ディズニー映画全部見る12・シンデレラ

 シンデレラ/Cinderella(1950・75分)

 12作目はディズニー映画の代名詞シンデレラです。お城が映画が始まる前のロゴにもなっています。バンビ以来6作ぶりの長編映画。それまでは戦時中のためスタジオを転々とするしかなく、腰を据えて製作できなかったんですね。原作はフランスのペロー童話「シンデレラ」ですが、世界中に存在する同様の童話の中で最古のものはエジプトのお話です。ちなみに日本で最初に翻訳された時のタイトルは「おしん物語」でした。おしんて。

 シンデレラといえば裕福な男性と結婚する幸運を掴んだ女性のイメージですが、最近では成功した男性をシンデレラ・ボーイと形容する事もあり、最近は単にシンデレラ=幸運を掴んだ人=成功者くらいの意味ですね。

 ディズニーランドにはシンボルでもあるシンデレラ城があり、城内を散策できるウォークスルー型のアトラクションになっています。モデルとなったのはドイツにあるノイシュヴァンシュタイン城。舞踏会へ向かうシーンをイメージしたメリーゴーランドのアトラクションもありますね。

 さて、あらすじです。昔々あるところに豊かな王国がありました。その王国に住む裕福な男性にはシンデレラという娘が一人おりました。妻を早くに亡くしてしていた男は娘に新しい母親が必要だと判断し、再婚する事にしました。再婚相手にはシンデレラと同じ年頃の娘が二人いました。アナスタシアとドリゼラです。再婚後、父親が病に倒れると継母は本性を現しました。シンデレラの美しさを妬み、自分の娘達だけを可愛がったのです。(このシーン、日本語版では自分の娘達だけを可愛がったと表現されていますが、元の英語版では"醜い"娘達だけをとはっきり言っています。オブラート大事)

 こうして月日が流れ、義理の姉妹の浪費のため屋敷はすっかり荒れ果ててしまい、シンデレラはいじめられ罵られ、遂には召使にさせられてしまいました。けれどもシンデレラはずっと明るさと優しさを持ち続けました。朝が来るたび思うのです。いつか、夢が叶う筈だと。

 場面変わってベッドで眠るシンデレラ。小鳥さんが起こしに来る。寝る時は三つ編みのシンデレラ、可愛い。髪をほどき、櫛で梳かしながらここで名曲「夢はひそかに/A dream is a wish your heart meakes」ディズニー好きな人、もしくはBGMにこだわりがない人の結婚式で大体流れるやつ。たとえ辛い時も信じていれば夢は叶うもの。お城を眺めてうっとりするシンデレラ。

 朝の支度が整ったところでネズミたちが大慌てでシンデレラの元へやってきました。新顔のネズミがいる。しかもネズミ捕りの中に! 新入りネズミを急いで助けに行くシンデレラ。ネズミ捕りの中で新入り君はすっかり怯え切っていました。リーダー格のネズミ、ジャックが優しく近付き打ち解けると新入り君は服をもらい、ガスと名付けられました。(英語版ではオクタビアスと名付けるわ。でも呼びやすいように略してガスね。というやりとりがあります。ドロレスがロリータになったり、英語のあだ名はわかりません。恐らくそのわかりづらさから日本語版ではカットされたのでしょう)

 新入りも助けたところで朝の仕事に向かうシンデレラ。ガスに猫にだけは注意してと警告し、ジャックも同意します。意地悪で噛みついてくる大きい奴、そいつが猫のルシファーだ。

 ルシファーは継母の飼い猫です。シンデレラの朝一番の仕事はルシファーに餌をやる事、その次に犬のブルーノ、その他家畜達。元々シンデレラの屋敷で飼われていたブルーノは継母のペットであるルシファーとそりが合わない様子。シンデレラもルシファーが好きなわけではないのですが、継母の手前仕方なく世話をしています。

 現代に住む日本人には馴染みのない感覚ですが、ヨーロッパでの高貴な人のペットと言えば馬と犬。冒頭のシンデレラの生い立ちシーンでも幼少期のシンデレラと共に愛犬ブルーノと馬が描かれており、シンデレラが高貴な家の生まれだと示唆されています。反対に継母の飼っている猫はネズミ捕りなど実用目的に飼育されている事が多く、使用人階級のペットなのです。家柄は良いかもしれないが実は卑しい女性であるとペットを通して表しているんですね。他のディズニー作品でも猫が悪役として描かれている事が多いのはそういう理由でしょう。もっとも、高貴な女性の代表格であるマリー・アントワネットは猫を飼っていたんですけどね。

