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大阪にはたくさん製造業の事業所があります。

しかし、年々数は減り、2010年に20,000ほどあった事業所は2020年には15,000ほどとなってしまいました。

優れた技術を持ちながら、廃業してしまう企業も多い今の製造業ですが、技術を活かして世の中に無い新しいものを数々生み出している企業があります。

株式会社浪速工作所は製造業として、優れた技術の継承、そして新たな製品の創造から、新たなビジネスモデルまで作りだそうとしています。


老舗の鉄工所が世に知ってもらうためにできることとは?

優れた技術を継承するには?


代表取締役の谷本和考さんにお伺いしました。

広い視野と確かな技術

弊社、浪速工作所は昭和21年創業の主に金型を作る企業です。

水道管をつなぐ継手というプラスチック製品を製造するための金型から設備一式を作っています。

水道局から私たちの家まではパイプを繋いで水が運ばれています。

昔はパイプ同士をボンドで接着して繋いでいくことで水を運んでいましたが、1973年にヨーロッパのアンガー社がゴムのリングを使い、差し込むだけでパイプをつなぐ工事ができるようになる技術を展示会で発表しました。

それを父が知り、1台の設備を輸入し、同じものを製造しました。

しかし、ヨーロッパと違い日本には地震があります。

そこで、地震にも耐えられるように形状を変え、スーパーゴムリングNAを開発。

さらに地震の縦揺れだけでなく横揺れにも対応できるよう伸縮代をもうけたスーパーゴムリングロングNAという商品を開発しました。

阪神大震災でも割れなかったパイプを製造し、実績を積み、日本の水道技術の発展に貢献してきました。

加えて、弊社は77年の間に3,000以上の商品を開発しています。

ほとんどが世界初と言われるもので、例えばヤクルトの容器を作るための設備、生産ラインは3代目の父が開発しました。

2018年には自社商品の開発に着手し、現在もさまざまな商品開発に取り組んでおります。

お客様の課題を解決する企業から、社会課題を解決する企業へ。

我々の技術で全く新しい商品の開発、そして世界中を笑顔にという思いで日々取り組んでいます。


技術を活かした自社製品の開発へ

弊社は、私の曽祖父が会社を立ち上げまして、私の父で3代目、私が5代目です。

古くは賃加工(企業から依頼されたものを、設計図通りに製造すること)を行ってきました。

しかし、私の父が会社を継ぐときに、ヨーロッパの工場見学を熱望し、海外へ行くのは容易では無い時代でしたが、大金を積んでヨーロッパへ渡りました。

1ヶ月ほどバックパッカーでたくさんの企業を周り、その中で日本とヨーロッパの技術の差にショックを受けたそうです。

同時に、日本の技術がヨーロッパに追いついたとき、技術力のない会社は淘汰されると思い、賃加工をやめて、自社で図面をかき、設計したものを作るという体制に切り替えました。

その時から、かなり先を見越して、図面を書いていろんなものの開発に取り組みました。

そして私が社長に就任し、2018年からは技術力をさらに活かすべく、自社商品の開発に着手しました。

例えば、

・今まで粉体にできなかったものを粉体にできるようにした「エヌジェットミル」

・小ロットでも誰でも簡単に缶詰が作れる缶詰製造機「CANメーカー」

・足場の落下事故を防ぐための施工方法「アンカーベ」

・安全安価なろ過装置で経済産業省の『第8回ものづくり日本大賞』を受賞した「クリアーノ」

2年間でさまざまな社会課題の解決に取り組んできました。

さらに、最近開発したのが

・職人の技術を可視化し、AI と職人の技術を融合した新しい装置「振動大臣」です。

また現在は、

・セミの羽から着想を得て、形状による抗菌の作用を持った素材「セミプラ」

を開発中です。


会社を継いで、新たな一歩を

弊社は家族代々受け継いできた会社なので、もちろん社員はいますが、家族経営的なところがあって、小さな頃から父が仕事をしている姿を見て育ちました。

私自身、小学校2年生の時から人手が足りないから手伝うように言われ、工場で機械を触ることもありました。

父もすごく働く人なので、正月もお盆も返上で働いていて、母は苦労したと思います。

そんな母の苦労も見ていたので、私は当初この会社に入るのが嫌でした。

なので、他の会社で3年ほど働いていたのですが、父がどうしても入ってほしいと、ものすごく厳格な父が初めて私に頭を下げたことに驚いて、そこまで言うならと会社に入りました。

