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天皇の祭りの「米と粟」

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神嘉殿で行われる宮中新嘗祭、大嘗宮で行われる大嘗祭で、もっとも重要な神饌は「米と粟」の御飯(おんいい)です。なぜ「米と粟」なのか、なぜ「粟」なのか?
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2024年7月の記事一覧

なぜ粟の存在を無視するのか──竹田恒泰氏の共著『皇統保守』を読む その4(2016年5月2日)

なぜ粟の存在を無視するのか──竹田恒泰氏の共著『皇統保守』を読む その4(2016年5月2日)

 竹田恒泰氏の天皇論を批判的に考察しています。

 竹田氏の『皇統保守』の第二章は、原武史氏の宮中祭祀廃止論を批判の標的にしています。当然、お二人の結論は異なるのですが、前提はあまり変わりません。

 原氏は天皇の祭りを「農耕儀礼」と考え、竹田氏は「稲作儀礼」とお考えのようです。しかしいずれも間違いだと私は考えます。

▽1 新穀を神人共食する「農耕儀礼」

 原氏は月刊「現代」2008年5月号に

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「米と粟の祭り」を学問的に深めてほしい──竹田恒泰氏の共著『皇統保守』を読む その5(2016年5月3日)

「米と粟の祭り」を学問的に深めてほしい──竹田恒泰氏の共著『皇統保守』を読む その5(2016年5月3日)

 竹田恒泰氏の天皇論批判を続けます。

 これまで、天皇の祭祀は皇祖神だけを祀るのではないこと、「稲の祭り」ではないこと、つまり宮中祭祀に関する事実認識に誤りがないか、などと指摘してきたつもりです。

 今回はもう少し大嘗祭=「稲の祭り」説にこだわってみます。

▽1 なぜ鎌田氏を引用するのか

 竹田氏は共著のなかで、大嘗祭が「稲の祭り」であることを説明するのに、鎌田純一氏(神道祭祀)を引用して

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大嘗祭は「稲作中心」社会の収穫儀礼か?──検証・平成の御代替わり 第7回(2011年10月8日)

大嘗祭は「稲作中心」社会の収穫儀礼か?──検証・平成の御代替わり 第7回(2011年10月8日)

 政府関係者の著書や政府・宮内庁の公式記録をもとに、平成の御代替わりを検証しています。今日は最終回、大嘗祭について、です。

▽1 宮内庁内で本格化した検討

 宮内庁がまとめた『平成大礼記録』(平成6年)をもとに、昭和天皇崩御後の政府・宮内庁内の出来事をあらためて、時系列で追ってみます。

平成元年2月24日、葬場殿の儀、大喪の礼が終了しました。宮内庁の記録にはどういうわけか、言及されていません

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神嘉殿新嘗祭の神饌は「米と粟」──涙骨賞落選論文「天皇とは何だったのか」3(2019年7月14日)

神嘉殿新嘗祭の神饌は「米と粟」──涙骨賞落選論文「天皇とは何だったのか」3(2019年7月14日)

(画像は荷田在満『大嘗会便蒙』から。「御飯二杯」が米御飯と粟御飯である)

 歴代天皇は日々の祈りを欠かせられなかった。清涼殿での石灰壇御拝がそれだが、皇室第一の重儀とされてきたのは新嘗祭である。新穀を捧げて祈るとされているが、新穀とは稲ではない。稲だけではない。

 昭和天皇の祭祀に携わった八束清貫・元宮内省掌典は、「この祭りにもっとも大切なのは神饌である」と指摘し、「なかんずく主要なのは、当年

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天皇はなぜ「米と粟」を捧げるのか?──涙骨賞落選論文「天皇とは何だったのか」4(2019年7月21日)

天皇はなぜ「米と粟」を捧げるのか?──涙骨賞落選論文「天皇とは何だったのか」4(2019年7月21日)

日本の稲は栽培種であり、帰化植物である。日本列島に自生する稲はない。粟がエノコログサを原種とする穀物であるのとは異なる。

 植物遺伝学者・佐藤洋一郎氏の「日本稲の南北2元説」によれば、日本の稲には遺伝学的に2つの源流があるという。ひとつは東南アジアの島々から伝わってきた陸稲的な熱帯ジャポニカで、そのあと、もう一つの中国・揚子江流域を起源とする水稲的な温帯ジャポニカが伝来した、と説明されている。

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伊勢雅臣さん、大嘗祭は水田稲作の農耕儀礼ですか?──国際派日本人養成講座の大嘗祭論に異議あり(2019年11月24日)

伊勢雅臣さん、大嘗祭は水田稲作の農耕儀礼ですか?──国際派日本人養成講座の大嘗祭論に異議あり(2019年11月24日)

(画像は令和の大嘗宮)

 伊勢雅臣さんの「国際派日本人養成講座」は定評あるブログで、私もファンですが、11月17日の「大嘗祭」はいただけませんでした。思い込みに囚われ過ぎているからです。とはいえ、他人様の文章にいちいちケチをつけるのも大人気ないし、唇を噛んでおりました。

 しかし、渡部亮次郎・元NHK 記者主宰の人気メルマガ「頂門の一針」に転載されるに及んで、看過できなくなりました。というわけ

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