 餌やりが終わると次は継母たちの朝食の準備。手際よく準備をする中、シンデレラを呼ぶ使用人鈴の音がけたたましく鳴り響きます。3人の部屋にお茶を届け、昨日着た服を回収し、屋敷中の掃除を命じられ、シンデレラの忙しさが伺えます。

 場面変わってシンデレラが憧れるお城の中。ぶち切れる王様と怯える家臣。王様の怒りの原因は後継ぎである王子がなかなか結婚しない事。頭の毛も少なく、ひげも白い王様はわしはもう若くない、死ぬ前に孫の顔が見たいと切実です。世の親の悩みは似たり寄ったりですね。無理に結婚を急かさずともいつか誰かと恋をするのでは?ともっともな意見の家臣に恋と言っても出会いが無ければ無理だろうと王様。出会いが無ければ作ればいい。舞踏会とかね。王子の帰国祝いとしてパーティーを開き、国中の年頃の娘を全て集めれば一人くらい王子の目に留まる娘がいる筈。さっそく舞踏会を開こう。今夜!

 場面はまたシンデレラの屋敷に戻ります。継母に言いつけられて掃除をひたすらこなすシンデレラ。歌いながら広い玄関を雑巾で拭いていきます。舞い上がるシャボン玉ひとつひとつに映るシンデレラ。作画コストが凄そうなシーンです。

 そんな中、お城からの使いが舞踏会の知らせを届けにやってきました。舞踏会、しかも王子様が出席するとシンデレラも姉二人もそわそわ。年頃の娘は全員出席との国王命令。いくら継母でも国王の命に背く事はできません。継母はもし、仕事を全て済ませドレスを用意できたなら出席しても良いと言いました。喜んで仕事に向かうシンデレラを見送り、継母は私は”もし”と言ったのよ、と意地悪そうに微笑みます。

 自室に戻り、ネズミ達に母の形見のドレスを披露するシンデレラ。型は古いけど、手直しすれば使えそう。と、使用人ベルが鳴りました。次から次へと用事を言い付けられるシンデレラ。継母たちはシンデレラを働かせ続ける事でドレスを用意する時間を与えないつもりなのです。気の毒に思ったネズミ達は大好きなシンデレラのため、皆でドレスをリメイクする事にしました。足りない素材はジャックとガスが姉達の部屋で調達。

 ドレスルームでは舞踏会に浮かれる姉二人があれでもない、これでもないと大騒ぎ。シンデレラの父の遺産で買ったと思われるサッシュやネックレスをこんな安物!と床に放り出していきます。いらないならもらってもいいよね。ジャックとガスは黒猫ルシファーの妨害に遭いつつも、何とか持ち帰る事に成功します。

 遂に舞踏会の始まる時間。お城からの使者が馬車でやってきました。継母は厭味ったらしくお前はいかないの?とシンデレラに尋ねますが、ドレスを用意できなかったシンデレラは行けるわけがありません。きっと舞踏会なんて気取った人達ばっかりで退屈よ、と酸っぱい葡萄理論で乗り切ろうとするシンデレラですが本心は行きたいに決まっています。

 がっかりしながら自室に戻ると、そこにはネズミ達が完成させたドレスが!シンデレラは大急ぎで着替えて玄関に戻ります。お義母様、これならどうですか?と。自分より美人なシンデレラに来てほしくない姉二人は地団駄。しかし継母は悪役としての格が違う。そのネックレス素敵ね、そう思わない?思わせぶりな台詞に姉二人はシンデレラのネックレスとサッシュが自分達のものである事に気付き、この泥棒!と怒り狂いシンデレラのドレスをびりびりに破いてしまいます。こんなドレスで舞踏会に行けるわけがありません。泣きながら走り去るシンデレラを尻目に継母たちは悠々と舞踏会に向かうのでした。

 悲しみに暮れるシンデレラは信じていれば夢は叶うとの謎コーラスに何も信じられないと泣き続けます。何も?本当に?信じる心を無くした人のところに私は現れないわと妖精のおばあさんが登場。シンデレラもびっくり。そんなに泣かないで。舞踏会に行く顔じゃないわ。

 ここからは超有名ディズニーソング、ビビディ・バビディ・ブー。魔法の呪文と言えばこれを思い浮かべる人も多いのではないのでしょうか。カボチャが馬車に、ネズミが馬に、破けた服は豪華なドレスに大変身! 足元にはガラスの靴まで! シンデレラは感激してお礼を言いますが、妖精のおばあさんはこれは魔法だから永遠には続かない、12時になったら解けてしまうと忠告します。12時の鐘が鳴り終わる前に帰る事、それだけわかったら楽しんでらっしゃい!と元気よくシンデレラを送り出しました。

 場面は再びお城に。舞踏会に招待された娘たちが次々と王子様に挨拶をするも、王子様は退屈な様子。誰か王子の心を射止める娘はいないのかと王様はやきもき。家臣は舞踏会を開いたくらいで恋に落ちるわけがないでしょうとしたり顔。……と思ったら王子様は見つけたのです、運命の相手を!

