急変時の対応
透析中は、患者の循環動態が不安定になりやすく、急変時の迅速な対応が必要です。本記事では、透析中の低血圧や心停止、不整脈、急性冠症候群への初期対応について解説します。
1. 低血圧時の対応
透析中の低血圧は、除水速度の過剰や血液量の減少が原因で発生します。以下の手順で対応します。
症状
めまい、冷汗、意識低下、悪心、息切れなど。
初期対応
体位変換:
患者を仰臥位にし、脚を挙上する(トレンデレンブルグ体位)ことで血液を心臓に還流させます。
除水停止:
除水を一時中断し、透析液のみの灌流に切り替える。
生理食塩水の投与:
必要に応じて生理食塩水(100~200mL)を静脈投与して循環血液量を補充。
酸素投与:
酸素飽和度が低下している場合は、酸素を2~5L/分で投与。
再評価
血圧が安定した後、除水速度を減らし透析を再開。
ドライウェイトの再評価を検討。
2. 心停止や不整脈への初期対応
透析中の心停止や不整脈は電解質異常や循環不全が原因となることがあります。迅速な対応が患者の生存率を高めます。
症状
呼吸停止、無反応、脈拍の消失。
心室細動(VF)、心室頻拍(VT)、心房細動(AF)などの波形異常。
初期対応(BLS/ACLS)
反応の確認:
声掛けや刺激に反応がない場合、直ちに助けを呼ぶ。
心肺蘇生(BLS):
胸骨圧迫:成人では深さ5~6cm、100~120回/分の速度で実施。
人工呼吸:気道確保後に2回の呼吸を胸骨圧迫30回ごとに行う。
AEDの使用:
心室細動や心室頻拍が確認された場合、AEDによる除細動を実施。
電解質異常の補正:
高カリウム血症が疑われる場合、カルシウム製剤やグルコース・インスリンを投与(医師の指示のもと)。
医師への報告と専門医療の準備
ACLS対応が必要な場合、医師に速やかに報告。
アドレナリンや抗不整脈薬(アミオダロンなど)の使用を検討。
3. 透析中の急性冠症候群(ACS)への対応
急性冠症候群は透析中にも発生する可能性があり、胸痛などの症状があれば迅速な評価と対応が求められます。
症状
圧迫感や締め付け感を伴う胸痛(背中、肩、下顎への放散痛)。
冷汗、吐き気、息切れ。
初期対応
酸素投与:
酸素飽和度が低い場合、2~4L/分で酸素投与。
心電図の記録:
12誘導心電図を迅速に記録し、ST上昇や異常波形を確認。
透析中断:
症状が重篤な場合は透析を一時中止。
ニトログリセリンの投与(医師指示のもと):
舌下錠を使用して血管拡張を促進。
血圧と心拍のモニタリング:
低血圧や不整脈の有無を確認。
医師への報告
心電図結果を基に、直ちに医師に報告し、緊急搬送の準備を進める。
緊急時対応のポイント
患者の安全確保:
すべての処置を安全な環境で行い、適切な医療スタッフを呼ぶ。
循環動態のモニタリング:
血圧、脈拍、酸素飽和度、意識レベルを継続的に観察。
迅速な連携:
チーム全体で役割を分担し、スムーズな対応を実施。
原因の特定と対策:
急変の原因(低血圧、電解質異常、冠動脈疾患)を速やかに評価。
まとめ
透析中の急変時には、低血圧、不整脈、心停止、急性冠症候群に迅速かつ的確に対応することが重要です。患者の状態を的確に評価し、適切な処置を行うことで、生命を救う可能性が大きく高まります。日頃から緊急時対応のシミュレーションを行い、万全の体制を整えることが求められます。