ドライウェイト(DW)の決定と透析中のモニタリング
透析患者のドライウェイト(DW)の設定は、患者の体液量を最適化し、心臓や血管への負担を軽減するために不可欠です。しかし、DWを決定する際には、複数の因子を総合的に評価する必要があり、1つの指標に偏った調整はリスクを伴う可能性があります。また、透析中のモニタリングでは、DWの適切さを確認しつつ、ショックの兆候を早期に発見して迅速な対応を行うことが求められます。
ドライウェイト(DW)を決定する因子
DWの設定において重要なのは、以下のような多岐にわたる評価項目です。1つの因子に依存せず、総合的に判断することが大切です。
hANP(心房性ナトリウム利尿ペプチド)
循環血液量の過剰や不足を反映するホルモン。
高値は体液量過剰を示唆するが、心機能やその他の因子も考慮が必要。
CTR(心胸郭比)
胸部Xp像から評価。
心臓の拡大は体液過剰を示唆するが、基礎疾患や心筋の状態に依存する。
透析中の血圧
血圧の急激な低下は、DWが低すぎるか除水速度が速すぎる可能性を示唆。
血圧の安定性はDWの適切性の一つの指標。
自宅での血圧
日常生活中の血圧測定結果を参考に、DW設定を調整。
高血圧が持続する場合、DWの再評価が必要。
内服薬の量
降圧薬や利尿薬の使用量を確認。
内服薬の増減でDWが適切でなくなる可能性がある。
胸部Xp像
肺うっ血や胸水の有無を確認。
透析後も肺うっ血が残る場合はDWの再設定を検討。
BNP、NT-proBNP
心臓のストレスを反映するマーカー。
高値は心不全や体液過剰を示唆するが、個人差や基礎疾患の影響を考慮。
透析中のモニタリング:注意すべきポイント
DWが適切であるかを確認するため、透析中のモニタリングが重要です。以下の点に注意してください:
1. 血圧
観察ポイント:
透析中の血圧低下(90mmHg以下)や急激な変動に注意。
透析開始時や終了時の血圧差を記録。
対応:
血圧低下があれば除水速度を調整し、DWが低すぎる可能性を検討。
2. 脈拍
観察ポイント:
徐脈(60回/分未満)や頻脈(100回/分以上)。
不整脈が発生した場合は電解質異常の可能性を確認。
対応:
脈拍異常が見られた場合、心電図を追加し原因を探る。
3. 発汗
観察ポイント:
異常な発汗(冷汗)はショックや低血圧の兆候。
透析中の体温変化との関連を確認。
対応:
血圧測定や体液量の確認を行い、急速な対応が必要。
4. 体温
観察ポイント:
低体温は循環不全やショックを示唆する可能性。
発熱があれば感染症の疑いも考慮。
対応:
急激な体温変化があれば、血流動態や透析条件の見直し。
ショックの兆候と対応
透析中にショックが疑われる場合は、以下の兆候に注意して迅速に対応する必要があります。
ショックの兆候
血圧低下:90mmHg以下。
頻脈:100回/分以上、または徐脈。
冷汗:皮膚が冷たく湿っている。
意識変化:ぼんやりしたり意識を失う。
末梢冷感:手足が冷たい。
対応
透析中断と除水停止:
ショックが疑われる場合は透析を一時停止し、体液量の再評価を行います。
体位の調整:
血圧低下の場合、下肢挙上(トレンデレンブルグ体位)を試みる。
酸素投与:
循環不全による酸素供給不足を補うため、酸素吸入を実施。
医師への報告:
速やかに医師に連絡し、追加の検査や治療計画を相談。
原因の特定と対応:
血液検査や心電図を通じて電解質異常、感染症、心血管イベントを確認。
まとめ
ドライウェイトの設定と透析中のモニタリングは、患者の安全性を確保するための重要なステップです。DWはhANP、CTR、血圧、心電図、BNPなど複数の因子を総合的に評価することが必要であり、1つの指標に偏らない設定が求められます。また、透析中の血圧や脈拍、発汗、体温などを継続的に観察し、ショックの兆候が現れた際には迅速な対応を行うことが不可欠です。