスタッフが同じ患者さんの別の動作を見て、私たち二人ともがあたかもその患者さんをずっと見ていたかのように、この患者さんはこうだねとコミュニケーションできたんです。その時、私たち二人の頭の中には患者さんの情報が綺麗にカテゴライズされていて、整理されているということを実感しました。同時に、この情報を定量化できたら、数値化できたら、AIで推定することができるかもしれないなと思いつきました。
そこからAIを勉強し始めましたが、勉強するといっても専門書を読んだところで、何を書いているかなんてわかるわけもなく、まずは雑誌などを見ながら一般的にAIってこうだよというようなことから入って、少しずつ理解していきました。
人を数値化するというのがひとつのリハビリテーションの切り口であって、専門性でありました。
数値で記録を取っていかないと、患者さんの経過がわからないんです。
昨日と今日、何がどう変わったかということを、必ず数値で取っていく職業なんです。
筋力も5段階で各筋肉を評価する。バイタルも血圧も数値ですよね。
この数字というのは今までの知見で自信はあったんです。
ただ、当時、8年前というとスマホも目新しいくらいの時代で、情報を集めるためのセンサーというものが何もなかったんです。
なので、何をしたら実現できるかもわからなかったんです。
でも、4年前に医療機器の展示会に行って、ちょうど睡眠センサーが流行り出した頃で、その当時で実際の心拍数や呼吸数をほぼ同じくらいの精度で取れることを体験しました。
その体験から、何かが自分の中で生まれそうで、一週間くらいずっと考えていたんです。
そして、あるときオフィスで一人で考えていて、ハッと思いついたんです。そこから数十分で仮説を書き上げることができて、この数値とこの数値をこう掛け合わせたらできるぞ!と自信のあるものが出来上がったんです。
そして、私はこの仮説を色んな人に言って回りまして、こんなことできるわけがない、君にできるわけがないと言われたこともありました。
でも運がいいことに、同じく作業療法士で事業をやっている人が知り合いにいて、その人が来週NTTドコモの役員の人と会うときに、何か面白い事をやっている人を紹介してほしいと言われているから一緒に来ないかって言われて。そして、直接ドコモの役員にプレゼンすることができ、そこで興味を持っていただいて。
ちょうどそのとき、ドコモもスマートハウスというプロジェクトを立ち上げていて、ひとつの家の中に、当時手に入ったセンサーを全部入れて、人に住んでもらっていたんですね。
でも、その情報をどう使ったらいいかわからないでいて、そこにちょうど私の仮説が飛び込んできたのでこれをやってみようと言っていただけました。
そこから私の仮説が正しいのかをドコモのAIスペシャリストと検証して、実際私が立てた仮説はそのまま採用されて、とても順調に開発が進みました。
それがすごい嬉しくて。
私たちは常に患者さんから学んで、技術って患者さんから上がってくるんです。その、患者さんから教えてもらったことが正しかったんだ。
そしてリハビリテーション医学を学問として重ねてきたことが間違いではなかったんだ。
ということが実証されて、それが本当に嬉しかったんです。
人に救われ、恵まれた
もちろん良いことばかりではなくて、楽しいからやってこられているというのはありますけれど、やはりスタートアップで、新しい事をやり続けないといけないというのはしんどいことではありますよね。
資金面に苦労することも多いです。
Rehabilitation3.0で私は一切今まで給料も取れていないですし、作業療法士として患者さんを診ていたら私も売上が立ちますけれど、それもゼロになるので、マイナスですよね。マイナスマイナスですけれど、よくやってこられたなと思っていて。
でも、そういうときに救世主は現れるんですよね。
元々、リハビリプラスの顧問弁護士だった西田がRehabilitation3.0の取締役に加わってくれているんです。
というのも西田が私の話を聞いて「これはすごいよね。増田さんが本気になってやっているってよく伝わるし、可能性を感じるから手伝わせてほしい」と言ってくれて。
西田が入ってくれたことで、大企業に対しても譲歩せずにしっかりと契約が結べるようになり、やり取りを担ってくれたので、すごく助かりました。
ずっと手伝ってくれていた白井という理学療法士もいて、その人にもすごく助けられていて、今では主要メンバーになってくれています。
また、アクセラレーション(ベンチャー企業が成長するための支援プログラム)を通じて出会った税理士の方が顧問についてくれて、そんなひとつひとつの積み重ねでまた息が続く。
そうするとその間にいろんな実証実験を進めることができるので、どんどん結果も出てくる。
令和3年度には堺市スタートアップ実証推進事業にも採択されました。
ひとつひとつの結果が信用・信頼になり、ベンチャーキャピタル(スタートアップに出資する投資会社)に対しても有利な条件で交渉を進めていくことができ、本当に助けられています。
言語化できない人たちの体調を言語化できる
私たちが開発したAIはまだ全ての人に対応できるようには組めていないんです。病院と介護施設はだいたい同じなんですけど、それが在宅の高齢者ってなるとまた別の学習モデルを作るんです。
システム自体は応用が効くので、順番に作っていくんです。
安静な状態の情報を一番安定的に取れるのは寝ている時なんですが、人によって寝る時間って違いますよね。
寝具も人によって枕の高さとかベッドの硬さとかが違う。
でも、病院や介護施設であれば、消灯時間が決まっていたり、ある程度使っている寝具が同じだったりするので、変数がなく、AI開発にすごく有利だったんです。
なので、その安定した情報からコアな部分を作れば、そのノウハウをもとに在宅医療のような変数が多いところにも応用できます。
そのように、次は在宅の高齢者、そして在宅の成人、そこからプロスポーツ選手や子どもたちに応用していきたいと思っています。
子どもたちにもすごく可能性があると思っていて、例えば、今でも保育園でお昼寝中に異常がないかを確認するためにバイタルをセンシングする取り組みは行われていますが、それでは足りないと思っていて、子どもたちをセンシングすることで、将来的に運動能力や認知能力、そして精神状態なども推定できるようになると思っています。
そうすると、子どもたちの睡眠の質やそもそもしっかり寝られているかどうか、ストレス状態もわかるようになって、それによって虐待の抑止のようなこともできるのではないかと思っています。
他にも、子どもっていきなり熱を出したりすることがありますが、よく見ているとそれっていきなりではないと思うんです。ちょっと前から体温が高くなっていたりするんですよね。
よく知恵熱とかって、昔から熱出したら賢くなるって言いますが、子どもって成長ホルモンが出ている時に体温が上がるんですよ。
体温が上がると汗をかくから、暑くなって布団を蹴ったりして。その結果風邪をひいたりすることも多いんです。
なので、SAAシステムを使うと、体温の上がり具合によって成長ホルモンが出ている時期がわかったり、風邪をひきやすいタイミング、そして熱を出すタイミングが数日前にわかるようになるのではと思っています。
そうすると親御さんが会社に事前に相談することができたり、子どもを預ける場所を事前に相談できたり、親御さんの精神的な負担も減らすことができる。
さらには、子どもたちの健康に関われるということは、子どもの教育にも寄与できるとも思っています。
このように客観的なデータを定量的にモニタリングできることで、高齢者、成人はもちろん、子どもたちのような言語化できない人たちの体調や精神状態も言語化することができ、それによって負担が軽くなる人もいる。
このように私たちの核となる技術には多くの可能性があって、人はもちろん、社会全体が健康になる未来を描くことができる、そう考えています。
Rehabilitation3.0株式会社HP
Rehabilitation3.0株式会社(リハビリテーション3.0株式会社)
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