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今回は、西区津久野町にあるPain de Singe 門田 充さんにお話を伺いました。Pain de Singeといえばとびばこパン。そんなイメージを持つ方が多いと思いますが、実は地域の方々への想いが強いパン屋なのです。

5年間仕事をする中で気づいた、私が本当にしたいこと

私は建築系の大学卒業後、フリーランスで主にホームページ制作を行っていました。建築系とは言っても、デザインをすることが好きだったんです。
フリーランスで仕事をする中で、お世話になっていた社長さんに「上海で飲食店をオープンしたいから、設計してくれないか」と依頼をいただきました。
正直店舗設計の経験や知識は十分ではありませんでしたが、「店舗に訪れるお客様に非日常でスペシャルな気持ちを感じてもらいたい」と依頼を受けました。大学で学んだ建築の知識を活かしてデザインをするのは楽しかったですね。

でも、店舗設計・デザインを進める中で痛感したのは、技術力不足。
もっとデザイン力を高めたいと感じ、憧れのデザイナーさんが営むデザイン事務所で働かせていただくこととなりました。憧れの方から学ぶことはたくさんありましたが、働くにつれて「私がしたいのはこれじゃない」と感じるようになったんです。そのデザイン事務所のクライアントは一等ビルや商業施設を建てるような大手企業でした。
デザイン事務所ではそのような企業の方としか会う機会がなく、居住する方や商業施設に訪れる方とは関わりがありません。デザイナーと建物を体験する人との距離が遠いことに大きなジレンマを感じてしまいましたね。

また、大きなお金が動く世界で、それも私に合っていないんだろうなと思います。私の中のデザインは、“カジュアルで自由気ままなもの”なんです。

幼い頃って親に描いた絵を「見て見てー!」って見せるじゃないですか。

目立ちたがり屋なので(笑)、その延長線上でデザイナーを志したんですよね。だから、「“カジュアルで自由気ままなもの”を生み出せない」とデザイン事務所を退社しました。

「“カジュアルで自由気ままなもの”を生み出したい」という気持ちはあっても、退社したのは30歳。息子は小学校に入学するタイミングで、経済的に厳しいところがありました。気持ちもすごく沈んでいましたね。

そんな時、妻がよく通うパン屋さんに求人が出ていて、冗談半分で妻と「働いてみる?」と話していました。
話したり自分で考えたりする中で、「自分のアイデア次第でビジネスを広げられるクリエイティブな仕事で、エンドユーザーに近い仕事…、ひょっとしたらいいのかもしれない」と考え、次の日にはパン屋さんに電話していました。
「パンは作ったこともないけど教わりたい」「3年後には独立したい」と恥ずかしながら店長さんに話すとなんと快諾してくれたんです。3年で独立するのはおそらく最短コースなので、十二分の覚悟をもって知識とスキルを身につけました。



Pain de Singeをオープン、とびばこパンが看板商品に

2012年、「Pain de Singe」をオープンしました。オープンまでは3か月の準備期間があったんですけど、子どもたちの卒入園や入学、引っ越しが重なって本当に大変でしたね…。
そもそもパン屋を営むとしても、知識を学んだのは3年間ですから、何十年もパン屋を営む方には敵いません。
だからこそ、オリジナルで唯一無二のパン、そして私のバックボーンであるデザイン知識を反映できるものをつくろうと考えました。そこでとびばこパンにたどり着きました。

実は、息子がとびばこを飛んでいる姿を見たところから着想を得たんです(笑)。パン屋で修行しているとき、ネタ帳を書いていたんですよ。
働いている中でパッと思いついたアイデアをメモしていたんです。見返してみたら“とびばこ”の文字。「アイデアの中で1番パンにできるかも!」と製造することにしました。

そして2015年、SNSを中心にとびばこパンが話題になりました。
当時SNSブームが来ていたので、なんとなくInstagramにとびばこパンをアップしたんです。
Instagramって食べ物をチェックする方が多いじゃないですか。だからパンをアップしているお店はたくさんありました。その中でとびばこパンが話題になったのは、写真だけで「Pain de Singeのパンだ!」ってわかるからだと思います。

ビジュアルが特徴的でオンリーワンのものだったので、普及したのかもしれないですね。話題になっていることをキャッチしたバイヤーさんから声がかかり、「阪急パンフェア」に出店させていただくことに。
しかも、イベントのメインビジュアルに選んでもらいました。電車のつり広告にも情報番組にも取り上げていただき、多くのお客様に購入していただきました。

お客様と働くスタッフのため、冷凍パンが誕生

阪急パンフェアに出店させていただいた後、他の百貨店からもお声掛けいただき、様々な場所でとびばこパンを販売していました。

しかし、Pain de Singeは個人店。作る量も人手も限られている中で頑張って拡張していっているような感じでした。
話題になったパンを見て「ここで働きたいです!」と地方の方が来てくれたんですが、追い付かない製造に振り回してしまい、1年でやめてしまいました。あんなにキラキラした目で働きにきてくれていたのを思うと、本当に罪なことをしたなと今でも後悔しています。パン屋さんの環境を変えなければいけないと強く想いました。
朝から晩まで働くパン屋の環境を変えて、地元の人が気軽に働ける場所にしたかった。また、パンは日常的に食べるものだから気軽に買えるものにしたかった。そこでたどり着いたのが、「冷凍」でした。

