【認知行動療法】3.依存症(2)動機づけ面接

第3-4回目の心理療法理論のゼミのテーマは「依存症」。
この回では特に依存症治療にとって最重要な動機付け面接について扱う。
依存症についてはこちらの記事参照
そもそもドイツで心理療法士の職業訓練とは?についてはこちらの記事参照

1. 動機づけ面接とは

Miller und Rollnick (2015)によると、
- クライエントが何かしらの変化を起こす際に、
- 行動変容へのやる気や、達成への自律性の強化を助けるための
- 協働的な面接技術

2. 行動変容の多理論統合モデル

Di Clemente & Prochaska, 1997
-> 行動変容への関心がない  --- 依存状態
-> 行動変容の意思構築ステージ
-> 行動変容の準備
-> 実行
-> 維持            --- この段階で依存症から抜けられる
-> 維持失敗、始めの「行動変容への関心がない」に戻る

3. 基本方針:アンビバレンス

アンビバレンス = 両価性:相反する気持ちが入り混じってる状態
例えば お酒やめないと家族に捨てられるやめなきゃ vs 正直超飲みたい

依存症治療と断物質(断酒・禁煙・断薬物)へのやる気はほとんどの場合アンビバレンスな状態から始まる
-> モチベーションの構築には議論や説得ではなく、共感的戦略を用いる

◎ 協働的:治療者はパートナー、受容
 × 議論討論:現実をつきつけるようなことはしない
◎ 呼び起こす:患者の目的、大切なもの、物事の見方を呼び起こし動機づけ
 × 教える:何が患者の人生にとって大事か他人は知らない、他人が教えても患者のリソースや自律性は高まらない
◎ 自律性:自分で決定することに対する権利と能力を尊重する
 × 権威主義:何をするべきか指示するアプローチ
◎ 患者にとって良いことのための治療
 × 治療者や施設のための治療ではない

1) 積極的傾聴、共感:
詳しくは「1.心理面接技術と初診」記事参照
- 患者に行動変容への疑念や自信のなさなどを自分から話すように導く
2) "チェンジトーク" を促進 = 変化への願望や能力、理由、必要性などについての患者自身の言葉
3) 患者のゴールや価値観と現在の依存行動の乖離に働きかける
- 変化に対する懐疑的な態度を受け入れて変化の準備を呼び起こす
- 議論を避けて直接問題に対峙する
4) 患者の抵抗には立ち向かうのではなく柔軟に対応する
5) 自己効力感と自信をサポートする

4.チェンジトークを促進するOARSテクニック

Open questions:はいいいえで答えられる質問でなく、何、どんな、どのように等を聞いて患者の言葉で説明させる質問
Affirmations = 是認する:
- 患者が良かったできたと感じている環境や行動を認め言葉に表す
- 問題ではなく問題がなかったことに焦点を当てる
- 態度や決断ではなく、明確な行動を褒める
Reflective listening = 聞き返しながら聞く:
- 患者が言ったことを繰り返す、言いかえる
- 患者が述べた感情を強調して聞き返すなど
Summaries = 要約する
- 患者が今話したことを短くまとめて伝える
- 患者が前に話したことと今言ったことをつなげる
- 今まで話し合ったことを要約する
+ Goal and value:患者の人生において何が患者の幸せかをテーマにする

5.アンビバレンスを明らかにする

天秤メタファー (Miller and Rollnick, 2009)

依存維持の損失         依存維持の利益
変化による利益  vs 変化による損失
‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾   △   ‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾‾
こちら側↑が重くなることが変化の前提
患者の価値観や物質への気持ちなど1つ1つ丁寧に取り上げて整理していく

変化へのモチベーション(やる気)の要素
1) 変化の重要性
- 0(全然重要じゃない)から10(超重要)で表すとどれか
- なぜ 0 ではなくてXなのか
-> なぜ変化がその患者にとって必要なのか、何を得るため/何を失わないためにそんな大変な思いをしてでも変えなきゃと思っているのか、何がその人の人生にとって重要なのかを突き止める
2) 変化への自信
3) 変化への心の準備

6. 維持トークと不協和

維持トーク
= 今のままでいたい(飲み続けたい、薬物摂取し続けたい、タバコやめたくない)ことについての患者の言葉
-> アンビバレンス(両価性)上、当然あるべきプロセス
不協和
= 患者はまだアンビバレンスの状態で行動変容への十分な準備ができていない段階だが、治療者の「間違いを正したい反射神経」が作動し、患者と治療者の間で議論や不一致が始まること。患者が治療者に行動変容を押し付けられていると感じる時に生じる

7. 自己効力感を高める

自信トーク = 行動変容への自信についての患者の言葉
- 以前成功した体験や周りの援助などにフォーカスする
コミットメント = 行動変容の決意についての言葉
- 具体的に何を変えるのか、何をする必要があるのか具体的に
- 行動変容計画を立てる
- 自分で自分に課題を与える

以上、今回は依存症治療の最重要な前提である動機付け面接を紹介した。

動機付け面接後の依存症の心理療法についてはこちらの記事
依存症についてはこちらの記事
そもそもドイツで心理療法士の職業訓練とは?についてはこちらの記事
でそれぞれ詳しく扱っています。
どうぞご一読ください。

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