熟成肉について
2014年にブログに書いた熟成肉の記事が1039050PVとすごいことになっていますがコンパクトにまとめてみました。
①熟成香の正体はわかっていない
食肉のおいしさにとっての重要な要素は、・味(硬さ、口ざわり、多汁性)・色調(赤身と脂肪)・香り(生鮮香気、加熱香気)⇒これらの要素を好ましい性質にするのが熟成。ただ、科学的にミオシンがどうとかアクチンがどうとか、いろいろありますが、実際のところどのようなメカニズムで熟成肉特有のあの香りが生成されるのかわかっていない。
②ちょっと小難しい表現だと
熟成肉は、酵素や微生物の関与です。肉の筋繊維中には分解酵素プロテアーゼがあり、これがタンパク質を分解することでペプチドやアミノ酸といったうまみ成分が増加します。そして、カビが外側に付着することで、プロテアーゼとの総合作用によって熟成香が生れる。(のだそうです)
③熟成肉はこの3パターンだがちょっと待った
・ドライエイジング
・枯らし、吊るし
・ウェットエイジング
④ブームはどうやって起こったのか
2008年にニューヨークの「ブライアント&クーパー」の技法を静岡のさの萬さんが日本に持ち込んで再現した。これがドライエイジングのはじまり。一方、枝枯らしによる熟成肉は、田園調布の中勢以さんがブームの火付け役だと僕は認識しています。ただし、枝枯らしに関しては昔からのやり方で、いまも枝肉を使っている精肉店にとっては珍しくない。真空パック流通が主流となったいまだからこそ目新しく感じるのかも知れない。
⑤ドライエイジングビーフ
ドライエイジングは日本古来の枝肉枯らしとは違う。ドライエイジングに重要なのは骨付きの肉であること。骨がない肉は酸化が早く、熟成させても腐敗につながる。温度は0度、湿度は70~75%が理想
⑥ウェットエイジングは熟成肉なのか
ウェットエイジング、つまり真空パックした肉は、開封したときのドリップが問題。微生物汚染が起こるリスクが高い。原因はドリップです。ドリップは悪臭や腐敗の原因になります。味のない肉の原因も真空パックした肉が酸化することによって起こる場合がほとんどです。なので僕の見解は、ウェットエイジングを熟成肉というのはどうかと思う。
ドリップシートにドリップが吸収されているのがお分かりかと思いますが、袋内にも溜まります。骨を外して真空パックにしてから約30日が消費期限ですが、ドリップの量は増えていきます。
アップにするとこんな感じです。いちばんよくないのは、袋を破ってすでに酸化がすすんだ肉を冷蔵庫内で保管することです。カビが発生してそれっぽくなるので熟成がうまくいったと勘違いする人がいます。最初に食べた熟成肉がこれだったらイメージよくないですね。熟成肉を食べてお腹を下した人はこういう肉が原因かも知れません。
⑦どのような肉が熟成に向いているのか
個体に合わせた熟成方法を選ぶべきだが、基本は骨付きで赤身が多い肉が向いている。水分を抜きながら熟成させるのがよい。サシが多い肉は熟成させなくても十分柔らかくておいしい。なので熟成させる必要性を感じない。
⑧庫内の温度、湿度、菌叢管理は
仕上がりの良い熟成肉はよい細菌叢(細菌の集合体)に保持されている。重要なのは、熟成庫の温度と湿度を肉の状態に合わせて適切に管理できているかどうか。
⑨レストランの冷蔵庫でドライエイジングビーフはつくれるのか
肉専用の冷蔵庫がない限り無理です。ドライエイジングビーフは表面にカビや酵母が付着しますが、カビなどは胞子を飛ばします。なので他の食材も一緒に入っている冷蔵庫ではいろんな意味で危険ですし、細菌による汚染のリスクもあります。
レストランでの熟成肉は、腐敗している細菌(シュードモナス属菌、ビブリオ属菌、バチルス属菌、クロストリジウム属菌、乳酸菌)が多く、食中毒細菌に汚染されれば大変なことになりかねません。カビが発生してそれらしくなると勘違いする人もいますが、設備の整っていないレストランで熟成肉はやめたほうがいい。餅は餅屋です。
⑩まとめると
熟成肉に必要な条件は、風・湿度・温度ですが、それだけで熟成肉はできません。品種の選定と日々の微調整が重要です。そして、肉の表面に出てきた自由水に付着する微生物と、肉自身が持つ酵素の相互作用によって特徴的な熟成香が生れます。つまり、知識と経験、そして何度も言いますが、設備、環境が整っていないとやるべきではないと思います。
🕚サカエヤの熟成肉は、ドライエイジングでもなく枯らしでもなく、あえていうならミックスさせたような感じです。品種は主に黒毛和牛の経産です。赤身が強く肉が硬い経産が熟成に向いていると思っています。と同時に市場価値の低い経産牛に価値がつけば、霜降り肉や赤身肉とは別のジャンルとして存在を示せるんじゃないかと思っています。
ありがとうございます!