イントロからエンジン全開でもいいじゃない
書店で本を選ぶとき、あなたはどこを見るだろう?外側だったらタイトル、表紙、帯、中身、文庫の裏のあらすじ。内側だったら目次、冒頭、あとがき、解説。いろいろあるに違いない。
ちなみに私は小説においては冒頭と終わりを読む。なぜ終わりまで、という風に思うかも知れないが、終わり方が自分の好みに合うかをなんとなく見る程度なのでネタバレ的な危険性はない、と私は思っている。それに実際読み始めると最後にどんなことが書いてあったかなど忘れてしまうものだ。ついでに白状すると、よくある「ラスト一行の衝撃」「○○ページで世界がひっくり返る」みたいな売り文句を掲げた作品も、そこだけチラッと見てしまう。まぁ、もちろんそこだけを読んだとしても何がなにやらさっぱりわからない。当然だけど。
で、長くなったが今回の話だ。イントロ、っていうか本の頭からおもしろい本の話がしたい。本屋でふらふらと立ち読みをしているときに、何気なく手に取り読み始める。と、なんだこれは、おもしろい、おもしろいぞ!止まらない!となる本はないかなぁ、と思って本棚を探した。
◆舞城王太郎『好き好き大好き超愛してる。』(講談社文庫、2008年 ※写真は単行本)
もう有名としかいいようのない(主観的にだが)冒頭部分。「愛は祈りだ。僕は祈る。」から始まる一番最初の章は、本当に、とはいっても個人的にだが、もう溜息がでるほどにたまらない。独特の短い文を重ねていく文章も、テンポが良くグッと入ってくる。これを、例えば何も知らずに、書店で偶然手に取り読んでしまったら、タイミングによってはその場で泣いてしまったり、呆然としたりしてしまうかもしれない。そのくらいのインパクトがある。「これはきっとすげえ本だ」と確信できる書き出し。最高。
◆宮田珠己『旅の理不尽 アジア悶絶篇』(ちくま文庫、2010年)
メグ・ライアン。唐突になんだ、と思うだろうが、出てくるのだメグ・ライアンが唐突に。あっれーこれって旅エッセイですよね?違いました?あれれ?となるかもしれないがそれでいいのだ。間違っていないぞ。あのクリッとした青い瞳と素敵な笑顔を思い浮かべながら読み進めていけばわかる。そういう本なのだ。そしてめちゃくちゃ面白いのだ。「迷わず行けよ、行けばわかるさ」なんて普段なかなか言わないけれど、今回は使うぞ。迷わず行けよ!行けばわかるさ!!ちなみに舞台はハリウッドではないし、メグ・ライアンもそれ以降は出てこない。でもこんなにいい意味でふざけたエッセイがあるだろうか。あるんだよ、ここに。読んでほしいなあ。マネはしてほしくないけど、旅っていいもんだな、ってきっと思える。
◆せきしろ『去年ルノアールで 完全版』(マガジンハウス文庫、2008年)
せきしろだ。ルノアールだ。そして森進一だ。なぜ進一なのかは読んでもらえれば「ああ…」という感じなのだが、初っ端から進一と昌子のロマンスの妄想が全開で、「お、お」と思っているうちに気がついたらせきしろワールドに取り込まれているのだ。妄想最高。やっぱり想像力は人を救うかも、などと不思議な感動さえ感じる。一つ目のエピソードを読んでしまったら最後、もう最後まで読まないことにはすっきりしない。そんなエッセイだと思う。そして読み終わったら「いやあルノアールでさあ…」なんて人に話したくなるかもしれない。
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うーん、我ながら温度だけで突き進んでしまった。引用してしまえばあっという間なんだろうがそれはなんか違うな、と思ってしまう私がいる。なので、こいつ何言ってやがんだ、と思ったらぜひ本屋に行って表紙を開いてみよう。それか電子書籍とかの試し読みがあれば試してみよう。「作家ってなんなん…」とびっくりしたらもう、読むしかない。
本屋さんにあるかなあ、あるといいなあ。少し前の本だけど、面白い本なのでお願いしますね本屋さん。