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Guest Talk 10: 桝形徹 [企画制作プロデューサー]

素直さが、人を動かす喜びになる

企画する、戦略を立てる、形にする、広めていく。事業としてモノを生み出し社会へ価値を届けるには、随所に山があり、突然の谷があり、畳みかけるように風も吹く。まさに「生みの苦しみ」が伴う。しかし、その先には、途中の苦しみも「ドラマ」に変えてしまうような、キラキラとした「喜び」がある。創造の冒険を誰よりも楽しみながら、喜びに向かって皆を推し進めるリーダーシップこそがプロデューサーの役目であり、ゴールに辿り着いた時の皆の笑顔は、そのチカラにかかっている。まさに、プロデューサーの視座がチームを変える。仙台の広告業界で長年プロデューサーとして活躍している桝形さんの言葉から、クリエイターとして大切な志を学びたいと思います。


桝形 徹さんのプロフィール
Toru Masukata
有限会社キュービック 代表取締役。企画制作プロデューサー。
企画制作会社での7年間の修行を経て、2001年に「キュービック」創業。プロデューサー・プランナーとして、広告やプロモーション、番組制作やイベント企画などを行う。近年は企業の事業戦略やNPO団体のサポートなどにも従事。経営戦略〜マーケティング、クリエイティブ、プロモーションまで、領域にとらわれないブレーンとして活動中。


2024.5.13+5.20放送

なぜ、映画?

酒井:今回の「新しい酒井3」ゲストはこの方です。こんにちは。

桝形:こんにちは。お久しぶりです。

酒井:有限会社キュービック 代表の桝形 徹さんです。
広告業界の大先輩なので、今日は緊張です。。。では自己紹介お願いします。

桝形:はい、ありがとうございます。プランニングと制作プロデューサーをやっている、キュービックの桝形と申します。 「キュービック」という会社を創業して23年になりますが、独立までの7年間を「ストラテジー」という企画制作会社で修行させていただいたので、かれこれ30年も勉強させてもらっていることになります。時間の早さにびっくりです。
これまでは企画制作を割と中心にやってましたが、そうですね、近頃は事業企画やNPO団体での活動なども機会が増えてきました。コミュニケーションデザインの仕事といえば大きいですが、外国人の方に向けたワールドワイドな仕事もあったりで、グローカルなものが領域と言えるかな。日々ワクワクしていますよ。

酒井:ありがとうございます!
僕と桝形さんとは、随分昔にデザインで助けていただいたところからの関係ですが、気がついたらご無沙汰になってしまい、申し訳ありません。。。。

桝形:いつでもマジ待ってます笑

酒井:ぜひお話を伺いたくて、お時間いただきました。
少し前に「桝形さんが映画の仕事をしているよ!」と耳にして驚きました。その映画『最後の乗客』が、2024年3月に日本上映スタートされたということで、こちらについてお話を伺いたいと思います。

まず、どのような経緯で「映画を作ろう!」となったのでしょうか?

桝形:はい。
これは『最後の乗客』という映画ですが、東日本大震災から10年経った後も「学びの伝承」と「心の復興」を風化させることなく、つながっていくものとして、やり続けたいねという想いが仲間たちとの話から広がり、そこから「親子の絆」をテーマに生まれた作品です。
はじまりは2017年。事務所をシェアしていた「ムードセンターまつむら」のプランナー 松村さんのご縁から、本作の監督 堀江貴さんとお会いしたことから。堀江さんはニューヨーク在住で仙台出身の映像ディレクター。「自主制作だけど、地元から被災地を元気にする映画をつくりたい!」という故郷仙台への想いを伺いまして、一緒に映画が作れるというワクワク感だけで何の保障も無かったけれど、お話を聞いた時点で「やるやる!」という気持ちになっていました。そこから、仙台や宮城にご縁のある方々にあちこちお話して、共感がどんどん繋がった。カメラマンも音声さんも、全部地元のスタッフがいいなと思って、協力いただきました。

酒井:なるほど、まさに繋がりから生まれた作品ですね。

桝形:スタッフの方々には、「正直、お金が払えるか払えないか、そんな状況だけれど、一緒にやりませんか?」と、当初はそんなレベルでしたが、賛同してくれた仲間に恵まれました。

酒井:素晴らしいです。被災地に住む当事者だからこそ描ける温度みたいなものって、ありますよね。

桝形:そうですね。
完成したストーリーは、震災から10年が過ぎた、とある浜辺の町を舞台に、タクシードライバーの日常の中で出会う不思議な物語なのですが、10年後どんなことが起きていくのだろうかという脚本の面白みや、俳優さんの演技の素晴らしさ、撮影チームもみなさん本当に素晴らしくて良い絵が撮れました。
あとは、やっぱりロケーションです。津波の被害を受け現在は震災遺構となっている仙台市立荒浜小学校など周辺で撮影したのですが、空気感はそこでしか出せないものだったと思います。「いつもある日常の出来事」の尊さとか、愛おしさみたいな肌間をじわじわ滲み出る、いい映像になったのではないかと思います。

 ©2024「最後の乗客」製作委員会

撮影開始の2週間前、苦渋の決断

酒井:制作における難所など、ありましたか?

桝形:じつに多くの方の協力と支援に助けられました。クラウドファンディングも支えになりました。ですがやはり、予測ができないことは起こるもので、「震災から10年後が舞台の作品」ということで、それに向かって準備も進み、2020年3月にいよいよ撮影というとき、コロナの緊急事態宣言。撮影の2週間前です。

酒井:なんと!

