球日
目が覚めてカーテンをあけると、今日は完璧な日曜日だってわかった。空の真ん中でやわらかく光を放つ太陽のむこうに、うっすらと反対がわの家が見える。完璧な日曜日は完璧な球体だから。何を着ても一緒かもしれないけれど、黒いタートルネックのセーターに首を通して、ピンクの円形スカートをはく。鉢植えに水をやらなきゃ。外に出ると、植えたばかりのチューリップの球根も、花期が終わりがけのバラも、芽吹き、葉を茂らせ、枝を伸ばして、あふれんばかりの花をつけていた。でも、色はない。花だけじゃなくて、鉢の中の土も、近所の家も、通りも、ぜんぶ真っ白。見おろせば着ている服も。太陽の光をうけて、すべてが淡い金色に包まれている。今日の弍泉町は完璧な日曜日。
ひととおり水をやり終えると(途中で空を見上げると、反対側にも水やり中の人影が見えた。あれは赤坂さんかな、こんにちは)、とくにすることもなくなったので散歩に出ることにした。球体になってしまった地面はちょっと歩きにくい。なんだかふわふわする感じ。角を曲がると、ちびたちがうずくまって何かしていた。ヒビの入ったコンクリートをかじっているらしい。右手にもった捕虫網でちびのひとりをすくいあげ、そのまま高く放りなげる。放物線をえがいて飛び上がったちびは、途中からふよふよと浮かんで、太陽にすいこまれていった。同じように残り三匹のちびをすくってはなげ上げる。ぽいぽいぽい。じゅわじゅわじゅわ〜。町内世界の中心に浮かぶ太陽は、ちびたちを飲み込んで穏やかにあたりを照らしている。地面にかがみ込むと、ちびのいた場所には手を開いたくらいの大きさの暗い穴が空いていた。完璧な日にも完璧じゃないちびたち。穴をふさぐ前にちょっとだけ覗きこんでみる。穴の外、遥か下に黒光りする平らな地面が見え、吹き込んでくる熱風に息が苦しくなって顔を引っ込めた。持て余すくらいの布量のスカートを裂いて穴にかぶせ、適当な石を重石にして、とりあえずの覆いにする。腰をあげると、世界はひとしずくもこぼれ落ちることなく、ほのかな金色に光っていた。
今日は完璧な日曜日。明日は知らないけど。