カスカスのカス

全然書けません。なんですかこの万年筆は。インクがぜんっぜん出てこない。カートリッジの無駄。
そもそもこれを買ったのは、急に書くものが必要になって、どうせ買わなきゃならないのなら素敵なインクで長く使えるペンがいいなって美術館の売店で、あ、なんで美術館にいたかっていうと、いま「あきらかな悪夢」って企画展示があっていて。わたし夢とかそういうの好きなんですよね。昨日は夢に昔の友達が出てきて、通りの向こうでじとっとわたしのこと見てるんですよ。土砂降りなんですけど、あ、あの子がいるな、久しぶりだなって思うと雨がざあっとあがって、でもあたりは暗いままで。てらてら光ってる路面に街灯とか窓の光がぐしゃぐしゃに映ってるのをきれいだなって見てると、向こうにいたはずの友達がすぐ横に立っているんです。なにか言われたんですけど、思い出せないな……気づいたら二人でダイナーにいるんです。洋画で見るみたいな、ちょっとレトロなダイナー。大きな窓からさっきの光る路面がみえます。友達は向かいでずーっとハッシュドポテトとスクランブルエッグの話をしてるんです。話しながら茶色のビンから錠剤みたいなものをじゃらじゃら振り出してぼりぼり噛んでる。顔を上げると、他にもお客さんがたくさんいるのに気づくんです。でもみんなぼんやりした黒い影みたいで
あれ、インクがのってる。なんだ、書けるんじゃないですか。
って言ってももう原稿用紙一枚分はゆうに超えましたよ。これだけ書かないとインクがでてこないなんてやっぱり不良品ですよ、商品としてダメ。
カスカスのカスですね。星1。

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