愛すべき「雑」の一字
「雑(ざつ)」。
あなたはこの漢字を見て、どのような印象を持つでしょうか。
おそらく、真っ先に思い浮かぶのは
「雑な仕事」
といった表現ではないかと思います。
やるべきことをきちんとやっていない、いい加減なものについて、我々は「雑」と表現します。
しかし、「雑」という漢字はおもしろいもので、マイナスイメージばかりとは限りません。
たとえば、「雑炊」や「雑煮」。
いろんな具材が入っているからこそのおいしさが、「雑」に込められているような気がします。
「雑木林」も、好意的に使われる場合が多いですよね。少年たちがカブトムシを捕りに行く、豊かな里山の象徴です。
そして…。
僕の人生において大きな意味を持つ「雑誌」。
雑誌における「雑」の字は、むしろ誇りであると僕は思っています。
この字にはワクワクが詰まっている
僕がまだ駆け出しの編集者だったころ。
編集長に「雑誌の雑の字を大切にしろよ」と教わったことがありました。
「雑誌は、雑の字が入っているからこそおもしろいんだ」と。
雑の字が入っているからこそ、どんな企画でもできる。すべては自由。
読者にどんな世界を見せてあげられるかは、編集者しだい。
ありきたりの企画・デザイン・文章にとらわれないよう、常に意識しておくべき言葉が「雑」だったのです。
「雑」とは、多様性。
何が入っていても許してくれる器の大きさです。
雑誌には一応「ジャンル」があるけれど、それはあくまで大枠の話であり、企画しだいで無限に広がっていきます。
たとえば音楽雑誌の1コーナーに、グルメ情報があったっていい。ファッション情報があったっていい。
世界観が破綻しておらず、読者が「おもしろい」と感じるのならば、どんな情報が入っていてもいいのです(これぞ編集者の腕の見せどころ)。
ページをめくれば、どんな企画が飛び出すかわからない。
そんなワクワクが「雑誌」という言葉に込められているように思います。
そんなわけで僕は、「雑」という漢字を見ると、なんだか親しみを感じるのです。仕事での「雑」は忌み嫌うべきですが、人間が心豊かに生きていくための「雑」もある。
現在ではWeb編集者となった僕ですが、愛すべき「雑」の一字は忘れずにいたいと、今でも思っています。