桝形:話し合った結果、「延期しよう」と。監督も既にNYから日本に来ていて、その時点でも費用は各所でかかっていたのですが、延期を決断しました。きつかったですね。
その後なんとか再始動し、2021年11月にわずか6日間で撮影をやり切りました。

酒井:どんな6日間でしたか?

桝形:6日間といっても、1日目は顔合わせと場当たりで時間が過ぎてしまいました。ですから、実際は5日間。ナイト撮影が中心で、雪まじりの雨もふるなど、過酷な条件ではありましたが、なぜかカメラを回すタイミングになると、ふっと、雨が消えたり。スタッフ一同、いつも何かに守られているような、そんな不思議な感じがありました。

 ©2024「最後の乗客」製作委員会

かつて、仙台市民に愛された場所

酒井:ロケ地となった仙台の荒浜エリア、どういった理由でここを選んだのでしょうか?

桝形:やっぱり「深沼海岸」といえば、震災以前は「仙台の海水浴場」として多くの方で賑わってきた愛されスポットでもあり、今は住むことが出来ないエリアになりましたが、震災を後世に伝承する遺構スポットとして当時の様子を残していることなど、撮影やスタンバイなど条件的にもリアルに適地でした。監督も私も大好きな海岸だったので、思い入れもありましたね。

酒井:僕も海水浴場の記憶がありますし、今でもビーチクリーンで毎月訪れている場所ということもあって親近感を感じました。深沼、綺麗な浜辺なんですよね〜。

桝形:特に、撮影最終日に出会った、マジックアワーの美しさは全員、一生わすれることのできない感動の夜明けになったのではないかと思います。映画をご覧の方には是非、あの美しい深沼の海にまた足を運んでもらえたらと思います。

仙台港が見える深沼海岸(2022)

人を想う気持ちは、世界共通

酒井:海外フィルムフェスティバルでの受賞も多数、3月の国内一般上映も連日満席ということで、
名実ともに国内外さまざま評価されている作品ですが、制作側としてこの評価の多さはどのように捉えていますか?

桝形:東日本大震災で被災した10年後の被災地を舞台に、「その後の日常」を描いた作品として、社会の関心を惹きつけたということ。そして意外なストーリー展開から、誰もが置き去りにしがちな、「今を生きる、日常の尊さなど」に、優しく目を向けさせてくれる感動作品に仕上がっているところが、広く国内外で評価されたのではないかと思っています。世代を超えて、人種を超えて、「絆」というものに共感するところがあったと思いますね。

酒井:確かに、日常が「普通」に流れていることへの喜びとか感謝とか、置き去りにしている部分もあるかもしれません。特に今の世界情勢的にも、皆が願う想いと重なるのかもしれないですね。

桝形:先回りばかりしてると、「あるがままの今」を、素直に満喫できなくなってしまいがちですからね。本当に今この瞬間自体が、もう、奇跡の連続っていうか、 そういうことだと思うのです。そんな気づきがこの作品にはあります。55分の短い作品なので、是非ご覧いただけたらと思います。

酒井:要因が大事ですね。

桝形:そうですね。自分自身と向き合うこと。

 ©2024「最後の乗客」製作委員会

スクリーンは共感の場所

酒井:国内では今年の3月に仙台のチネ・ラヴィータで一般上映されましたが、このあと、別の映画館で上映する予定はありますか?

桝形:自分の気分やペースで見られる、オンラインも考えていますが、やはり「共感の場所」として、スクリーンでみんなで見て欲しいですね。もちろん、引き続き配給の可能性を探ってまいりますが、国内外での震災の伝承や、減災防災に意識を向けるような機会も増えていると思いますので、ぜひ上映できたらとも考えております。このような映画が1つあるだけで、向き合い方や触れ方が変わるはず。

酒井:ぜひスクリーンで見てほしいですね。上映したチネ・ラヴィータが閉館になるなど、小規模の映画館が消えていくのも残念です。巨大スクリーンでエンタメ的に楽しむシネコンも確かに楽しいですが、作品それぞれに似合った「共感の場所」があるはず。

桝形:そうなんです。みんなで見ることで、何かが生まれると思います。映画を見た後に生まれる会話が変わる。同じ目線、同じ価値観で、「これが大事」という会話ができる。国や言語の背景が違う人と一緒に見ても、妙に仲良くなったりできそうです。想う気持ちにボーダーは無いです。

 ©2024「最後の乗客」製作委員会

酒井:ありがとうございます。
では、最後の質問です。
急に大きなこと聞いちゃいますが、 今回は映画という表現ではありましたが、桝形さんの普段のお仕事での経験も含めて「人を動かすクリエイティブ」を行うには、どんな視座とかマインドが大事とお考えですか?

桝形:すごいこと思いつきますね、酒井さんって笑。
そうですね、「人を動かす」ということであれば、その原動力というか、原点が「喜び」であって欲しいと思います。「自分が素直に喜べるものなのか、嬉しいのか」と自問自答しながら進めて行くというところですかね。面白くないと、周りも気にしてくれませんもんね。

酒井:確かに。まずは自分がその1人じゃなきゃいけない。

桝形:なので、とことん、素直がいいでしょう。きっとね。

酒井:わかりました。ありがとうございます。
では、今回のゲストはキュービック代表の桝形徹さんでした。ありがとうございました。

桝形:ありがとうございます。


放送回はPodcastでも配信中

#41 Guest Talk 10: 桝形 徹 [企画制作プロデューサー]1/2(2024.5.13公開)
#42 Guest Talk 10: 桝形 徹 [企画制作プロデューサー]2/2(2024.5.20公開)

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