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「Bloodborne」の感想

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 また、視界が狭い人間なので、色々とご指摘いただければ幸いです。



感想

ゴシックホラーの死にゲー

 「DARK SOULS」で一世を風靡したフロムソフトウェアが送りだしたタイトルだ。ダークな雰囲気は似ているが、「DARK SOULS」がダークファンタジーを基盤にしているのに対し、本作はゴシックホラーな世界観を採用しており、それは衣装や建物などに反映されている。

 ゲーム的なメカニクスとしても共通している部分はあるものの、大きく性質が異なっているところもある。まとめてソウルボーンと呼ばれることもある一方で、固有の根強いファンもいる作品となっている。

 主人公は、人が獣と化してしまう病が蔓延るヤーナムという都市で、狩人となり、獣を狩っていく。そのうちに、都市の真実に迫っていき……という内容で、細かな物語や設定は、各種の台詞やアイテムの説明などから紐解いていく、という「DARK SOULS」にもみられた環境ストーリーテリングの手法が用いられている。

 全体のボリュームとしては比較的控えめではあるが、十分な量はあり、ランダムダンジョンのようなやり込みの要素も存在している。

建物はヴィクトリア朝で、ゴシックホラー的な雰囲気はたっぷりだ



攻撃的なスタイルを目指した設計

 メカニクス的な側面も「DARK SOULS」シリーズと大きく異なる。

 まず、盾が事実上廃止(あるにはあるのだが、ほとんど役に立たない)され、代わりに銃などを左手に持つことができる。この銃弾を敵の攻撃に合わせて撃つことで、パリィのようなことはできるのだが、盾を構えて防御ということは当然ながら出来ない。よって、ステップによる回避が基本となる防御系統の設計がされている。

 また、右手に持つ主要武器はボタン一つで変形させることができ、射程や威力、硬直時間などが異なる2つの状態を行き来できる。これにより、類似作と比べて、攻撃系統も比較的多彩な設計がされている。

 最も特徴的なのは、リゲインというシステムだ。ダメージを食らった際、そのダメージのほとんどは体力バーで灰色で表示されており、この分は敵を攻撃することによって、取り戻せる。つまり、攻撃により回復できるのだ。「モンスターハンター」シリーズにおける赤色部分の自然回復に近い。ただし、直ちに攻撃しなければならず、一定時間でダメージは確定する。

 こういった変更は、より攻撃的に、よりスピーディな戦闘が繰り広げられることを目的としていることがわかるだろう。実際に、それは部分的に成功しており、自身と相手の攻撃が入り乱れ、相手の行動を読み切れなければ自身が死ぬ緊張感が維持された戦闘を繰り広げることができる。

銃によるスタン(通称銃パリィ)はタイミングが独特で癖になる面白さがある



リゲインの設計によってもたらせるもの

 部分的に成功と言ったのは、リゲインの設計に関する問題があると感じられたためだ。根幹的なことを言えば、このシステムは攻撃を防御的にも使える(回復行動にできる)というシステムであり、戦闘を攻撃的にするのにはあまり寄与していない。

 なぜかと言えば、リゲインの受付時間が短いのと、体力に対するダメージ量が大きいからだ。リゲイン判定はシビアなので、素早く攻撃しなければならない。しかしながら、一撃によるダメージは大きく、体力の半分ぐらいは削れてしまうというようなことが多い(敵やレベルにもよる)。つまり、リゲインを狙っていった時に、加えてダメージをくらってしまえば結果として死亡したり、瀕死になったりしてしまう、ということだ。

 結果として、リゲインを安定的に狙いに行けるのは、相手の行動を明確に読むことができている時に限る。しかし、考えて欲しいのは、そもそも、相手の行動が読めているのであれば、回復する必要性は低い、ということだ。致命的な攻撃を回避できるのであれば、そもそもリゲインを活用する必要性は低く、ミスをリカバリーするような用途で使用されてしまう。

 相手の行動を読み切ることができないような状態であれば、リゲインを狙いに行くようなことはせず、従来の作品と同じように距離を取って、相手の隙に回復アイテムを使用する、というような行動が最善になる。

 つまり、リゲインというシステムは、『相手の行動を読み切る』ことによって、『攻撃に防御的な側面が付与される(回復する)』というシステムだが、それは本質的な価値が低い。なぜならば、『相手の行動を読み切る』ことが出来ているのであれば、回復する必要性が弱いからだ。

