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今回は、2017年に設立し、作業服などのユニフォームの企画・製造・販売を行う『株式会社三天被服』の代表取締役 東谷麗子様にお話を伺いました。
女性専用作業服を提供する三天被服が大切にしているのは、『それぞれが得意を活かし、苦手を補い合う』こと。では、どのような取り組みを通して想いを実現しているのでしょうか。


女性用ユニフォームがない現状と、現場の声

現在は、オリジナル女性専用作業服やオーダー作業服の企画・製造・販売を行っています。ユニフォーム業界の中でも少し珍しいのが、女性専用作業服を作っていること。女性専用作業服の企画・製造を開始したのは、知り合いの経営者から「現場で働く女性に着せるかわいい作業服がないんだよね」と相談されたことがきっかけでした。医療業界や飲食業界では女性専用の制服が多数流通しているものの、製造業界や建築業界は未だ男性従業員が多く、女性用の作業服はほとんどなかったんです。弊社を創業する前に家業でユニフォームの卸売業をしていたため、業界知識は持っているつもりでしたが、『製造業界や建築業界に女性専用作業服がない』という問題があることには気づきませんでした。実際に現場に行ってみると、大きいサイズの男性用作業服を着ている女性ばかり。ぶかぶかで、作業もしづらそうで、「どうにかしなきゃ」と思いましたね。

創業した2015年頃には、少しずつユニフォームメーカーからSSサイズ・Sサイズのユニフォームが販売されていて、少しほっとしました。サイズが合う作業服を提案できれば、女性も働きやすくなると思っていたのですが…。実際は違いました。

現場で働く女性に作業服についてヒアリングを行うと、「重たくて肩がこってツライ」「ごわごわで、作業しづらい」と言われたんです。その中でもショックだったのが、「この作業服を着るとテンションが下がる。ランチに行くのが恥ずかしいし、コンビニにすら行けない」という声でした。さまざまなメーカーの作業服を提案して卸していた当時の私は、そのお話しを聞いて本当に悲しかったです。しかし、それが現状でした。



取材を受けてくださる東谷社長

想いと裏腹に、トンネルから光が見えなかった

そこから卸売業だけでなく、企画・製造も行うように。この現状をどうにか打破したいという一心でした。しかし、私には縫製の知識も企画の知識もなく、新規事業をどのように進めていけばよいか分かりませんでした。幸いにも私が入居していたのは堺市が起業支援しているインキュベーション施設「さかい新事業創造センター(S-Cube)」だったので、経営全般についてアドバイスしてもらい、また堺市の補助金に採択されたことに背中を押してもらい、新規事業を始める勇気をもらいました。その補助金を使い、縫製・企画のプロにアドバイザーとして参加してもらい、商品開発を開始しました。サンプルが完成するまでは、なんとか順調に進みお披露目会も実施できました。しかし、そこから待ち受けていたのが長く暗いトンネルでした。
 
資金に余裕がなかったので、在庫を抱えずに小ロットの受注生産をしようと考えていました。プロの企画アドバイザーには「少ない枚数を縫ってくれる工場なんて絶対ないよ!」と言われていたのですが、きっと大丈夫だと簡単に考えて、縫製工場を探しました。しかし、アドバイザーの言う通り、まったく見つかりません。「多額の縫製代をもらっても無理!やりたくない!」と言われてしまうほど、小ロットの受注生産は難しいものだったのです。サンプルは完成しているのに、注文を取りにすらいけず、本当にツラく悔しい1年でした。
 
1年以上探し回り、会う人会う人に縫製工場を探していることを伝えた結果、ようやく1社縫製してくれる工場を見つけました。10枚ロットという少ない枚数から縫ってくれる工場で、やっと販売できるようになったのですが、1年も経たない内にその縫製工場の社長が亡くなってしまい工場を閉めることに。再度縫製工場探しをはじめましたが、やはりなかなか見つかりません。しかも今回は、以前のお客様からの追加発注があったため、どうにか工場を見つけなければなりませんでした。なんとか好意で縫ってもらえる工場が見つかったものの、「数枚の縫製は時間のあるときに」ということで注文をいただいても納期が言えず、つらく、大変でしたね。


ニーズに合った女性用ユニフォームの製造をスタート

現在は縫製工場が見つかり、本格的に企画・販売・製造を行っています。後ほどお話しますが、新たな企画を考えているほど、色々な物事がうまく動き出しています。軌道にのったのは、女性起業家が集まるWEConnect Internationalで、知り合いのTさんに再会した2年ほど前のことです。ご縁があって仕事を一緒にすることになり、そこから女性専用作業服や夏用作業服、営業・運送向けの作業服の企画・製造・販売を本格的にスタートしました。
 
