透析患者における急性心不全の対応

 透析患者では、透析中や透析後に急性心不全(Acute Heart Failure, AHF)が発生するリスクがあります。急性心不全は迅速かつ適切な対応が求められる緊急事態であり、患者の生命に関わる可能性があるため、兆候の早期発見と適切な対応手順を理解することが重要です。

急性心不全の兆候

急性心不全の兆候は、患者が示す症状やバイタルサインの異常から判断されます。以下は主な兆候です:

主観的な症状

  1. 呼吸困難

    • 安静時や軽い運動時に息切れが生じる。

    • 起坐呼吸(横になると息苦しくなる)がみられる。

  2. 倦怠感

    • 全身のだるさや疲労感が強くなる。

  3. 胸部不快感

    • 胸部圧迫感や痛みが生じることがある。

  4. 体重増加

    • 数日間での急激な体重増加(体液貯留による)。

客観的な徴候

  1. バイタルサインの変化

    • 血圧の低下または著しい上昇。

    • 心拍数の増加(頻脈)または不整脈。

  2. 肺水腫

    • 聴診でのラ音(湿性ラ音)が確認される。

  3. 末梢浮腫

    • 下肢のむくみや静脈怒張が見られる。

  4. 酸素飽和度の低下

    • SpO2の低下が認められる。

急性心不全の原因

透析患者における急性心不全の原因として、以下が考えられます:

  1. 体液過剰

    • 除水不足や透析間隔の延長による。

  2. 血圧の急激な変動

    • 透析中の低血圧や過剰な除水。

  3. 心筋虚血

    • 虚血性心疾患の既往がある場合に誘発されることがある。

  4. 電解質異常

    • カリウムやカルシウムの急激な変動。

  5. 弁膜症や心不全の既往

    • 心機能が低下している患者ではリスクが高い。

対応手順

急性心不全が疑われる場合、以下の手順で迅速に対応します:

1. 初期対応

  1. バイタルサインの測定

    • 血圧、心拍数、酸素飽和度を測定し、患者の状態を把握。

  2. 酸素投与

    • SpO2が低下している場合、酸素を2〜5L/分で投与開始。

  3. 体位の調整

    • 患者を起坐位にすることで呼吸困難を軽減。

  4. 透析の中断または変更

    • 症状が透析中に発生した場合、一時的に透析を中断し、医師の指示を仰ぐ。

2. 医師への報告

  • 状況を詳細に報告し、必要な指示を受ける。

  • 必要に応じて緊急心エコーや胸部X線検査を実施。

3. 薬物療法

  1. 利尿薬の投与

    • フロセミド(速効性利尿薬)を静脈投与し、体液過剰を改善。

  2. 血管拡張薬の使用

    • ニトログリセリンなどを用いて心臓の前負荷と後負荷を軽減。

  3. 強心薬の適応

    • 必要に応じてドブタミンやドパミンを使用し、心拍出量を改善。

4. 電解質管理

  • カリウム、ナトリウム、カルシウムの血中濃度をモニタリング。

  • 電解質異常がある場合は、速やかに補正を行う。

5. 体液管理の見直し

  • ドライウェイトの再評価や透析条件の調整を検討。

予防策

急性心不全を予防するために、以下の取り組みが重要です:

  1. 適切な体液管理

    • ドライウェイトを正確に設定し、除水量を適切に管理。

  2. バイタルサインのモニタリング

    • 血圧や体重の変動を日々確認し、異常があれば早期に対処。

  3. 電解質の安定化

    • 定期的な血液検査で電解質バランスを評価。

  4. 定期的な心機能評価

    • 心エコーや心電図検査を定期的に行い、心不全の進行を予防。

  5. 患者教育

    • 自宅での体重測定や塩分制限、適切な飲水量の指導を徹底。

まとめ

透析患者における急性心不全は、早期発見と迅速な対応が鍵です。医療スタッフは、患者の症状や兆候を的確に把握し、チーム医療を通じて適切な治療を提供することが求められます。また、予防策を徹底することで、急性心不全の発生リスクを最小限に抑える努力を続けていきましょう。

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Yusuke
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