 後付けにはなるが、このシステムは最終的に次作の「SEKIRO」の弾きに繋がったと考えている。「SEKIRO」の記事にも記載した通り、弾きというシステムはリゲインの逆の、『相手の行動を読み切る』ことによって、『防御に攻撃的な側面が付与される』というシステムになっている。これには意味があり、戦闘におけるフィードバックをより鋭敏に出来ている。こちらでは現代の死にゲーらしさをより高めることができる。

 リゲインは、その設計思想が望んでいる姿を、十全には実現できない仕様になっていると感じられた。

集団戦などでは一定の働きを示しやすい



死という処理における巻き戻りの処理

 「DARK SOULS」の特徴の一つにエスト瓶というアイテムが挙げられる。これは回復アイテムではあるが、篝火(チェックポイント)に戻ることによって、残量が上限まで回復する。つまり、従来のRPGにおける回復アイテムが『そのアイテムを取っておくか、今使うか』という選択であったのに対し、『回復行為をいつどう行うか』というアクション的な選択の面白さだけに焦点を当てた設計になっている。これは非常に現代的な死にゲーと相性が良く、多くの後続作でも採用されている。

 一方で、「Bloodborne」では回復アイテムは消費財である。加えて、上述した銃で攻撃する時にも消費財である銃弾を使うシステムになっている。

 これは現代の死にゲーと非常に相性が悪い。

 なぜなら、現代の死にゲーは、『死』をテンポの良いリセットや、プレイヤーへのフィードバックとして使用しているのに、消費財が切れてしまうことによって、それらの利点を阻害してしまうからだ。

 消費財(回復薬や銃弾)がなくなると、詰まっている部分で挑戦を繰り返すことができなくなるので、それらを稼ぎに行かなければならないだろう。そこでせっかく学習したアクションへの対策などが薄れてしまう。加えて問題なのは、本作にはレベル制も導入されていることだ。

 結果として、ボスなどの障害に詰まった結果、回復薬などの消費財稼ぎの際にレベルまで上げられてしまう。もちろん、レベルを上げる行為は任意なのだが、障害に躓いている以上、プレイヤーはレベルを上げるだろう。

 こうして、再挑戦した場合、レベルを上げた結果、障害は易化してしまう。何度も戦った結果、相手の行動を見極めて勝利した、という感覚は、この稼ぎが挟まることで時間的にも感覚的にも中断されてしまうのだ。

 消費財を買える通貨でもある血の意志(「DARK SOULS」で言うところのソウル)の供給の絶対量は序盤の方が少ないので、序盤ほどこのような現象が発生する。また、死にゲーに慣れていなければ、消費財を使用することに抵抗が生まれることもあり、初心者ほど難易度が上昇してしまうだろう。

 リゲインを狙わせるために、回復アイテムを消費財化することによる心理的な抵抗を加えるような設計上の狙いや、そもそも、消費財が尽きるほどリトライする場合はレベルが足りていないということを暗に伝える、という狙いはあるだろう。しかしながら、これらの結果として、死にゲーとしての純度が落ちてしまっていると感じる。現に、本作の後続作では、このような仕様は引き継がれていない。



独立的なハックアンドスラッシュ要素

 聖杯ダンジョンというランダムダンジョンがあり、そこでのランダムドロップ品で自身を強化するような遊びも導入されている。

 しかしながら、これも死にゲーとの相性が悪いと感じざるを得ない。

 そもそも、現代の死にゲーは、許容幅の狭いレベル(アクション)デザインの上に成り立っている、という側面が強い。だからこそ、ソウルライクのゲームは数あれど、評価の高いものは少ない。調整が難しいのだ。そこに強みを持つフロムソフトウェアのゲームで、わざわざランダムダンジョンを遊ぶメリットがあまり思いつかない。

 また、ランダム要素によって、意図した以上に自身が強化される可能性がある、というところも本編の易化に繋がりかねず、上手く設計されたバランスの上での遊びを損なってしまう可能性がある。

 もちろん、ハックアンドスラッシュ的な遊びは、それ自体が独立して面白いものであり、それが死にゲーを舞台として展開されることの独自の面白さはあるが、如何せん独立的にすぎ、本編とあまりシナジーがないどころか、その面白さをお互いに食い合ってる。

ランダムダンジョン単体の面白さはそれなりにあるのだが……

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