「Pokémon Trading Card Game Pocket」の(ゲームシステムのみの)感想
以下の文章は全て個人的な見解です。権利者の方々による指摘や、個人的な気付きによって、予告なく変更・削除する可能性があります。
また、視界が狭い人間なので、色々とご指摘いただければ幸いです。
前提
アナログの「ポケモンカードゲーム」は少し経験がある程度。
本記事における『本家』という単語は、アナログ版「ポケモンカードゲーム」(の特に現代的な環境における構造)を指している。
気が向いた時に何度か対戦をしたぐらいで、毎日のように対戦に潜っているような熱心なプレイヤーではない。
主にゲームシステムの話であり、ゲームバランスやゲーム運営に関する内容はあまり含まない。
感想
デジタル版のポケモンカードゲーム
待望のポケモンカードのデジタル版だ。
とは言っても、最近の潮流の一つである、大元のゲームを下敷きにデジタル版に調整された新しいデジタルゲームと言った方が正しいかもしれない。
「ポケモンカードゲーム」は、かなり長い歴史があり、(ローテーション落ちはあるものの)膨大なカードプールがあるし、インフレというか、ゲーム性の変容のようなものを遂げている。
この変容した特性には、デジタルゲームに適していないものもあり、それを下敷きに、新規のゲームをデザインした方が早いという判断だろうし、それは正しかったと感じている。
基本的なルールである、ポケモンを出して、わざを使って、相手のポケモンを倒して、という部分は同じだが、細かなルールが異なっているのだ。
本記事では、それらの違いについて主に焦点を合わせ、それによって、どのような点が目指されているのか、という点を考えたい。
ゲームの高速化とデフレ、テンポ感
まず、第一に感じるのは、全体的にゲーム展開がスピーディになっている、ということだろう。
全体的に数字がデフレされており、たとえば、勝利するために必要なポイント(サイドボード)は、6枚から3枚になっている。手札もデッキも少なくなり、ベンチも小さくなり、という感じで、全体として、半分ぐらいの数値で収まるようになっている。
しかしながら、通常のポケモンを倒すと1勝利点、EXポケモンを倒すと2勝利点という部分は変化がないので、結果として、ゲームが短く終了するようになっている。
また、大きいのはサーチ系のカードが軒並み別の効果で実装されている、あるいは未実装ということだ。
本家のポケモンカードゲームは、他の有名なTCGとは比べ物にならないほどサーチカードが強力であることで有名だ。
そもそも、マナのようなコスト概念が緩いゲームであり、敵プレイヤーのターンに干渉する手段が限られていることもあって、ソリティアと揶揄されやすい構造になっている。
一方、本作においては、現状、いわゆるサーチは実装されていない(たぶん……)。あるいは、デジタルならではの効果の実装(たとえば、《モンスターボール》のたねポケモンをランダムに取得する)で代用されている他、このようなアナログでやろうとすると複雑な動作が一瞬で終わるようになっているので、ターン自体は比較的早く終わるようになっている。
ダメージのデフレや、エネルギー加速の(アナログと比べて)制限があることもあって、立ち上がり自体は遅い。
加えて、相対的には小さいが、影響のある変更点の一つは、勝利点はカードを用いない、つまり、サイドボードからカードを取得するのではなく、単にポイントだけが得られるようになった、という点だ。
アナログの方では、サーチが強い分、サイドボードにカードが行ってしまう可能性がある、という点が1枚刺しの弱い点になっていたのだが、サーチがない以上は、そのような実装にする必要がない。数値の記憶もでき、カードの枚数で表現する必要もないので、余計にそうだ。
また、これによって、有利な側にカードを供給するシステムがなくなったので、本家にあったスノーボール(有利な側がより有利になる)が解消されており、単にポイントの駆け引きだけになった。
つまり、全体的なプレイ時間自体は短くなっている(もちろん、デッキなどにもよるが)上、ターン数自体は増えていて、1ターンにかかる時間自体は劇的に短くなっている。
