ナショナル・シアター・ライブ『リーマン・トリロジー』とてもよかった気持ちのメモ
2021/12/31 シネ・リーブル池袋でみたナショナル・シアター・ライブ(以下NTL)『リーマン・トリロジー』についてのメモ。Filmarksに書こうかと思ったのだけど文字数オーバーだったのでこちらに。
あらすじとしては、リーマン一家(かの「リーマンブラザーズ」のリーマンですね)が米国に移住してから、2008年のリーマンショックまでを描く舞台。
3人の役者が、米国移住当時の3兄弟を演じ、その後、3世代の家族を演じる、たった三人で150年以上を、その間のリーマン一族のたくさんのひとびとの演じる舞台になっています。
もっと多くの役者を使うつくりもあり得たはずだけど役者を3人にした意味がものすごく有効に作用していて、同時代の兄弟たち横の線の役者を、親子3代の縦の線にスライドさせ、それぞれの才覚もどこか時代をこえて類似した才覚をもつ人物が描画されるんですよね。
見てない人にとっては大変不親切な書き方であることを承知で、第一にはいつか思い出したくなったときの自分のため、第二にはこの作品を見た誰かに向けてくらいの気持ちで、エンディングに印象的だったシーンをつらつらかきならべてみます。
徐々にはっきりみえてくる自由の女神(胸が希望に膨らむような!)
入国審査官に聞き取られず別の名前にすること=新天地であること
メガネをかけた息子(むくつけきおじさん!)
華奢な女性(おじさん!)
なめらかポテト(ブリティッシュでなくわかりやすいギャグ……見てない人にはなんのこっちゃですがNTLで観客が笑ってるときに笑いのツボがわからないことがあるのだけど今回はとてもわかりやすかった)
最初の求婚が失敗しても再チャレンジのため花瓶につけて使い回される花束(どのくらい使いまわしたのだろう)
操り人形のような医師のメタ感(医師と長兄がおなじ役者なの、うますぎる)
ニューヨーク証券取引所でつなわたりするソロモン・パトリンスキ、フィリップをはさんだ3代の歴史のリフレイン、父親の立場に近づいて勝札のみえなくなること、苛まれる悪夢、加速し取り残される先代たちの有り様はしかし(回転する舞台のように)円環の時間をえがく、回りながらつみあげられたコインの摩天楼・そこから落ちる綱渡り師・消費と投機のダンスマカーブル(資本主義の死の舞踏!)
そしてリーマンはいなくなりリーマン・ブラザーズも滅びエンディングへ……
なんだか戯曲も演出も演技も舞台もぜんぶよくて文句をつけるところがまったくなく、上映がおわったあと随分とすごいものをみたという気持ちになったことをずっと覚えている。
ちょっと正気に戻って、セットについて思ったところをもうすこし詳しくかいておきたい。NTLの舞台美術はどの作品もほぼ例外なく素晴らしいのだけど、今作は物語の構造とセットとが完璧に噛み合っていてすごかった。どんな見た目かは下記動画参照。
現代的なオフィスはバンカーズオフィスの箱の並べ直しと背景のプロジェクションとで1800年代の土埃匂い立つような情景から2008年の高層オフィスまでまったくの違和なく組み直される。
全体の回転機構のつかいかたも完璧。セットの回転と組み換えと、役者たちの役割の組み換えと、壁に書き残される各時代の会社名と、バベルの塔の絵画を思い起こさせるような円環と上昇(塔の崩壊は各時代のリーマンたちのみるようになる悪夢に繰り返し予定・予言的に投影されている……)
2021年は、友人に教えてもらったことをきっかけにNTLの上映をたくさん見たのだけど、『リーマン・トリロジー』はそのなかでも一番おもしろかったといえるレベルでした。
NTLは新作の上映のほか、年に数回アンコール上映が各地の映画館で行われており、もしアンコール上映があるときはぜひ見てほしい。(ほかにおすすめなのは『戦火の馬』『十二夜』『フランケンシュタイン』あたり……)
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