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【こじらせU系】高田延彦という最強の空洞■小説家・樋口毅宏

UWFの熱を浴びて人生を変えられた方々にあの運動体を振り返ってもらう「こじらせU系・第6弾」。今回は『さらば雑司ケ谷』や『民宿雪国』などの作品で知られる小説家・樋口毅宏氏が再登場! 高田延彦のこじらせトーク! ボーナストラックとして樋口さんの短編プロレス小説『最強のいちばん長い日』も掲載(聞き手/ジャン斉藤)

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――前回の前田日明編はかなりの反響がありまして、樋口さんのところにもいろんな声が届いたと思うんですけど。

樋口 同意、賛同はある一方で前田日明ガチ主義者の方からすると……。

――硬い反応もありましたね(笑)。

樋口 でも、全文は読んでないで批判してるなっていう人も見受けられましたけど。

――全文を読んでも樋口さんに批判的な感想を持つんだろうなって思いました!

樋口 そう思います?

――大雑把にいえば、あの記事は「前田日明のいいところも悪いところも語りたい」内容なので「前田日明のいいところだけを語りたい」人からすれば許せない。Uが分裂していったようにUのファンも分かれていったのかなと。

樋口 しかし、前田について語ったらハズレはないですよね。吉田豪さんが「猪木本にハズレなし」というふうに言ってたように前田日明の話も絶対に面白いですから。やっぱりみんな前田のことが大好きなんだもん。

――みんな熱いですよね。樋口さんの語りに喜んだり、怒ったりする人がたくさんいるので、前田日明というエネルギー体は本当に終わってないんだなって。

樋口 まあ、たしかに終わってないですよ。日本プロレス史上、5本指に入る面白さ。前田日明について考えることは悦びですよ。

――ターザン山本っぽいまとめですね(笑)。あの樋口さんの記事がきっかけでこうして「こじらせU系」企画が始まったわけですが、今回のテーマは高田延彦さんです。現役時代の功績からすると過小評価されてるというか、プロレスファンのイメージもあんまりよくないですよね。

樋口 というか、ツイッターでは斉藤さんが高田に一番厳しいですよ(笑)。

――よく言われます!(笑)。でも、高田キャプテンの政治や格闘技に関するトンチンカンなツイートは批判しますけど、プロレスラー格闘家としての低評価だったことはないんですよ。北尾光司戦のハイキックKO勝ちに今頃批判的な声を寄せる奴には憤りさえありますし。あれこそみんなが見たかったUのはずなのに!って。RIZINになってからはイマイチになっちゃってますけど、PRIDE時代の「鳥肌立った!」な解説業を絶賛していたのはボクだけだったりしますし。

樋口 ボクも高田のことは昔から大好きで。じつは生まれて初めてもらった有名人のサインって高田延彦なんです。小学生のとき、池袋の『レッスル』で。

――懐かしいですね、プロレスショップ『レッスル』(笑)。

樋口 商品を1000円以上買うと高田延彦にサインしてもらえるっていうんで、朝早くから兄貴と文芸座のそばのマンションの1室に行って。時間になると、高田が階段をトントントンとさっそうと上がって来て。目の前でサインしてもらったんです。当時からスター性があったんですが、「高田はナンバー2」という目線がいまでも根強いですよね。前田日明派のファンは高田を認めないところはありますし。

――新日本時代から新生UWFまで、高田さんは前田さんの次というポジションでしたね。

樋口 プロレス界には「ナンバー2の歴史」がありますよね。猪木さんが馬場さんを、天龍さんが鶴田さんを、中邑真輔が棚橋弘至を超えようとして光り輝いた。面白いことに、みんな団体を出てるんですけど、要するに次男坊が長男を超えるためには実家を出ることが必要なんでしょうね。前田と高田ってすごく仲が良かったというか、兄弟みたいな間柄でしたから。高田は前田日明を立てていたし。そういった家族みたいな関係がゆえに一旦こじれたら元に戻らないものですよね。

――2人はPRIDE1のヒクソン・グレイシー戦後あたりから疎遠になったみたいですね。前田さんからすれば新生UWF解散は高田さんのクーデターだったとか、ヒクソン戦を横取りされたとかで堪忍袋の緒が切れたみたいですけど。

樋口 「高田、計画的クーデター成功」。あのときの『週刊プロレス』の煽り方! ターザン山本のせい(笑)。自分が発掘してきたリングスの外国人をPRIDEに取られたこともあったけど、トドメは『泣き虫』で前田の出自に触れたことでしょうね。

