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「人ができていることなのに、 自分ができていないことが苦しい。」vol.5 S氏


現代に生きる人、ひとりひとりの結婚勘を探ることで、家族感を探る試み「結婚インサイト」。

「結婚という制度にこだわることはない」「家族のカタチは家庭によって違ってよい」という柔軟な捉え方が広まりつつある一方、大多数の人々から「わかりやすいカタチ≒承認されやすカタチ」を求める心理も存在するように思います。

さて、仕事に熱量を注ぎ、姉御的存在のS氏は何を思っているのでしょうか。
インタビューのコアは死生観。人生とはなにか、どう生きて死ぬか。そこに紐づく形で結婚が登場するのが印象的です。


■S氏概要
アラフォー、女性、独身。マネージャー職。
過去に結婚寸前までいった人がいたが、たびたび両親の反対に合い、結果お別れすることに。

「人ができていることなのに、
自分ができていないことが苦しい。」


■結婚に対してどう思う?
結婚したいって思っているけど、できてない(笑)。
最近ひとまわり下の後輩たちがバーっと一気に結婚したよ。
なんでみんな結婚できるのかねえ。


・どうして結婚したいのかな?
妹夫婦を見ていいと思ったから。
妹の旦那さんが、けっこうぶっ飛んでいる人で。海外で働きたいと妹とカナダに行ったんだけど、「語学に集中したいから」という理由で妹とは別々に暮らすは、「結婚する気はないよ」って言うはで、妹はもやもやしていてね。

とうとう妹が、「結婚しないなら私は日本へ帰る」って日本に戻ってきた後に、彼はアメリカで就職が決まって、グリーンカード(永住権)も取れることになって結婚したの。

普段からちょっと変わっている旦那さんなんだけど、一緒にいるときはよく気がきくし、家事もするし、家族にも優しいのよ。私やうちの両親にもプレゼントをくれたりして。妹もよくいろいろ買ってもらってて。
そういう夫婦を見ていて、やっぱり結婚っていいなあと思ったんだよね。


・妹さんが結婚する前から結婚したかったんだよね?そのあたりはどうしてだろう?

人が普通にできていることなのに、自分ができないことが苦しくて。
プライドというか、できないということに負い目があって、最近では「なんでみんなができるのに私にはできないんだろう」って。
正直よくわからなくなってきたけど。


・仕事はバリバリできていても、それは関係なく?

そう。仕事とは関係なく。左手薬指に指輪はめたいんだよね~。


・もう、はめちゃえばいいんじゃない?

そうしよっかな(笑)。
外野が「結婚はまだですか?」とか聞いてくるのもめんどうなんだよね……。

・結婚したら一緒に暮らしたい?
うーん……どっちでもいい。一人だと寂しいと思うけど、今はどっちでもいいかな。
私、家でひとりでいるときは廃人みたいなの(笑)。
誰かが家にいても、スイッチが切れていて、しゃべらないんだよね。家を出た瞬間に話し始めるからそのギャップに驚かれる。

・どうして話さないの?
ずっと考え事をしていて脳内で独り言を言っているか、本当に何も考えていない(笑)、のどちらか。


■子どもについての捉え方

・子どもは欲しい?
うん、欲しい。

・それはなぜ?
親の遺伝子を残さないで、終わるのはヤバいと思うんだよね。

・どうしてヤバいの?
生物として生まれ持った使命だから、残さねばならないと思ってる。
でも妹がこの前出産して、親のDNAが次世代につながったから、なんとなくほっとしている(笑)。


・結婚して子どもが欲しいということだけど、個人的にどういう形式で過ごしていくのがいいと考えているかな?

結局、最後は籍を入れて、名字が変わって、一緒のお墓に入る形式。古風なスタイルかもしれないけど、私が求めているものなのだと思う。

というか、「入籍した」という経験が一回は自分にほしいのだと思う。それが叶ったら「どういう形式で過ごしてもいいんじゃないかな」と言い出しそう(笑)。

同じものを見ていろいろ感想を述べたり、仕事について多少激論を交わしたり、どちらかというと友達の延長で、なんでも言える親友で戦友みたいに生きていきたいなあと思う。

でも、そもそもそういう人がなかなか見つからないんだなってことにも気づいてしまった。
私、結構いろんなことにこだわりがあるし、こだわり度がハンパないんだよね。

若いときは好みが一緒であることが大事だったけど、そんな人は、なかなかいないんだって気づいた。だから最近は自分を受け入れてくれる人で、私もその人を尊敬できればいいなと思ってる。

あとは、夫となる人だけでなく、「家族の人とも家族になりたいって思えるか」も大切。その人と周りの人も愛せるかどうか、そこに自分がいることが自然と感じられるかどうか、が大事だなあ。


