格付けをなくしてみたら
BSE以降、通販で近江牛を購入された方には証明書をつけている。証明書には格付けが表示されているのですが、いつだったか、グラム3000円のすき焼き用を購入されたお客様から「グラム3000円も出したのにA3の証明書が入っていたが間違いですよね」と連絡をいただいた。
間違いでもなんでもない。A5やA4の肉よりサシは少ないけど、お送りしたA3のほうが肉質も良く、一週間かけて試食を繰り返した結果、グラム3000円に値すると判断しました。逆にいま販売しているグラム1500円のすき焼き用はA4です。と・・・
お客様は納得されていましたが、見た目のA5か味のA3か、いかに数字や記号に左右されているのかがわかります。今も証明書は入れていますが、「わくわく定期便」のお客様には入れていません。理由は、お申し込みみなさん「おいしくて安心して食べられる肉」を求めているからだと思っています。お客様とのやり取りで感じることは、数字や記号に惑わされることなく、食に対して求めていることが純粋な方が多くいらっしゃるように感じています。
飲食業界、大変ですが、終息したら何かにつけこういわれるでしょうね。「コロナ前、コロナ後」それほど大きく様変わりすることが予想されます。僕はどうしてもBSE(狂牛病)と重なってしまうのですが、コロナ後、なにもかもが変化せざるをえないのであれば、いっそのこと、牛の格付けをやめればどうだろうか。そもそも格付けってなんなのか。下記は僕が10年前に作成したページです。多少は修正したい箇所はあるものの、内容は概ね今も僕が思っていることと変わらないです。
格付けというと小難しいので、ここでは、A5の肉と表現することにします。そのほうがわかりやすい。歴史を辿れば僕が生まれた昭和36年に制定されたのですが、何度か改訂され、1990年代の牛肉自由化で日本の牛を守るための施策だったと記憶している。米国から安価な牛肉が輸入されてくると国産牛が売れなくなる。そのため格付けで差別化しようというもの。
ちなみに、僕が精肉店で働きだした19歳の頃から30歳あたりまでは、格付けはあったものも、いまのようにA5がもてはやされることもなければ、A5を意識する消費者もいなかった。A5和牛とか、A5を冠にした店もなく、特選とか極上という表記だった。しかし、後々、特選や極上といった表記は使ってはいけないようになり、A5を冠にする店が増えたように思う。
農家が牛を肥育するひとつの指標となるべきA5が、しだいにメディアの煽りもあって、好ましくない方向へ向かっていったと僕は思っている。市場でもA5は高く売れる。そうなると農家はいかにA5になる牛を作るかに尽力するようになる。そのひとつがビタミンコントロールだ。普段は小ぶりの牛を育てる農家も、共進会(コンテストのようなもの)ではA5になるように牛を大きく育てる。大きくなるとサシが入りやすい。人間と同じだ。さすがに今はビタミンコントロールをしてサシを入れる農家も少ないと思うが、そのあたりはわからない。ただ、A5の枝肉や目方の大きな枝肉は瑕疵が多い。瑕疵の原因は様々だが、過度のストレスも肉質に影響する。それと、20年前は脂の含有量が35とか40%程度だったのが、いまは70とか75%ですからね。これをどう捉えるか、、ですね。
いつしかA5=最高の牛肉、A5=おいしい牛肉、という正しくもあり正しくもない大間違いが横行することとなる。A5が最高峰というのは間違いない。ただし格付けでの話だ。A5がおいしい牛肉というのも、間違いではないのだが、正しくはA5でもおいしい牛肉があるが、そうじゃない牛肉もあるということだ。つまりA5は味の評価ではないということ。
飲食店でA5和牛とか、当店の牛肉はA5ですとか、メニューに書いているのを見かける度に、なんともガッカリした気持ちになる。腕があるのにもったいないと感じてしまう。消費者は、A5=脂が多い肉という認識に変わりつつある。少なくとも、僕の友人知人たちはそういうイメージを持っている。
農家もA5の牛を作れば高く売れるからそこを目指すだけで、格付けがなくなればどうだろうか。そこに囚われることなくストレスのない飼育ができると思うのだが。僕が修行していた20代の頃がそうであったように。その頃もロースにはサシが入っていたが、圧倒的に今より肉がおいしかった。
そうなるには、セリでも直取引でも、格付けで買うのではなく、農家が生活できる値段で取引しなければいけない。となると、問屋や精肉店、つまり購買者の目利きが重要になる。いまは目利きできる人も少なくなってきている。A5さえ買っておけば間違いないという人もいるだろう。飲食店のメニュー表示にA5を見ると特にそう思う。
コロナ前、コロナ後、自然も生物社会の生態系も家畜も昔に戻したほうがいいのかも知れない。
ありがとうございます!