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「Hades」の感想

 以下の文章は全て個人的な見解です。権利者の方々による指摘や、個人的な気付きによって、予告なく変更・削除する可能性があります。
 また、視界が狭い人間なので、色々とご指摘いただければ幸いです。



感想

ギリシャ神話ベースのローグライト×アクション

 タイトルからもわかる通り、本作はギリシャ神話をベースにした世界観を持つゲームだ。主人公のザクレウスこそマイナーな存在であるものの、脇を固めるのは、ハデスやゼウス、ポセイドンにケルベロスなど、一度は聞いたことがあるような神々や、それに近い存在であり、物語を理解しやすい。大きな筋としては、地獄の王ハデスを父に持つザクレウスは、彼に反発し、地上を目指すために地獄を駆け上っていく、というものになっている。

 ゲームジャンルとしては、流行りのローグライト×アクションだ。

 プレイヤーは各区画において敵との戦闘を行い、戦闘を終えるとその部屋に対応した報酬が得られる。資源が単純に増えることもあるのだが、神々に対応した特殊能力がもらえることもある。その神が持つ権能のうち、3つがランダムに提示され、そのうちから1つを選ぶ、という今やなじみ深いメカニズムを主軸に据え、体力が0になると、進行度がリセットされる、というローグライトになっている。

UIや操作感も良い



ローグライトという構造が齎す恩恵

 所説あるがローグライトというジャンルは、死ぬと多くの資源や進捗状況がリセットされ、各ゲーム試行にランダム性が絡むことが特徴とされる。

 ここでは、リセットの部分に着目し、どのような恩恵をもたらすのか、について考えていきたい。

 パズルゲームや音楽ゲームといったステージ制ではない多くのゲームの場合、ゲーム全体を通してリセットは入らない。それによって、どういうことになるかと言えば、選択が残りのゲーム時間全体に影響を与えることになる。たとえば、RPGにおいて、ポーションを使って体力を回復することを選んだ場合、ポーションが減った、という影響は残り続ける。肝心のボス戦でポーションがないことによって全滅するかもしれないし、ポーションを売ったお金で買えるはずの装備を損しているかもしれないのだ。

 しかしながら、これは面白い選択肢を生み出しているだろうか。

 残念ながら、そうだと言えることは少ないだろう。なぜならば、未来のことがわからなすぎるからだ。上記の例ならば、ボスがいつ出てくるのか、どれぐらい強いのか、ということが全く想像できず、『使う』『取っておく』という単純な選択肢の比較すら、ままならないことが多い。

 ローグライトはそういったことが容易になる。

 パーマデス(資源の永久的な喪失)により、短いサイクルでリセットがかかるため、近い将来までの判断で済む。また、その判断が間違っていたのかということもその1周である程度答え合わせ出来るようになる。

  • どうせ死ぬと失ってしまうので、その先にあるはずの見通せない将来的な価値判断を断ち切ることができる

  • 死ぬとリセットされ、そこまでがゲームの1サイクルなので、自身の選択によるフィードバックがすぐに明瞭に得られる

 この2点はローグライトを用いることの大きな利点だ。


 しかし、本作はこれらの利点を活用しておらず、ローグライトを採用している意味合いが弱い。

 まず、永続的な資源・強化が多すぎる。途中で得られる特殊能力や金銭、体力などは引き継がないものの、ネクタル(キャラクターの好感度を上げるアイテム)や闇の結晶など多くのアイテムや解放状態が引き継がれる。恒久的な強化も多く、それがゲームの主軸に感じられる。試行限定の資源(体力や特殊能力など)は、その試行が終わってしまえば意味がない。それが価値を最大限発揮するのは、その試行でクリアする時だけなのだ。だから、クリアが難しそうとなれば、永続的な資源を優先するようになってしまう。いわゆる、経験値稼ぎのようなプレイにしなってしまうし、それで下地を整えるのが基本のゲームプレイとなってしまうのだ。

 また、キャラクターや会話のバリエーションが大量に用意されており、それらがゲームに対するモチベーションになっている。それがローグライトのゲームプレイと噛み合っていない。繰り返し死亡したり、上述のネクタルを渡したり、今までにない死に方をしたりすると、追加の会話が見られる。だが、それを求めてしまうと、本来の地上へと脱出するという目的と相反してしまうのだ。わざと死ぬゲームプレイすら生まれてしまう。


