本屋じゃないけど本屋の話がしたいのだ
紙の本がヤバいという。本屋がヤバいという。
確かに、娯楽は多様化しているし、スマホになんでも入っちゃうからいちいち単行本や雑誌どころか文庫でさえ鞄に入れてなんかいられないし、そもそも鞄すら持ち歩かなくったってどうにかなるし。そりゃあ本は読まないよ。
わかっている。そんなことはもうだいぶ前からわかっているんだけど、それでも私は本と本屋の話がしたいのだ。
田舎で貧乏で親が不仲で友達少ない、という環境で育った私は、漫画雑誌にお小遣いをほぼ全投入し、あとは図書館で本を借りて読む、何はなくとも図書館で棚を眺める、などをしてありあまる時間をつぶしていた。そうやって、いろんな人生があるんだな、私の感じている辛さはまだ大丈夫か、とざわつく気持ちを落ち着かせていた。特に桐野夏生や天童荒太あたりをまるで拠り所のように読んでいた記憶もあり、今思えばなかなかのヤバさだと思う(ヤバさ、というぼんやりした言葉に敢えてしておく)。
大学進学とか就職とかもっかい勉強とかで本とはくっついたり離れたりを繰り返し、いやーやっぱり腐れ縁っていうんですかね、まあここまで来たらね、みたいな、幼なじみとなんだかんだありつつ結婚しました、みたいな感じで本屋で働き始め、それから数年後、つまり今、結局また全然違う仕事をしている。
なぜ本屋を辞めたのかについては、辞めて数年経った今でもまだ心の整理がついていないので割愛するが、まあ、一見円満なようで実はそうではない理由だった。辞めたばかりの頃は、続けられなかったことが悔しくて、家でしょぼしょぼしていたり、やはりまた図書館で過ごしたり、映画やドラマを観たりして気を紛らわせていたのだけれど、やはりだんだんと本屋のことを考えるようになっていた。
うちは夫も本屋で働いていた人間で(でも夫も辞めてしまった)、よく本と本屋の話をする。私が本屋を辞めたばかりの頃は、口を開けば恨み節、というようなかなり腐った状態だったのだけれど、少しずつ「新しい本屋ができた」「おもしろそうな新刊がでた」「○○という雑誌の今月の特集が」「攻めたフェアを見つけた」とかそんな会話が増えた。むしろお互いが書店で働いていたときよりもフラットに話せているような印象だ。
ただ、本を買ったり読んだりするだけじゃなくて、本屋で働くってやっぱりいいよなあ、と思ってしまうのだ。「売れない」と言われても、工夫次第で成果がでるところとか。おもしろい企画を思いついて、さらに実行できたときとか。「売れない」と言われているからこそ「売ってやろうじゃん」と思ってしまうこととか。おもしろいと思った本が売れた時、「届いた…」とうれしくなることとか。
とはいえ、今の私の環境では再び本屋で働くことはしばらく出来そうにないので、ここで、本屋のはなしがしたいと思います。
おもしろい本を読んだとき。売りたい本を見つけたとき。ちょっとしたフェアを考えたとき。季節に合わせた選書のリスト。POPやフリーペーパーができたとき(これはセンスがないので自信はないが目標として載せておく)。あとはたわいもない本とか本屋とかの話。そんな話がしたい。
開店もなければ閉店もなく、賃料もかからなければ返品もないので、自分勝手なペースで、飽きたり疲れたりしたらやめよう、くらいの気持ちでやっていきたいと思います。