 その相手は勿論、シンデレラ。王子は礼儀正しくダンスに誘い、二人はホールの真ん中で踊ります。王子を射止めた娘は一体、何処の誰なのか。王様も他の参加者たちも興味津々です。継母達も王子と踊るシンデレラを目にしますが、あの召使いのシンデレラとは気付きません。

 皆の視線も知らぬまま、ホールを抜け庭園で語らう良い雰囲気のシンデレラと王子。お互いに一目惚れのようでこれが恋なのねと気分は天国。盛り上がったところでキス!……の筈が無情にも12時の鐘が鳴ります。帰らなくてはと焦るシンデレラ。今から?と不思議そうな王子様。どうしても行かないといけないの。王子様にもお会いしてないし……とその場を離れる理由をでっちあげるシンデレラ。そう、シンデレラはダンスの相手が王子様だと気付いていなかったのです。

 シンデレラはさようなら!と急いで階段を駆け下りるシンデレラ。王子も慌ててせめて名前を!と追いかけます。名前を知らなくては探しようもありません。逃げるシンデレラを追いかけながらホールに戻ると王子様はあの娘は誰なのだと人々に囲まれ、シンデレラを見失ってしまいます。家臣も彼女を追いかけますが、シンデレラはガラスの靴だけを残してお城から去っていったのでした。

 ドレスは元のボロ布に、馬車はカボチャに戻ったものの、魔法が解けきる前にお城を離れてほっとするシンデレラ。ハンサムな青年とのひと時を思い出してうっとりします。それに、よく見ればガラスの靴だけは魔法が解けても残っていました。夢のような時間の思い出にとシンデレラは大切にガラスの靴を持ち帰るのでした。

 一晩明けて、国中が大騒ぎ。王子様は昨夜の舞踏会で見初めた娘を妻にすると決めたはいいものの、肝心の娘の行方を知りません。手掛かりは娘が落としていったガラスの靴だけ。大公様の命令で国中の未婚の娘がガラスの靴を試着する事になったのです。もし、サイズがぴったり合えばその娘は王子様の花嫁に!

 ここであの時のダンスの相手が王子様だったとようやく気付いたシンデレラ。こんな仕事着ではお城の使者を迎えられません。着替えてくるわと仕事を放り出して夢見心地で自室に向かいます。家事を放棄したシンデレラに憤慨する姉二人ですが、継母は何かに気付いた様子でシンデレラの後をつけていきます。

 これが恋なのねと昨夜の鼻歌をしながら身支度するシンデレラ。先回りしたジャックとガスが継母の接近を知らせようとしますが、浮かれているシンデレラの耳には入りません。遂に継母はシンデレラの部屋に鍵をかけて閉じ込めてしまいました。シンデレラ大ピンチ。ここから出してと泣き崩れます。

 そうこうするうちに大公様の馬車がシンデレラの屋敷に到着しました。王様にパシられていた家臣は大公だったのです。ただのパシりじゃなかった。継母達は大喜びで大公様を迎え、さっそくガラスの靴を試します。

 しかし、ガラスの靴の本来の持ち主はシンデレラ。アナスタシアやドリゼラの大きな足に入るわけがありません。躍起になってなんとか足を押し込もうとしますが、無理なものは無理。時間をかけて試しているうちに、ジャックとガスは継母のポケットから鍵を持ち出してシンデレラを助け出しました。

 私にも靴を試させてくださいと階段を駆け下りるシンデレラ。継母達は大慌てでただの家政婦です。試す価値もないと言い立てますが、大公様は国中の娘が試すようにとの命令ですとシンデレラを貴婦人のごとく迎えます。何とかして邪魔をしたい継母はガラスの靴を運ぶ従者の足に杖をひっかけ転ばせてしまいました。ガラスの靴もパリン!