 つまり、全体として主客が逆転してしまっている印象を受ける。

 パーマデスを導入するのは、価値判断を明確にし、ゲームサイクルを短くするためにある。しかし、それだけではゲーム内で永続的な成長は望めず、それを苦にするプレイヤーに配慮して、永続的な資源を部分的に導入する、というのが一般的な実装だと思うが、むしろ、パーマデスの方が部分的な存在になってしまい、ローグライトにおける利点が発揮できていない。

 加えて、フィードバックを短い間隔で何度も受けられるようにするためにゲームサイクルを短くし、結果として繰り返すことになるのであって、繰り返すことにローグライトの本質があるわけではないのに、繰り返すことを前提とした報酬をいくつも導入してしまっている。

 このような結果として、見た目だけがローグライト、循環的な構造となっており、本質的にはただ同じ場所を繰り返すだけのリニアなゲームとなっている。リニアなゲームには、リニアなゲームでしか取り入れられない利点もいくつもあるのだが、それすらも取りこぼしているという印象を受けた。

日本人でも好きな人が多そうなキャラクターデザイン



ローグライト×アクションの組み合わせ

 ローグライトはフィードバックが明瞭かつ迅速に得られるのが特徴、と言ったが、本作にそれは当てはまらない。なぜならば、アクションゲームでもあるからだ。アクションそのものにランダム性に近い特性がある以上、そこにローグライトのランダム性が掛け合わせると、今回の試行が上手くいったか、いかなかったのか、というフィードバックが曖昧になる。

 要は、今回死亡したのは、キャラクターを上手く操作できなかったのが悪いのか、ローグライト要素における選択が悪かったのか、というのがわからない。どちらが問題で、どちらを克服すればいいのかがわかりにくい。

 もちろん、そういった場合、多くは両者に問題があることが多いのだろう。しかし、それがわからないから苦心しているのであり、わからないからこそ、上達が難しくなってしまう、という構造になってしまいがちだ。

 RPGやシミュレーションではこのような問題は起きにくい。自身が実行しようとしたことは確実に実行でき、それが間違っていた場合に原因の把握がしやすいのだ。よって、ローグライトには向いており、以前から良く採用されている。曖昧さが少ないジャンルなのだ。

 一方で、アクションはすでに曖昧さの比重が大きい。選択したことが確実に実行できるとは限らないし、成否の原因もはっきりとはわからないこともある。その中に、ランダム性が強いローグライトのメカニクスを導入することはあまり良い結果を齎していないと感じる。



回避問題と、体力という資源

 回避(あるいは完全な防御)には問題がある。ダメージを無効に出来るために、ゲームバランスが崩れてしまうというものだ。

 ダメージを如何に強力にしても、それが回避可能であればダメージは0にできる。結果として、高難度のコンテンツを導入する際に、ダメージは強力無比に調整され、結局は回避ができるかどうか、というゲームになる。定量的なバランス調整が出来なくなってしまうのだ。

 ソウルライクや「モンスターハンター」シリーズの『ボスに対して制限された数だけ回復薬を持っていける』というメカニクスは、これを部分的に解消している。つまり、回復薬を含めた体力を真の体力として設定し、表示されている体力は、回復行動を挟まずに耐えられるダメージを表現している。

 これにより、回復行動に対する技量介入の余地を設けることで、一撃死のような攻撃を導入しなくても、難度の調整の余地を持たせている。とはいえ、これらのゲームも最終的には回避ゲームに近いものになっている、という点は否めない。(それが一概に悪いわけでもない点に留意)

 一方、本作で回避問題がより大きな問題となるのは、上記のような対策を用いているわけでもないのに、ローグライト的な構造における資源として、体力を使用してしまっている点だ。体力の価値が重要になり過ぎている。


 ここで、各ゲームにおける体力という資源について考えてみよう。基本的にこの資源が多くのゲームで魅力的なプレイを生み出している理由の一つに『体力そのものは何の価値もないが、0になるとゲームオーバー(あるいは行動不能)になる』という極端な資源であるという点がある。

 体力が全快でも、1でも、出来ることは変わらない。しかし、0になった途端、ゲーム自体に参加できなくなる。そんな極端な閾値を持つからこそ、魅力的なゲーム展開が生まれることが多いのではないだろうか。

 翻って、本作においては、体力を消費して特殊能力などを得られる、という選択肢がある。あるいは、体力を回復するか、他の資源を取るか、という選択肢もある。この場合、事実上、体力を他の資源に変換しているということができ、体力に価値が生まれているということになる。

 それなのに、本作は回避が強いアクションゲームなのだ。結果として、体力を保つ(そして、それを変換する)行動が価値を持ちすぎていて、ゲームプレイや特殊能力の選択の幅が狭まっていると感じることが多かった。

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