元々父親と働く気はなかったですし、文系でしたので、機械の設計も会社に入ってから勉強して、営業・現場・設計をこなしていました。

その当時は仕事の合間を縫って、移動途中の数分間を積み重ねて勉強していました。

それを10年続けて40歳になった時に、個人的にこの分野では世界でもトップレベルの技能を身に付けたという自負があったのですが、でも全然利益が出てないんですよね。

間違いなく技術では他の会社ができないこともできる会社なのですが、赤字経営で。

なんでなんだろうと考え、ビジネスモデルやビジネスセンスで利益を出している会社は世の中にたくさんあるということに気づきました。

技術はもちろん必要ではあるのですが、そこにビジネスモデルや考え方をプラスしていかないと利益を出していくことはできないんです。

利益が出ない、儲からないというのは、一言で言うと世の中に必要にされてないということです。ものを作るだけじゃなくて、他の人に必要とされる価値を生み出すことが必要だということに最近気づきまして、新たな開発とともに、開発した製品を中心にビジネスモデルを作って、プロモーションしています。

自らビジネスモデルを作る

現在、弊社が新たなビジネスモデルとともに販売しているのが「CANメーカー」です。

缶詰というのは機能的に優れていて、常温で最大3年間保存可能で、さらに食品添加物を使わず、無添加で製造できます。

小型でどこでも運ぶことができるので、実はお土産や保存食にすごく適したものです。

地方に行くと観光客に向けて何か作りたいという方がたくさんいます。

でも、その地の食材を使ってお土産を作ろうとしたときに、缶詰は最小ロットが3万個くらいになってしまいます。

今まで缶詰というのは、大量生産大量消費が基本だったので、缶に封をする巻き締め機は1日動かしたら何万缶と作れる大量生産用の1億円もするような機械しかありませんでした。

そうすると缶詰は難しく、冷凍にしたり、レトルトパウチにしたりという選択肢しかありませんでした。

缶詰なら地の食材を良い状態で長く保存できるのに、缶詰にする手立てがありませんでした。

そういった各地の要望を受けて開発したのが「CANメーカー」です。

通常モーターで動いている巻き締め機を電子制御で動かせるようにすることで、機械の規模を小さくし、数値入力だけで操作できるので調整する必要もなく、誰でも安く缶詰を作れるようにしました。


こちらがCANメーカー

これなら地方でとれた美味しい食材をその場で缶詰にできます。

しかし、この「CANメーカー」もなかなか売れませんでした。

なぜか。この「CANメーカー」を購入するだけでは事業を始めるには不十分だからです。

前述のように、缶詰となると大量生産の仕組みしかなかったので、缶詰用の缶も小ロットで手に入れることが難しく、その他の設備を含めた工場を建設しようとしても、10億円もかかる大規模なものしかできませんでした。

そこで我々は小さな缶詰工場の設備一式を提供する事業に切り替えました。

工場の建設も含めて我々が提供します。2,000万円から工場を作ることができるように工場を設計し、缶などの材料も我々が一括で大量に仕入れてお客様に提供することで、100個から作ることができます。美味しい缶詰の作り方も我々でお伝えしますし、補助金申請のサポートや販売に向けた支援も行います。

そうすると小さな缶詰工場は、田舎でとれた少しだけの材料をその場で缶詰にして、少量から販売することができます。

設備費用が安く、在庫リスクも少なくできます。

さらに、少しずつ販売することで、商品を作って売れなかったら、また商品を改良し作り替えて売り出すなど、軌道修正や市場調査をしながら商品開発することが可能です。

実際に、元々居酒屋を経営されていたお客様が缶詰工場を立ち上げたことで、1年で年商が3倍になってさらに事業を広げていらっしゃいます。

こういった形で、事業の仕組みごと提供することで簡単に安心して事業に参入していただけますし、さらに我々自身でブームを作りながらこのモデルを広めていきたいなと思っています。