……結局、死生観だと思うの。

人生って、何をしてどう死にたいかの逆算だと思う
のね。
数年前に仲のいい友達ががんで亡くなって、すごくショックを受けて。
あたりまえだけど「人はいつか死ぬんだな」と思った。

その後自分にも良性腫瘍ができて入院して手術して、完解したと思ったら数年後の血液検査の腫瘍マーカーで陽性が出てしまって。

今度は悪性腫瘍の疑いが高い数値だったから「これは今度こそ死ぬかもなあ、でも今死んだら親不幸だな」なんて考えて再検査したら、結局がんじゃなかった。
でもその時にも、「ああ、人はいつか死ぬんだな」と思ったの。

「いつか死ぬ」って、普段はあまり意識していないけど、定期的に気づくことは大事だなと思う。

どう生きたいか、どう死にたいかって問い直すことになるから。

・具体的に「どう生きて、どう死にたい」というビジョンはあるのかな?
ずっと思っているのは、死ぬときに大好きな人たちに囲まれて「人生楽しかったよ、ありがとねー」って笑いながら死んでいくこと。看取ってくれる人たちの泣き顔じゃなくて笑い顔で「じゃあねーまたあとでねー」って送り出されたい。

仕事をしてたら人とは関われるけど、それだけでは本当の意味で人と生きて行くとは言えないのかなと思ってる。

結婚も出産もしていない私は、このままだと孤独に一人で死んでいくんじゃないか、と不安に思っているので、そうなると結婚はものすごく大事。家族が他の家族とつながって血縁を作ることが大事。


最近では血がつながっていなくても、人とつながっていくようなシェアハウスや、共同体みたいなものも現実的になってきたから、そういう生活でもいいかなと思う日がやってくるのかもしれないけれど、それはいろいろと体験したうえでたどり着くゴールのひとつ。
やっぱり人が経験している結婚を自分も経験したうえで判断したい。

家族を作るのに一番手っ取り早いのは「結婚」という契約。
だから一度籍を入れてみる、という体験をして実感してみたい。やってみて、「あれ、思ったのと違うな」となるようなら、違う選択肢を探すのだと思う。

……自分の親や親類たちが、割と幸せな死に方を経験しているのを見ているから、私もそうありたいな、と思うのだよね。そうするとやっぱり家族が必要だと思う。

■不倫や浮気について

・どう思う?

昔は不倫は絶対ダメ!と思っていたの。でも、次に「付き合って」って言われた人がどんな人でも「とりあえず付き合おう」って決めたタイミングで、実際に言われた人が既婚者だったから、とりあえず付き合ってみたのよ(笑)。何事も経験、と思って。


それで相手に「もし、子どもができたらどうする?」って聞いたのよ。
そしたら「認知する」って言ったのね。
「奥さんが悲しむよ?」と聞いたら「それはそれ。自分のDNAは残さないと」と返ってきて。


ああ、この人の奥さんは、生きるために(経済的な理由で)この人と結婚したんだなって変に納得したんだよね。
何度か奥さんには浮気がバレてるって聞いて、なんだかこの人と付き合っていても時間の無駄だな、と思って別れた。(笑)


・子どもは不倫相手の子であっても欲しい?

目的が子どもだけであれば、誰でもいいからタネをもらえばOKだと考えてるけど、育てることを考えると一人ではやっぱりイヤだよね。
結婚には事実婚とかいろんな形があるなかで、誰と一緒にどういう形式で過ごしていくかが大事だと思う。


■家族のイメージ

・どんな家族像がある?

家族は一緒にいるのが当たり前と思っているなぁ。それがスタンダード。家族は帰る場所であって、特別な理由がなくても一緒にいられる存在だよね。
私がそうやって育ってきたから相手にもそれを求めるのだと思う。


・S氏は、付き合っている彼でも特別な理由をいわないと一緒にいられないの?


言えないんだよね(笑)。
女の人にはいくらでも素直な気持ちが言えるのに、男の人に「もう少し一緒にいたいな」って言えないの。結局、心の底から人をなかなか信用できないのだと思う。いつか離れていってしまうのではないか、という気持ちが強くて、なかなか本音を言えないんだ。


S氏 完


インタビューをするなかで、女性の結婚観は人生と直結していると感じていましたが、S氏はそれを掘り下げて言語化してくれました。

多くの共感を呼びそうなインサイトなのだと思います。


インタビュアー:斎藤 貴美子 さいとう きみこ
コピーライター/ライター/コミュニケーションプランナー/クリエイティブディレクター

世の中のインサイト(本人も気づかないこともある隠れた気持ち)を拾って仕事と世の中に生かします。趣味は日本酒・三国志・自由研究。

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さいとう きみこ
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