これにより、本家にあったソリティア感は、かなり鳴りを潜めており、相手プレイヤーターンでの干渉手段がないといった特徴を受け継ぎながらも、デジタル環境に向いたテンポの良さを維持できていると感じている。
エネルギーの仕様変更
大きな変更点の一つは、エネルギーがカードとしてデッキに入っている形ではなく、外部から得られるようになった点だろう。
「マジック:ザ・ギャザリング」に対しての「ハースストーン」のようにデジタルカードゲームになることによって、このような変更がされているカードゲームは多い。
そもそも、エネルギーのようなリソースをカードとして、基本のデッキに組み込むような構造が今では下火であると言える。
このような構造は、特殊性のあるカードがデッキに混じることによって生じる複雑性や、ゲームごとのランダム性の幅が広くなることによる利点が得られるものの、ゲームそのものが立ち行かずに終わってしまう危険がある。
本家において、サーチが強いのは、このエネルギーシステムによる不安定さを補うという点が原因の一つなのは間違いないだろう(もう一つは、後述する進化システムによる)。
エネルギーが外部から供給されることによって、デッキの枚数を少なくしても成立するようになり、カード引きにおけるランダム性の幅が小さくなっている。手札の枚数を少なくも出来ている。まったくゲームにならない、ということもほとんどない。(少なくともデッキ構築を工夫すれば)
一方、実際にプレイしてみると、本家よりも、エネルギーがボトルネックとして実装されている感覚がある。
環境でプレイされている主力のカードをみても、エネルギー加速に関連したカードを主軸にしていることは多く、エネルギーによる制限がベースにある中で各種の制限やリスクの上に、エネルギー加速があり、そのうちのどれを主軸にするのかでデッキが成立している、というのが個人的な感覚だ。
ターン数が相対的に多いとは言え、基本的には10ターン強と言った具合であると感じるので、1ターンに1個しか貼れないエネルギーは重要であり、それをどこに貼るのか、というのは大事な選択の一つになっている。
これは本家とは同じではあるが、他の一般的なカードゲームの土地(に類する)システムとは異なり、エネルギーはエンチャント(クリーチャーに着ける)されるものであるため、破壊された時にそのまま消耗されてしまう。
『にげる』の仕様も含め、ここが重要な駆け引きとして実装されている。
また、多色(複数のタイプのエネルギーを採用した)デッキにする場合、この発生するエネルギーを複数種類にすることができる。
この場合、(細かい仕様はわからないが)出力されるエネルギーの種類はその中からランダムになる(ただし、次に湧くエネルギーの種類は見えている)という仕様になっているようだ。
ただし、この仕様は、かなり厳しいと言わざるを得ない。
たとえば、2色のデッキであれば、単純に欲しい色が出る確率は半分と言うことになってしまう。
上述したように、1エネルギーがかなり重い仕様になっているので、その1つが目的と異なるものになった時のダメージは大きい。なにせ、雷エネルギーを必要としている所に草エネルギーを貼っても、なんの意味もないし、それを取って置くようなことも基本的にはできないのだから。
実際、現状のカードプールでは、このようなデメリットを許容するようなデッキを構成するのは難しく、確認した限りでは、1色のデッキがほとんどで、それに不特定マナでも動くポケモンを足すぐらいが主流のようだ。
この方向(競技的には1色のデッキがかなり有利である)が続くのか、各カードなどで、多色化の方向も打ち出していくのか、今後の動向が気になるところではある。
進化システムの幅と事故率
本家に強力なサーチカードやドローカードがあるのは、このシステムの実装の仕方が影響しているだろう。
進化システムを実装しているゲームは「デュエルマスターズ」や「デジモンカードゲーム」など数多存在しているが、「ポケモンカードゲーム」は進化の対応の幅が狭いことが特徴的だと言える。
基本的には1対1的な対応であり、2回まで進化できることもあり、特定のカードが必要になることが多い。
この構造は一般的なカードゲームのサーチやドローでは成立しにくい。