とある方に聞いたんですが、東日本大震災が起こった時、缶詰工場の社長がスタッフに「いつ働きにきてもいいよ」「働きたい時にだけ来てください」と言ったそうなんです。
それって究極の働き方だと思いませんか?朝から晩まで働くんじゃなくて、朝の数時間だけ・子どもの迎え時間までなど、さまざまな働き方ができる。私の理想の働き方だなと思いましたね。

また、缶詰は賞味期限が長いですよね。だから、ある程度の量を貯蔵し、必要に応じて出荷・製造を行います。曜日によって売り上げ量も異なりますから、これもまた、私の理想形だと思いました。スタッフの働き方も安定しますし、パンの製造量も安定します。パンにも冷凍技術を取り入れれば、私の理想のパン屋が完成すると感じたんです。

新型コロナウイルスの影響で店舗を閉めざるを得ない時、困難を逆境に変えるような形で「急速凍結機」で製造する体制に切り替えました。「急速凍結機」で焼き上がったパンをすぐ凍結させます。
焼き立てパンから出る匂いや湯気によって、徐々に劣化していくんですが、焼き立てパンをすぐに凍結させることで美味しさが逃げ出さないようにしています。
おそらく多くの人は、冷凍パンはパサパサというイメージをお持ちだと思うんです。また、冷凍パンって貯蔵目的だと感じる方もいるかもしれません。しかし、急速凍結機はパサパサになりませんし、普通のパンよりクオリティの高いものだと自負しています。
水や小麦粉などの材料配分を考え、通常のパンより潤った状態にすることで、常温で1日置いたパンよりしっとりで美味しいパンとなりました。

さまざまな取り組みで、楽しく働ける場所に

先ほどPain de Singeで働くスタッフの話に触れましたが、今店舗で働くスタッフって地元の方ばかりなんですよ。

2時間だけ働く高齢者の方もいれば、昼から働く主婦の方もいる。週に数回働く方もいます。そうすると、材料の量や水の量などが変わった部分の共有が難しいという課題を見つけました。
そこで導入したのが、アプリです。レシピをデータ化し、アプリに入力することで誰でもレシピを確認し、作業できるようになりました。
また、在庫管理・入出庫管理も行うことで、製造スケジュールを決めやすくなっています。

もっと迅速にスケジュール管理ができれば、シフトの調整や仕入れ予定も組みやすいですし、経済的にも健全です。今後もアプリを活用していきたいと考えています。



また、アプリ以外にも、スタッフに楽しく働いてもらうためにいろいろなことを取り入れています。たとえば、材料棚には動物のシールを貼っています。
「○○どこにありますかー?」「ゾウー!」なんて会話は日常茶飯事です(笑)。ほかにも、整理や掃除に役立つ製品を提案してくれたりするんですよ。
そういう意見を取り入れて、楽しく仕事ができるようにしています。小さなことかもしれませんが、スタッフのモチベーションって変わってくると思いますね。

「パンは、日常」を提供するために

私は「パンは、日常」と考えています。

非日常なパン「とびばこパン」は看板商品ですが、地元の方からすると日常的に食べられるパンを求めているんですよね。
とびばこパンに注目が集まると、「昔はかわいらしいお店やったのに、百貨店だけに力入れてるんか」と地元の方が思うのも当然だと思うんですよ。

堺市のお店として地元の方に愛されるパン屋であるため、「日常」であるパンを提供するため、日常的に食べられるパンも20種類ほど提供しています。もちろんこのパンにも冷凍技術が施されています。
5日にわけて4種類の焼き立てパンを提供することで、製造計画も細かく立てられるようになってきています。この計画を確立して、お客様に情報発信していきたいですね。
「何時に○○パンが焼き上がります!」と発信すれば、焼き立てパンを求める方が買いに来てくれると思うんです。

焼き立てパンと冷凍パン、2パターンのパンを提供するハイブリットの形にすることで、焼き立てをすぐに食べたいお客様・購入して保存したいお客様それぞれのニーズにこたえられると考えています。
冷凍技術を取り入れて数年たちますが、ようやく1番大切な地元のお客様に堂々と商品を提供できるようになってきたと感じています!



とびばこパンで一躍有名になったPain de Singeさんですが、地域の方々のニーズも、とびばこパンを求める方々のニーズも叶える素敵なパン屋さんだなと感じました。「パンは、日常」という言葉をもとに、冷凍技術を施したパンを提供するPain de Singeさんに、今後もわくわくが止まりませんね。


Pain de Singe
Pain de Singe ::: 大阪 堺のとびばこパンのお店「パンドサンジュ」


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