作業服を製作する中で大切にしていることは、実際に着用する女性の声をヒアリングして、気持ちよくお仕事ができる作業服をご提供することです。私が女性専用作業服を作るきっかけになったのは、ある製造業の女性社長から「現場の女性達に着せるカワイイ作業服がないから相談に乗ってほしい」というお声がけをいただき、現場の女性達にヒアリングさせていただいたことです。その女性達が担当している仕事は組み立てや検査、梱包。溶接など危険な作業をしているわけではないのに、鉄粉から身体を守る男性と同じ分厚い生地の作業服を着ていたため、重くてゴワゴワした生地に動きづらさを感じられていたのです。「分厚い生地は私たちには必要ないので、着やすく・動きやすい作業服が欲しい」という声があり、そこで、ジャージ素材の生地で作業服を製造することに。お客様には大変喜んでいただき、本当にうれしかったですね。そして、これもヒアリングでお声が多かったお尻を隠したい女性向けにロング丈の作業服も開発したんですよ。


ユニフォームを通して、社会全体の課題を解決したい

現在は、ジェンダーレスやフェムテックに対する取り組みに力を入れています。
 
私は服飾専門学校で講義をする機会をいただいているのですが、その中で、『女性用ユニフォーム』についてお話していました。しかし、ファッション業界にはLGBTQの方も多く、「女性専用という言葉に違和感を覚える生徒もいるのではないか?」という専門学校の先生からのお話しでジェンダーフリーユニフォームの必要性を教えてもらいました。今までの『男女兼用』という枠組みではなく、『ジェンダーフリー』ということを意識して企画しています。
 
また、フェムテックに関しても積極的に取り組んでいます。これまで約200名の女性にヒアリングを重ねてきた中で、女性が働くうえで生理(月経)が大きな課題の一つだと感じていました。「女性の生理の課題を解決したい!」との思いから、今『フェムテックワークウェア』をです。また、これまで集めてきた女性の様々な声から、作業服というハード面だけでなく、生理を『知識として学ぶ』フェムテックセミナーの必要性も強く感じています。ただ女性の悩みを解決するのではなく、男女ともに生理について理解を深め、社会全体の課題として捉えていくためのきっかけになって欲しいからです。
 
 
仕事に取り組む時間というのは、人生の半分を超えます。私がヒアリングした人の中で「男性と同じこのユニフォームを着るとテンションが下がるんです」というお話しを聞きました。お客様が経費を使ってご購入いただいているユニフォームで、社員さんのテンションを下げているというのは、私達にとって、とても悲しいことです。衣服(ユニフォーム)には着用する人の意識に働きかける力があると考えています。働く時間が充実した時間になることで、人生は豊かになっていくと思っているので、少しでもその手助けになれるよう、今後も開発を続けていきます。


それぞれが得意を活かし、苦手を補いあう社会へ

私たちが大切にしている考えは、『それぞれが得意を活かし、苦手を補い合う』ということです。私が縫製や計画が苦手なように、スタッフにも得意・不得意があります。苦手なことは気持ちもダウンしてしまうし、時間もかかってしまいますが、得意なことは効率的に進められるだけでなく、楽しく取り組めますよね。そこで、定期的に行うミーティングの中で、お互いの得意・不得意を共有しています。私はミシンが苦手なので(笑)、得意な方にお任せしています。「縫えることが本当にうれしい、ありがとうございます」と感謝の言葉を言ってくれるのです!『それぞれが得意を活かし、苦手を補い合う』ことを大切にしてきてよかったと思えた瞬間でしたね。



心あたたまる三天ニュース

得意・不得意を認める風土が根付く弊社には、新たに生まれた文化があります。『三天NEWS』です。文字を書くことやシールなどが大好きなスタッフが、このようなものを作ってくれたのです。新型コロナウイルスの影響で世間が暗い気持ちになる中、どうにかお客様が少しでも元気になってほしいという想いから、自主的に作成してくれました。社長の私からすると、そんな想いをもって仕事に取り組んでくれていることが本当にうれしく、涙も出てしまうほどでした。お客様からも大好評で、お礼の電話をいただいたり、毎月欠かさずFAXを送っていただいたりしています。本当に有り難いです。『それぞれが得意を活かし、苦手を補い合う』というのは、『お互いを尊重し合う』ということに繋がり、それが、このような良い結果に結びついているのだと感じています。
 
そして、その思いは、弊社がユニフォームづくりをしていく上でも、とても大切にしていることです。仕事の時間を少しでも楽しく、働きやすくすることが、弊社のユニフォームの在り方。作業服が重くてツラい思いをしている方のテンションを少しあげたり、マイノリティの方がユニフォームを着ることで自信をつけたり、生理で悩む女性がストレスから解放されて仕事に集中できたり。一人でも多くの人達が『お互いを尊重し合い、個性を活かして得意なところで輝く』ことができるよう、今後も邁進してまいります。
 
 
 
『それぞれが得意を活かし、苦手を補い合う』ことは『個性を活かして得意なところで輝く』こと。お話を伺う中で、社会を生きる上で非常に大切な考えだと感じました。現代を生きるすべての人が輝ける社会をつくることを目的にユニフォームを開発する三天被服に、これからも注目です。



三天被服HP
女性ユニフォーム[三天被服] (santen-hifuku.net)

堺市イノベーション公式Instagram
【堺市イノベーション】(@sakai_innovation) • Instagram写真と動画

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