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肉を選ぶためには、料理を知る必要がある

初めてコートドールを訪れたのは、マッキー牧元さんに誘われたときだった。料理は“普通”に美味しかった。だけど、感動するほどではなかった。フランス料理に詳しいわけでもなければ、食べ慣れているわけでもない。経験が足りていなかったと気づいたのは、ずっと後になってからだった。

もしかしたら、味よりも「コートドールに行った」という事実に満足していたのかもしれない。食後、斉須シェフに「厨房を見ますか?」と声をかけていただき、案内された厨房に驚いた。何十年も使い込まれている鍋がピカピカに磨き上げられ、ゴミどころかチリひとつ落ちていない。料理を超えた、仕事への姿勢を目の当たりにした瞬間だった。

そして今、コートドールが2月で閉店するという現実を知り、再びマッキーさんに誘っていただき、最後の食事へ。そこには派手な料理も、奇をてらった料理もない。でも、しみじみと美味しい。完璧な中に、わずかな“違和感“を忍ばせてあるからこそ、記憶に残る料理なのだろう。

斉須シェフの料理の凄さが、今なら少し分かる。最初に訪れたときと比べ、僕の食体験は異常なくらい増えた。365日、ほぼ毎日外食をしている。贅沢をしているわけではない。取引先の店を訪れ、肉を食べ、シェフと料理について会話を重ねる。そうして、「この料理にはこの肉が合う」という感覚が自然と身についていった。

肉を選ぶためには、料理を知らなければならない。本やYouTubeで知識や作り方を得ることもできるが、生きた知識は実際に食べ、シェフと会話を重ね、経験を積むことでしか身につかない。料理人と対等に語り合えるからこそ、僕は自信を持って肉を選ぶことができるのです。


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新保吉伸/Niiho Yoshinobu
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