本作の場合、サーチがなく、ドローが弱くなってはいるが、デッキの枚数がかなり少なくなっており、2ドローカード2枚積みが標準的になっていることもあって、進化先を比較的入手しやすくなっている。
また、そもそも、たねポケモンは初手に必ず1枚以上は手に入ることや、モンスターボールで取得できるのに対し、進化ポケモンは非常に強力なものも実装されているが、このランダム性によって許容されている、というのが個人的な感覚だ。
たねポケモンで強力なものも、基本的には進化ポケモンのサポートありきで真価を発揮するカードも多く、そういったカードは事実的には進化を必要とするデッキであり、結果として下振れる可能性がある。
それをもって、バランスが取られている、という印象である。
デザイナーズデッキとメタゲーム(弱点)
本家においてデッキ構築をしたわけではないのだが、カードの効果などを見る限りでは、本作の方が、デザイナーズデッキ寄り、つまり、デザイナー側がつくられるデッキを想定してカードをデザインしていると感じる。
特に強力なデッキとして挙げられやすいものは、明らかに相性の良い相棒とも言えるようなカードがあることも多く、デッキの(何なら詳細の)構築まで想定されていると考えるべきだろう。
また、トレーナーカードなどでは、対象となり得るカードがタイプはおろか、ポケモンまで名指しされていることも多く、そういったカードは構築の幅が極端に狭いわけなのだから、デザイナーズデッキと呼べるだろう。
これによる利点と欠点は明確だ。
利点としては、環境を制御しやすく、大きく外れにくいし、初心者でもデッキが組みやすくなる。
欠点としては、ゲームの幅が制御されているように感じやすく、未解決性が低い環境だと見なされやすい。環境の変動も制御されたものになる。
筆者は「マジック:ザ・ギャザリング」をメインにTCGをプレイしてきたため、国産のTCGにありがちな、強力なIPを元にしていることも相まってデザイナーズデッキ寄りのゲームに慣れているわけではないが、このような明確さは、初心者や復帰者に優しく、新弾発表の際にも、自身のデッキが強化されるか否かという明確に盛り上がる点を与えてくれるように感じる。
本作のようなビッグタイトルの場合、失敗するようなことは万が一にも許されず、IPを頼りにプレイしているプレイヤーもそれなりの割合であると考えられるため、このような方向性にしているのだろう。
今後も、この路線なのかどうかは気になるところではある。
また、弱点システムが簡素化されつつも残っているのは、デザイナーが管理しきれない部分で、メタゲームを回すことを前提としているだろう。
本家では、弱点では倍のダメージとなるため、それだけで一撃で相手を倒せるようなこともあったが、本作ではそこまで過激ではない。また、耐性もなくなっているので、極端な差が開くことはなくなった。
しかし、本作は、上述の通り、デザイナーの調整が細部まで行き渡っており、少しの数値上昇や減少で、倒せる/倒せないが変化するように設計されている。(これは「ポケモン」シリーズにも通じるところがあるだろう)
その閾値を動かすカードや効果(微妙にダメージを増やしたり、回復したり、ダメージを減少させたり)は一線でもよく使われているようだし、翻って、本家よりは差がなくなった弱点も重要な役割を担ったままではある。
だからこそ、メタゲームが回るようになっているのだろう。
ランダム性の影響のバランス
(デッキによるのかもしれないが)本作では本家よりも確率的な効果が増えているように感じた。
代表的なものは、コイン投げで、しかも、その理論的な上限値の幅が広く取られているものが多いと感じる。
特に『コインで裏が出るまで~』という効果は目を引き、(デジタル処理である以上、実際には有限だが)理論的には無限大とも言える。
上述したエネルギーや直接的なダメージに関わっている部分もあり、かなり派手な試合展開になることもある。
もちろん、カードの引きも強いランダム性ではあるのだが、コイン投げはその演出も伴って、強力なランダム性であることをプレイヤーに対して強調しているように感じる。
これは問題にならないのだろうか?
