可愛がられる力
帯広の「マリヨンヌ」が10周年記念の食事会を開くと聞いたのは、今から半年前のことでした。30名ほどのこぢんまりとした会かと思い、「いいよ」と軽く返事をしたのだが、いざ蓋を開けてみれば、なんと250人もの大規模なパーティー。驚きとともに、小久保シェフの人気の高さ、そして彼への厚い信頼を改めて感じました。
小久保シェフは屋台からスタートし、現在の店舗に移って4年目。それでもこれほど多くの人々が集まるのは、小久保シェフの温かい人柄と、彼が作り出す料理への期待感があるからこそです。
この日のメインディッシュは、浦幌町の広富さんが育てた15歳の経産牛。佐々木畜産の佐々木さんが屠畜と加工を担当し、僕が40日間熟成させた特別な肉です。250人分の肉を焼き上げるには40分以上かかるとのことで、その合間に、僕と佐々木さん、そしてジビーフの西川さんの3人でトークセッションを行いました。
また、僕たちが浦幌町で計画している取り組みについても紹介でき、町長のスピーチでもその活動に触れていただくなど、地元への期待が大きく膨らんでいることを実感しました。
以前にも書いたことがありますが、料理人として成功している人々にはある共通点があります。技術だけではなく、人間としての魅力、つまり「可愛がられる力」です。周囲から愛され、応援される料理人が成功を収める傾向にあると感じています。
「可愛がられる力」――この言葉は、料理人としての成功に欠かせない重要な資質を表しています。技術や経験、知識だけでなく、人として周りに愛され、応援される魅力こそが、料理人をさらに高みへと導く力になるのです。
この「可愛がられる力」とは、単に人当たりが良いということではありません。むしろ、人柄や姿勢が他者にとって「応援したくなる」「支えたくなる」ような魅力を持っていることを指します。それは、周囲に感謝の気持ちを示す姿勢であったり、謙虚で柔軟な態度であったり、時には自分の弱さや不完全さをさらけ出し、成長するための努力を怠らない姿であったりします。料理に対する真摯な姿勢が伝われば、その情熱や努力に心を打たれ、多くの人が自然と支援の手を差し伸べたくなるのです。
可愛がられる料理人は、常に学ぶ姿勢を持ち続け、周囲の人々から吸収しようとする柔軟さがあります。どんなに経験を積んだ後も、自分を見つめ直し、より良いものを求める姿勢を崩さない。これが、シェフ仲間やお客さんだけでなく、取引先の生産者や関係者にまで愛される理由です。その結果、技術や知識を得るだけでなく、貴重な出会いや機会を通じて、より深い信頼関係が築かれていくのです。
マリヨンヌの小久保シェフも、まさにこの「可愛がられる力」を持つ料理人です。彼の周りには、多くの友人や仲間、そして彼を支えたいと願う人たちが集まっています。彼が一つの料理を作る背景には、さまざまな人々の想いやサポートがあります。そして、その一つ一つの支えに感謝を忘れず、誠実に応えていく彼の姿勢が、多くの人々を引きつけるのです。
可愛がられる力があるからこそ、料理人は単に「料理を提供する人」ではなく、「人の心を繋ぎ、感動を生む存在」になることができるのです。料理という枠を超えて、人としての魅力で多くの人を巻き込み、共に歩んでいく。その姿勢が、料理人としての成功を大きく後押しするのです。
「マリヨンヌ」の小久保シェフの周りには、彼を支え、愛し、共に歩む多くの人がいます。だからこそ、250人もの人々がこの節目を共に祝おうと集まったのだと感じました。この日、会場は小久保シェフへの祝福と、未来への希望で満ち溢れていました。