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霧島はるか
2022年5月25日 22:25
錯雑としたおもちゃ箱をひっくり返したような町並みを抜け、砂浜に出た。乳白色の月明かりが照らすのっぺりとした海面。緩やかな波が慎ましく白浜を濡らす。高密度のかき氷みたいな砂の上を歩くたび、ぎゅっ、ぎゅっと音がした。侘しさすら感じなくなった僕は、海と浜の境界をおぼつかない足取りで進む。遠くにぼんやりとうかぶ小さな漁港は心許ない灯りのもと、ぽっかりとあけた口を静かな海に向けていた。随分まえに通り過ぎた居
2022年5月29日 23:01
糜爛したきみの眼球がとけだしたとき、僕はようやく雨の美しさを知った。幾層にもかさねた肉厚の絵の具のように凝った赤黒い血を爪で削り取りながら、窓を打つ驟雨のリズムに目をつむる。放恣な生活を送り続けた僕を、明るい笑顔で見守り続けたきみのその嘘に、気づいていないわけじゃなかったよ。けど僕は怖かった。きみが向けてくれた純然たる愛に正面切って向き合うのが怖かったんだ。それは僕が今まで一度も触れたことも、向け
2022年5月23日 20:04
海辺を逍遥している時だった。久しぶりに匂いを感じた。日焼け止めと、乾いた塩の香り。それが嬉しくて、十一個目のピアスを外して飲み下した。月のない星空。真っ暗な砂浜。数メートル先にぼんやりと佇む影を見た。K君の幽霊だと思った。月世界に行ってしまったK君を想い、もう少しでコンバースに触れる距離にうち寄せる波に一歩足を踏み入れた。海は海であることを強要されていた。私であろうとしたゆえに味わった苦しみを思い
2022年5月1日 21:16
名前くらいしか知らない君の後ろ姿が可愛くて話しかけてみようかと口を開いてみるけれど開いたそこから漏れるのはいつまでたってもため息ばかりおしゃべりなあの子の舌を食べたら君と上手にお話できるかな自信満々なあの子の瞳を食べたら君と上手に目が合わせられるかなおしゃれなあの子の足を食べたら君の目をひくことができるかな小説好きのあの子の脳みそ食べたなら君と気の利いた会話の一つでもで
2022年5月18日 00:53
死の可能性を徹底的に排除した傷だけが増える腕。お気に入りのタトゥー達はしっかり避けてるところがまたなんとも。PCのファンの音が耳に障る。空っぽの会話を垂れ流しながら、何度読んだかわからない小説を開く。もうただの文字の羅列としか認識できないそれを目でひたすらなぞっていく作業に没頭する。脳みそを限界まで酷使したら眠れるだろうかと頑張ってみたけれど、そもそも頭を使ってないから疲れる訳なかった。仕方ないか
2022年5月18日 00:34
徹底的に嫌われるべきだった。最後の最後まで、僕は君の優しさに甘えたんだ。どんなに深い自己嫌悪も、君の優しさに接してしまえば鼻で笑えるくらいちんけなものになってしまう。そんな君の無制限の優しさに甘え続けた僕の罪ははっきり自覚しているけれど、受けるべき罰は結局与えられなかった。こんなことを言ってしまえるのも、まだ僕が君の優しさに甘えてる証拠だね。君はもっと人を恨むことを知るべきだったよ。だって君は今で
2022年5月18日 00:16
君は僕を優しいと言ってくれるけど、その優しさは心の不在からくるものなんだ。なり損ないはとっとと消えればよかった。それなのに僕はいまだに留まり続けてる。一体僕は何を求めてるのかな。
2022年5月3日 21:20
全部全部消えちゃった持ってるだけ損だと思ってた大嫌いだった私のそれが全部全部、消えちゃった赤のキャンディーで憎悪をこめて黒のキャンデーで殺意に抱かれて紫キャンデーで嫉妬におぼれて青のキャンディーで自己嫌悪白のキャンディーで孤独に濡れて黄色のキャンデーでリスカしよ?もしもしそこの魔女さんや全部のキャンデーくださいな一気に口に放り込んでばりばりがりがりかみ砕いて舌で溶か