デジタルカードゲームでは(少なくとも今のように十分なプレイヤー人口がいる場合)マッチングはすぐに完了し、次の試合へ移ることができる。
本作は、他の一般的なDCGと比べてもスピーディに試合が終わる(筆者の体感の話だが)こともあり、ランダム性による大きな展開があっても、そこまで大きな問題になっていないとは感じる。
むしろ、そのような上振れを残すことにより、逆転可能性を一応は残しておいたり、動画などで映えることを狙っているのだろうし、実際にそれは正しいように感じる。
「麻雀」などもそうだが、1つ1つのゲームでは(比較的)ランダム性の影響が大きいが、複数のゲームを多数プレイすることによって実力差が表面化する、というような設計のゲームはまま存在し、人気も高いと感じる。
筆者は、ギャンブルにもあまり熱中できないタイプで、「麻雀」やローグライトもあまり楽しめない、という根っからのランダム性による快楽を感じにくい人間ではあるのだが、世間一般ではむしろその逆であるというのは、折々で感じることの一つだ。
このようなバランスは、後述するカジュアル(非競技)層におけるウケにも繋がっていると感じられ、求められているものだったと考えている。
カジュアル(非競技)層の重視?
本作は、全体としてカジュアル(非競技)層向けをメインに設計されていると感じることが多い。
たとえば、マッチングにおいても、ランク戦のようなものが存在せず、自身のスタンス(初心者かそうでないか)を決定するだけだ。
何度か試したところ、事実的には内部にアルゴリズム(おそらく戦闘回数や勝率など)が存在し、それでマッチングをしているようだ。
また、ソロモードも充実していて、チュートリアルも兼ねてはいるもののそれなりの対戦ゲームとして遊ぶことは十分にできる。
デッキ構築画面に移っても、まずはカードのコレクションが広がるようになっており(たとえば、「MTG Arena」では自身のデッキ群が広がるようになっているし、これが一般的だと思う)、コレクション勢の存在を意識するような形になっている。
日々のミッションなども対戦との結びつきは弱く、1日に2パックが必ず開封できる上に、ゲットチャレンジなどでもカードを取得できるので、それだけを行うようなプレイヤー(?)も多いだろう。実際、筆者も色々と面倒で、しばらくは対戦などをせず、カードだけ集めていた。
デッキを構築するというのは、それなりにハードルが高い。本作では、レンタルデッキという要素もあるし、自作においてもおまかせ機能があり、それをベースにすることもできる他、実際のプレイだってオートにできる。
実際、筆者のまだ幼い甥は、オートモードにして、ひたすら対戦をして遊んでいたのを見ているし、子供に人気であるIPの影響もあり、そのようなプレイヤーもいると考えられる。
カードのレアリティやコレクション要素も、本家でも成功しているアートがリッチなモードを高レアリティに設定するという形であり、デジタル的な拡張アート(動画)がセットになっているものが最高レアリティだ。
上述したように、デザイナーズデッキがメインとなっていることや、1ゲームごとにはランダム性が強いことからも、大会やランク制にもあまり向かない仕様になっているように感じるし、実際、今のところはそのように運営されている。
これらの特徴は非競技層に強くアピールするものであり、実際、そのようなプレイヤーがある程度多いのではないだろうか。
それでも、かなりの売り上げをたたき出したようで、これはもちろん、元々の強力なIPや本家の影響もあるものの、カードゲームでもカジュアル層からの需要がかなりあることを示しているだろう。
一方、本家は、比較的競技性が高いゲームだと考えており、上述したサーチやドローが強力だったり、メタゲームが強烈である影響から、大会やプロシーンなども活発な印象がある。
これはどちらがよい、というわけではなく、それぞれのデジタル・アナログという環境に向いているものを選んでいる他、逆側で取りこぼしている重要を取り込もうとする、住み分けも意識されているのかもしれない。
このような違いも含め、アナログの「ポケモンカードゲーム」とデジタルの「Pokémon Trading Card Game Pocket」は、プレイイデアが大幅に異なっていると言え、かなり別物にはなっているのだが、逆に言えば、根幹が同じシステムでも、様々なデザインでこれだけ方向性を変えることができる、という証明でもあり、それぞれに触れて置くことは、勉強になると感じる。
この先もこのような方針が保たれるかはわからないが、そのような変遷も含め、色々と学ばせてもらおうと思っている。