――前田さんが高田さんに「どこかでつながってるかもしれへんな」と話しかけたって話ですね。ただ新生UWFのクーデターやヒクソン横取りは前田さんの思い違いなんじゃないかなって点もあるし、高田さん自身も前田さんのことを拒絶してる感じが伝わってくるんですね。

樋口 Uインターが旗揚げした後、高田が『週プロ』の巻頭インタビューで「UWFはあの人と兄弟でした」と。過去形か(笑)。別々になったことで兄弟の縁は切れた、あの関係性は卒業したっていうことを匂わせてはいましたよね。

――Uインター旗揚げの中心人物だった宮戸優光さんも当初は船木誠勝エース構想だったけど、船木さんが藤原喜明さんと一緒にメガネスーパー傘下に入るから急遽高田さんを担ぎ上げたということですし。で、高田さんは最後まで前田さんとやりたいという姿勢だったんですよね。高田さんの二度の新日本プロレス離脱にしても、あのまま新日本に残っていればスターになれたのに外に出て。

樋口 それはホントに「新日本プロレス最大のif」なんですよね。もし高田延彦が第2次UWFに移籍しなかったら……高田があのまま新日本に残ってたら闘魂三銃士の天下はなかった。高田延彦が時代を築き上げてたと思う。ケニー・オメガからAEWに誘われたけど行かなかった飯伏幸太がG1制覇とIWGPのベルトをもらえたように。論功行賞。

――高田さんはストロングスタイルをやれるし、どんな試合でも着地させることができる天才肌ですよね。怖さがあるし、大人でもある。

樋口 忘れられないシーンがあります。87年末、両国国技館で暴動。明けて88年、新日が後楽園ホールで開幕したとき、高田が小林邦昭とのシングルだったかな?野次が飛んだんですよ。そうしたら高田がフェンスを蹴って北側を睨んだの。会場が静まり返りました。あのときの凄み! 大人といえば、前田の長州力顔面襲撃のときにあっけなくフォール負けして事態を収拾するところですね。

――逆に空気を読まないでやっちゃうキラーぶりもあるわけですよね。

樋口 高田が初めからトップに立ちたい志向があったら、第二次Uの前に、前田にサヨナラって言いますよね。思ったんだけど、高田ってやっぱり憧れ体質な人なんだと思う。そもそも新日本に入る動機はアントニオ猪木の憧れだった。人生で一番の目標が新日本プロレスに入ることだったんだけど、17歳でその夢がかなっちゃったってことはテレビで言ってます。猪木の次はダイナマイト・キッド。ぶすっとした顔のキッドに高田が満面の笑みで頭を下げて両手で握手してる写真がありますけど。前田にも思慕や恭順が確実にあった。もし長州との騒動を穏便に済むことができたら、新生UWFやUインターはなかっただろうし、あのままずっとナンバー2だったでしょう。

――高田さんは野心的ではないですけど、何か純粋なところがあったのかなと。だからこそストロングスタイルを追求するUに……。初めてエースとして担ぎ上げられたのがUインターでしたけど。

樋口 当時のUインターのイメージって第2次UWFマイナス前田日明、と藤原喜明、船木誠勝、鈴木みのる。つまり残党的なイメージしかない中で、高田が神輿として担がれたけど。いったいUインターとはなんだったのかといえば、多くの人が指摘していますけど、明らかに宮戸ですよね。宮戸は理想主義者だけど、自分の肉体性ではリングで表現することは到底、及ばなくて。そこで自分の理想を託したのが高田延彦。新日本はUインターの精神的支柱が宮戸だってわかっているから、対抗戦をやるときに宮戸を排除したんですよね。一番うるさい人間を最初に取り除いた。

――宮戸さんがプロデュースするUインターは、プロレスに回帰したからこそうまくいったんですが、一番先鋭的でしたね。

樋口 やっぱりそれは絶えず経営難だったからだと思います。リングスにはWOWOWがついてたし、藤原組にはメガネスーパーがついていたけれど、Uインターは何もなくて。だから攻めないといけなかった。Uインターが潰れたあとぐらいかな。ターザン山本のインタビューなんかでも高田は「儲からない」を繰り返していて。それは月1回の興行なんだから、あたりまえなんですね。ボクはUインターが大好きで、武道館、横アリ、真冬の神宮球場にも行ったりしましたけど。神宮は寒かったです。

――Uインターはプロレス回帰路線だったことに違和感はなかったですか?

樋口 当時はべつに……。『紙のプロレス』で花くまゆうさく先生の漫画の中で、松本人志がUWFを見に行ったという話を描いていて。花くま先生は「松っちゃんがあれをUWFと思ってしまう……」みたいな感想だったんです。でも、ボクはあれはあれでプロレスとしてホント面白かったなって。<13000字インタビューはまだまだ続く>

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