スペシャリテ
スイッチ・パブリッシングよりコム デ ギャルソン設立50周年を記念した特別編集号『SWITCH special edition COMME des GARÇONS 50th Anniversary Issue』が発売された。
記事中に、サカナクションの山口さんが、ユニフォームとして着ていたプリュスのシャツとパンツを川久保さん(コムデギャルソン社長)がもう作らないと言ってると。
コムデギャルソンのスタッフの方から聞いたそうですが、山口さんがなくなったら困るので「なぜですか?」と聞いたら、
「定番は定番でしかない。新しい定番を作らないと駄目です」と川久保さんが仰っていたとか。
「新しい定番を作ることが定番」という川久保さんの考え方は、そこに留まらず、常に変化と進化を続けることが定番だと解釈できるが。
僕はレストランのスペシャリテが頭に浮かんだ。スペシャリテとは、シェフが自慢の料理であり店の顔でもあるが、例えばイルジョットのスペシャリテはオレキエッテだ。しかし、ここ10年近くは、愛農ポークのブルスケッタがスペシャリテであり、料理のはじめに登場すると、歓声が起こることもある。それくらい認知されてる定番ということだろう。
しかし、数年前にシェフは苦悩していた。あるお客様から、よろしくないコメントをされたからだ。99人はおいしいと喜んでいたが、たった1人の感想にシェフは耳を傾けた。
いつもと同じように作ったつもりだが、もしかしたら作った、そのときの環境に変化はなかったか、とか、思い当たることをひとつずつ書いては消していった。
僕も、感じていたことはある。それは豚肉の銘柄だ。愛農ポークの出荷が安定しないので、その都度、納品する豚肉が変わることがある。個体差もあるが、水分量であったり、脂質や肉質であったり、仕上がりの肉色まで違うのだから、多少なりとも影響はあるはず。
それぞれを個性と捉えれば、たった1人の意見はスルーすればいいのだが、(だって99人がおいしいと言ってるのだから)でも、思いあたる節を探ってこそ、長く愛される定番だと思う。そもそも99人は本音なのかと疑わないと変化も進化もないかも知れない。
僕は、食事に行くたびに写真を撮っていたので、20枚ほど僕なりの感想を添えてシェフに送った。
しばらくして、イルジョットへ行った。シェフの試行錯誤が垣間見えたブルスケッタはいつもと同じ味だが、いつも以上においしく感じた。おそらく、このことがきっかけになったかどうかは分からないが、日々細かな調整をしながら、ブルスケッタはイルジョットのスペシャリテと呼ばれるようになったのではないだろうか。
「定番は定番でしかない。新しい定番を作らないと駄目です」
毎日同じ料理を作っていても、生きた食材の変化に気づかないと、味が変わったと言われかねない。それは僕たち肉屋の仕事も同じで、肉質によって手当ての仕方を変え、切り方を変えていかなければ、飽きられてしまう。新しい定番を作ることが定番という意味を考える良い機会をもらった。
ありがとうございます!