 これではガラスの靴の持ち主を見付けられない。王様に死刑にされてしまうと怯える大公様に継母はニンマリ。シンデレラもにっこり。私、もう1つ持ってます!これには継母もびっくり。ざまぁ展開の後はシンデレラは馬車に乗り王子様と仲良く新婚旅行に出かけるのでした。たとえ辛い時も信じていれば夢は叶うもの。めでたしめでたし。

 シンデレラストーリーというジャンルの名前になっているだけあり、素敵な男性と結婚してハッピー!という女性向け作品の中で突き抜けた完成度を誇っています。お嬢様だった幼少期から転落↓ 魔法でドレスアップして舞踏会↑ ダンスのお相手は実は王子様↑ 屋根裏部屋に監禁↓ 私があの時の王子の運命の人↑ 王子様とハッピーエンド↑ 上げて落としてまた上げる展開の繰り返しが視聴者を飽きさせません。

原作との違い

 原作のペロー版ではシンデレラは2回舞踏会に出かけています(グリム版では3回)。3回仮死状態になった白雪姫と同じく展開をすっきりさせるために映画では1回にしたのでしょう。またペロー版にはシンデレラを助ける動物達は登場しませんが、グリム版では妖精の代わりに小鳥達に家事やドレスの用意を手伝ってもらっています。

 意地悪な姉二人は鳩に両目を突かれて盲目に……という残酷な結末はグリム版で、ペロー版では特に何事もなく和解しています。


その他小ネタ

・義理の姉アナスタシアの吹き替えはライチュウ声優

 アナスタシアの吹替はポケモンでライチュウを担当している高乃麗です。ライチュウ以外ではfateシリーズのドレイク船長やビリー・ザ・キッドも担当しています。映画ハリー・ポッターではベラトリックス・レストレンジの吹替も名演技ですね。

・なぜガラスの靴だけは魔法が解けても消えなかったのか?

 ペロー版ではカボチャを馬車に、ボロをドレスにという魔法で大変身のシーンが特徴ですが、魔法は解けるもの。しかし、ガラスの靴は妖精からシンデレラの直接渡されたという記述があるのです。魔法で変化させたものではなかったので、12時が過ぎても靴だけはそのまま残りました。

 ちなみにガラスの靴なのはペロー版でグリム版では金の靴。作者によって豪華な木靴、リス皮の靴などヴァリエーションがあります。ペローより古い版ではリス皮の靴だったのをフランス語の皮とガラスの発音が似ていたために皮をガラスと勘違いしたペローがガラスの靴として編纂したバージョンが有名になったという説が有力です。

 

関連作品

・シンデレラ2(2002)

 後日譚にあたる短編集。王宮初日のシンデレラの苦労話やシンデレラの義理の姉アナスタシアとパン屋の主人の恋物語などほっこりエピソードが収録されているが面白いとは言えない。

・シンデレラ3 戻された時計の針(2007)

 同じく後日譚。2で懲りろよ。シンデレラと王子様の結婚を何とかなかった事にしたい継母が魔法使いのお婆さんから杖を奪い二人が出会う前まで時間を撒き戻すまさかのタイムトラベルもの。王子が自分の娘に惚れるように心を操るなど、悪役としての貫禄を見せつけてくれる。シンデレラの続編として観ると微妙だがトンデモ映画として観ると面白いかもしれない。1作目では大公様に無理難題を押し付ける短気な王様の心優しい一面を見る事ができる。

・シンデレラ(2015)

 ディズニーによる実写映画。内容はアニメ版とは大きく異なる。大公様と継母でクーデター企てたりするのだが、話のスケールが大きくなったところで面白いわけではない。原作では優しい大公様がオリジナル改編で悪人にさせられてしまった事が余計に微妙。シンデレラのドレスも安っぽく、金ぴかの馬車が下品で一番の見所の筈の変身シーンもいまいち楽しめない。秀吉じゃないんだから。

・エバーアフター(1998)

 ディズニーではない実写映画。個人的に実写版はこれが一番好き。シンデレラものなのに何故かレオナルド・ダ・ヴィンチも登場する。ディズニープラスで視聴可。

・シンデレラ(2021)

 Amazon Primeオリジナル。ミュージカル仕立てで洋楽の名曲がバンバン流れるので見ていて飽きない。キャストも超豪華。ドレスデザイナーになりたいシンデラの奮闘記。でも結局王子様とも恋したりする。作中に意地悪な人はいても真の悪役が存在せず、最終的に全員ハッピーエンドで終わるところがいい。王妃役はアナと雪の女王でエンディング曲を担当したイディナ・メンゼル。

関連書籍

・世界のシンデレラ(川田雅直/PHP)

 シンデレラ関連知識はこれ1冊で網羅できる。シンデレラファンはぜひ買いましょう。

・断章のグリム 灰かぶり(甲田学人/電撃文庫)

 ごく普通の高校生だった主人公が童話がモチーフとなる悪夢的な事件に巻き込まれていくオカルトホラー系ライトノベル。シンボル学や民俗学が好きな人に。

 以上シンデレラでした。次はふしぎの国のアリスについて書きます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?