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三鷹とSOHO〜その1

1998年12月。全国的に見ても最も早く、三鷹市にSOHOのための施設がオープンしました。当初は、5年間の実証実験のパイロットオフィスという位置付けでしたが、今でもその名を留めています。
1997年にその施設の検討チームに参加してから今日に至るまで、三鷹のSOHO施策に関わってきました。25年経った今、とりあえず、ひと区切りついたと感じましたので、私の視点で話をしたいと思います。

SOHOパイロットオフィス

2000年前後はネット環境の代替が急速に行われ、144や288などのアナログ回線から、ADSLや光通信といったブロードバンドが普及しました。2001年はブロードバンド元年とも呼ばれ、各地でIT企業を育成・集積しようという試みが行われ、〇〇バレーというような華やかな呼称が出現し、SOHOというワードが広まった時期でもあります。
当時、三鷹市では工場などから転換した宅地が増え、企業からの税収減が問題となっていました。ただ、今更、企業や工場を誘致することも難しいため、目をつけたのが、90年代半ばからアメリカで広まっていたSOHOという働き方です。少人数・小スペースで稼いでいるSOHOという人たちがいるらしい…ということで、三鷹市は1998年2月に「SOHO CITY みたか 構想」を打ち出しました。

構想と並行して検討が進められた中に、実証実験のための入居施設「SOHOパイロットオフィス」があります。三鷹駅から徒歩数分圏内にオープンすることを想定し、利用者のためにどういう施設にしたら良いのか、どういうサービスがあったら良いのかなど、ハード面・ソフト面から検討が進められ、1998年12月にオープンしました。

当時を思い出しながら描いた施設のイメージ

1〜10の個室は5〜10平米程度なのでワークスペースとしては狭いのですが、施設内に10人規模の会議室や休憩スペースも併設されています。さらに、受付は常駐、SOHOコーディネーターに気軽に相談できるというのも、この施設の特徴でした。
改めて図を見ると、現在のコワーキングスペースにも見えるレイアウトになっていることに驚きです。

ベンチャーから身の丈へ

何はともあれ、三鷹市はこのように狭いスペースでも起業できるSOHOという個人や会社に着目し、少人数で何億、何十億も稼ぐ企業が集まれば税収が増えると考えたわけですが、そうは問屋が卸しません。住宅地が多く、中央線(あるいは東京都)のほぼ中央という位置にあるからなのか分かりませんが、ガンガン稼いで会社を大きくするぞ!という人(企業)よりも、仕事も大事だけどプライベートも大切にするよ♪という人(企業)が多く集まったように思います。
理想と現実のギャップが生まれたわけですが、数年続けているとなんか違うぞ、と感じる人も出てきました。さらに現実に即した「身の丈」という考え方も出てきて、SOHO施策のキーマンのひとり前田隆正さん(私はSOHOの父と呼んでいます)は、2006年に『「身の丈起業」塾』という本も出しました。2003年に開講した三鷹の起業セミナー「SOHO・ベンチャーカレッジ」も、いつの頃からか「身の丈」を取り入れ、少なくとも私が講師をするようになった2010年には「身の丈起業塾」と謳っていました。

事業者の実務を教材にしたセミナー

さて、この「身の丈起業塾」は、珍しく士業の講師がほとんどいません。かく言う私も講師をしています。近頃では、本業に関係しているプロモーションの講座を担当していましたが、講師をするようになった2010年から2019年までは本業と全く関係ない講座を担当していました。

さて、何を担当していたかわかりますか?

なんと経理や確定申告を担当したのです!(私もびっくりです)
ある日、当時塾長だった前田隆正さんから「経理や確定申告はどうしてる?」と聞かれて、「ソフトでやってます」と回答しました。「領収書を仕分けして、入出金を入力するだけなので、ずいぶん簡単になりましたよね」と続けたところ、その実際にやってることを話して欲しいと言われました。
今なら私にもわかります。90分で「もしかしたら、自分にも経理や確定申告ができるもしれない」と受講者に感じてもらえるような体験談を話すことが、私の役目だったのでしょう。同じように特許や事業計画書の講座も弁理士や中小企業診断士ではなく、実務を経験している事業者が担当していました。
前田塾長は、事業者が自分でやっている実務を教材にすることで「起業している人がやっているんだから、皆さんにもできますよ」と受講者の背中を押したかったのではないでしょうか。
その身の丈起業塾も、塾長が交代し、一昨年のコロナ禍をきっかけにオンラインセミナーとなり、内容も様変わりしました。今年も三鷹ネットワーク大学で開講されると思いますが、どのような内容なのか楽しみです。

成功した社長の「こうすればうまくいく」

前田隆正著『「身の丈起業」塾』光文社(2008年)第4章タイトルより


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