ジャズを聴き始めた頃 ミルフォード・クレイブス
コルトレーンの『アセンション』でアーチー・シェップ ジョン・チカイ マリオン・ブラウンの名前を知り そのつながりで何枚か聴いたレコードの中に「ニューヨーク・アート・カルテット」があった
ジョン・チカイ目当てで聴いたのだが ドラムのミルフォード・グレイブスの名前を知ったのはその時だ
その頃は サックス聴きだったので 特にミルフォードの演奏を意識しなかった
それから何年か経って Оさんと知り合った
Оさんは 書道家であり 高野山大学出の坊主であり 以前は 田中泯の「舞塾」で舞踏をやっていたという 経歴自体がドラマなんだが ある日 田中泯が言ったそうだ
『ミルフォードが来るから 踊ってみよ』
で ひとりでは太刀打ちできないので 何人かで 持ち回りで踊ったそうだ
その時は デレク・ベイリーでも踊っている
最近 田中泯がミルフォードやデレク・ベイリーの演奏で踊る動画を YouTubeで観ることが出来た
Оさんが言うには ミルフォードは 右手右足左手左足声などを駆使して 8つのリズムを出す事ができる という
しかも 『ヤラ』という武術をやっていて 病人に片手を当て もう片手で太鼓を叩いて 治療も行なう という
そんなわけで わたしの中で ミルフォード・グレイブスの存在が どかっと大きくなり 『メディテーション・アマング・アス』を買った
ミルフォードが来日した時に 日本の錚々たるフリージャズのミュージシャンと演奏したレコードだ
演奏者には 近藤等則 土取利行の名前も見える
近藤等則はトランペッターだが わたしが生まれて初めて買ったCDが 近藤等則の『コントン』というアルバムだった
生まれて初めて というのは 売り場には CDよりレコードの方が広い面積を占有していた という時代だったからで CDプレーヤーを買って初めてのソフト という事だ
嬉しくて 毎日狂ったように聴いた
レコード時代を知らない人には信じられないかも知れないが 傷がつく ホコリが付いていたり 振動を与えると 針飛びがする
などのレコードに比べ CDは まさに夢のメディアだったのだ
Оさんに 近藤等則が好きだ という話をすると 土取利行が良い と勧められた
『メディテーション・アマング・アス』の中で ミルフォード・グレイブスと楽器が被っているので どんなパファーマンスをしているのか よく解らなかった
Oさんに誘われ 錦糸町に土取利行のライブを観に行った
ふたりの屈強な若者を従えて コンガ(だと思う)を演奏するのだが 若者たちは(ひとりは元有名バンドのドラマー)パワフルに太鼓を叩き 汗だくだ
一方 土取利行は 実にしなやかで 太鼓を叩くのに ほとんど筋肉を使っていないように思える
アンコールの手拍子を 足を鳴らして一瞬で太鼓のリズムに変える手際といい 最後に見せた舞 といい 身体表現の魔術師である
その後 ジョン・ゾーンが 自分の主宰する『ツワディック』というレベルから ミルフォード・グレイブスのCDを数枚 出している
ソロ ジョン・ゾーン デビット・マレイとのデュオなどだ
こうした伝説的なミュージシャンを掘り起こす作業を やってくれたのは ありがたい
最近では 土取利行とミルフォード・グレイブスのドラムのデュオを YouTubeで観ることが出来る
ミルフォード・グレイブスは2021年に亡くなった