製造業の課題解決に向けて

お客様の課題解決のために開発するものが多いですが、自分自身の課題解決のために開発したものもあります。

我々製造業の課題もいろいろありまして、機械を24時間動かしたい、生産性を高めたい、ドリルの耐久性を高めたいなどたくさんあります。

その中で、職人の技術をうまく継承できないという問題を抱えていました。

職人が持つノウハウは手の感覚で作業しているのでこれを継承するのが非常に難しいのです。

なんとかその技術を可視化して継承できないかと考え、我々は“振動”に目をつけました。

この“振動”を使った製品というのはすでにたくさん販売されていたので、システムを購入して、実際にテストをしました。しかし、全く使えませんでした。

販売されているものはいろいろな機能があるものの、基本的に専門家しか扱えませんでした。

そして、基本的な分析についても、2時間の加工データの解析に2週間もかかるんです。

振動系ソフトはたくさんのことができて、加工条件の可視化や刃物破損の検知、さらには、条件の最適化、不良品の検知もできます。

大企業がメインで使用しているのはこのうち、条件の最適化や不良品の検知の部分です。

でも、そういった条件の最適化や不良品の検知は難しく、コストも高くなってしまいます。

一方、実際の現場でニーズとして多いのは加工条件の可視化や刃物破損の検知なんです。

そういった現場での経験から私たちはこの2点だけに特化してシステムを開発しようと思いました。加えて、全ての作業者に使ってもらうためには誰にでも使えるソフトが必要でした。

そのためにこだわったのがデザインです。

誰もが直感的にわかるデザインで作ったのが振動大臣です。

スマホアプリのように説明書不要で、誰にでも簡単に使えるソフトを作りました。

そして、上記の2点に特化することで価格を抑えることもできました。

振動大臣ができることは、職人の勘の可視化とAIの融合、異常時に機械を停止するといったことです。

リアルタイムで技術を可視化でき、技術の継承の手助けになると思います。

でも、一番は仕事がゲームのように楽しくなるってことをやりたかったんですね。

仕事がデータ化できるのはすごく重要なことで、そうすることで仕事がゲームのように楽しくなるんです。

社員もお客様からありがとうと言われたりすると嬉しいと思いますが、鉄工所ってお客様に接する機会はあまりないんです。では、仕事をどうやったら楽しくできるか。

成果が見えたら楽しくなると思うんです。人は努力したところが評価されて、モチベーションが上がるんですよね。

社長がめざすところは、生産性向上や売り上げアップ。会社のためであり、社員の給料のためでもあります。でも、社員が実際に思っていることは、給料が欲しいとか、楽しく働きたいということ。ここに社長と社員にズレが出てきます。

振動大臣を通して、社員自らがゲームのように仕事し技術が上がって楽しく働く、全員が楽しく仕事をしている風景、それが結果売り上げにつながって、利益が出る会社に変化していく。

社長のめざすべき方向と、社員のやりたい方向が、同じ方向に進んでいくソリューションが作りたかったんです。


素敵な社員の皆様と

本当に抱えている課題解決を

どの開発に関してもそうですが、本当に課題を感じる人に対して我々が支援を行うというのがたまらなく、面白いんです。

僕ももう50歳なんですけれど、あと何年できるか。若くても結局50年ぐらいしか仕事ってできないので、本当にやりたいことをできるようになった方がいいんじゃないかな、と思っています。

身近に何か問題を抱えている人がいて、その人の課題解決のために作ったアイテムが、他の人にも当てはまることがあると思うんですよね。

身近な課題解決を積み重ねて、そしてそのソリューションを自らブームを作って広めることで、周りから社会全体へ波及して、大きな社会問題など課題解決につながっていけばいいなと思っていますね。


株式会社浪速工作所HP
射出金型/押出金型製作は大阪のプラスチック金型メーカー【浪速工作所】 (naniwakousaku.co.jp)



堺市イノベーション公式Instagram
【堺市イノベーション】(@sakai_innovation) • Instagram写真と動画



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