【戯曲】星の初恋

作 サイトウナツキ


登場人物

女 フルカワ コガネ 
友達 シロカネ チナ  
男(彼氏) ワサト
上司 八木さん
同僚 猫山さん

シーン1

女、ソファで寝ている。
目覚ましの音。
目覚ましを止める。携帯が鳴る。

女「クソ」

女「・・・おはようございます。なんすか。ハア。はい。いや、今日私、忌引、ハア。そうですか。で何ですか。・・・そんなこと言われても。ハア。はい。じゃあやめます。私。やめます。いや、だから辞めます。私仕事辞めます。はい。は?うるさいな。何ですか?はァ。うん。もうやめるから黙ってろよ!クソジジイ!あとは適当にそっちで処理してくれ!退職金とかいらねえから!死ね!」

電話を切り、そのまま横になっている。

女「・・・今何時だ」

シーン2

「星の初恋」

私の心には、あの頃の風景が
あのまま、こびりついているように
今も残っている

ざわざわ 
ヒューヒュ
ぽつぽつ 
どきどき
きらきら

女「今何時?」
友達「21時半過ぎかな」
女「じゃあもうすぐかな」

友達「やっぱり寒いね」
女「うん。(リュックから取り出し)はい、カイロもうあったかくなってる」
友達「これ激アツって書いてるよ」
女「これが一番コスパいいし、これしかうちにないし。あとこれ(ブランケットをかける)」
友達「ありがとう、でも今日雨降るかもだよ。いいの?」
女「いい、また洗って乾かせばいいし」
友達「持って帰るのがだるいじゃん」
女「今が寒いからこれでいい」
友達「雨降っても手伝わないよ」
女「帰ることなんて今は考えなくていい。」
友達「知らないよ」

女「雲晴れた。あれがベテルギウス?」
友達「そう。それでその下がシリウス」
女「じゃああそこがプロキオンだ」
友達「うんそう。もう私いなくてもわかるじゃない」
女「だって今日でここに来るのは7回目。一緒に星を見るのは10回目。」
友達「数えてるのちょっとキモイね」
女「ひどい」
友達「ちょっといいすぎ?」
女「いいすぎ」
友達「でもちょっといいすぎなくらいが友達でしょ」
女「何それ」
友達「ちょっと太った?」
女「最悪」
友達「え、ちょっと太ったよね?」
女「太ってない、と思う」
友達「あれ?例の彼のせい?」
女「違う、生理でちょっと食べ過ぎたかも」
友達「生理先々週におわったじゃん」
女「把握してる方がキモイ」
友達「じゃあ幸せ太りじゃん」
女「違う」
友達「あ、流れ星」
女「え、ちょっと」
友達「ほら、あそこ」
女「どこ?どこ」
友達「嘘」
女「もう!」
友達「ごめん、ごめん」
女「もう帰るよ」
友達「帰んないくせに」
女「ホントに帰る」
友達「別に止めないけどね」

友達「ほら、帰んないじゃん」
女「ムカつく」
友達「ねえ、流れ星見えたら何願う?」

女「願い事ね、私はさ」

ずっと一緒にいれますようにって

シーン3

彼氏「おはよう」

女「うん、おはよう」

彼氏「今日」
女「うん」

彼氏「さっきさ、外行って、あれ、クリーニング受け取りに行こうと思って、晴れてたからさ、この前買ったスニーカー、あのアディダスの、一緒に買いに行ってくれた限定モデルのやつ。あれはいて行っちゃおうとか思って、行ったんだけどさ、あの、昨日雨降ってたじゃない?それで外出た瞬間水たまり踏んじゃってさ」

彼氏「その、それでさ、まあいいかとか思って、すぐだし、これ以上外出る予定とかないし、まあ乾くかとか思って、そのまま歩いたら、次、犬のうんち踏んじゃって、いや、犬の糞はちゃんと持ち帰れよなとか思ってさ、ホント朝からついてないよなーって思って、」

彼氏「ウンチはついてるんだけど」

女「え、ああ、ごめんウンチ?」

彼氏「そっか、うん。ああ、ごめん。あ、そう、だからこれ、はい。」

スーツのような形式ばった服を渡す

彼氏「クリーニング受け取ってきたから」
女「ありがとう」

彼氏「何時から?」
女「14時から」
彼氏「そう」

彼氏「じゃあお昼は食べてから」
女「ああ、ごめん、お昼今日はいらないかな。ちょっと行くとこあって」
彼氏「そう」

女「だから、ごめん、だからちょっとそろそろ行くかな」
彼氏「そう、わかった。ちなみに夜は?」
女「夜は、家で食べるかも」
彼氏「わかった。じゃあなんか適当に作っておくよ」
女「ありがとう」

女は着替え、アクセサリーを身に付け、
メイクはするか、しないか、これは濃いか・・と迷いメイクはしないように
最低限をバックにつめる。

彼氏「俺も一緒に行ってもいいかな」
女「・・・まかせる。」

彼氏「うん、そうっか」

彼氏「あ、じゃあ色々断捨離しようかなとか思ってるんだけど」
女「ああ、うん」
彼氏「適当に捨てといてもいいかな」
女「ああ、うん」

女、靴を選んで部屋を出る寸前

彼氏「あのさ、俺も」

女「何?」

彼氏「俺も一緒に夜ご飯食べてもいいかな」

女「ああ、うん」

彼氏「ごめん、ありがとう」

女「じゃあ、あ、帰る時一応ラインするから」

彼氏「わかった」

彼氏は部屋のゴミや先月のカレンダー、穴の開いた靴下

彼氏「これもいらないかな」

彼氏「失礼しまーす」
彼氏は女の部屋に入る

シーン4

上司「失礼、失礼失礼ー」
同僚「おはざいまーす」

上司「おはよーう」

上司「おはよう」
同僚「おはようございます」
上司「はい、おはよう」

上司「猫山さん、いい?おせっかいかもしれないけど、挨拶はね、されてからするもんじゃないんだよ。目下の人間からして、初めて始まるものなのよ。研修でやらなかった?」
同僚「3年も前のこと覚えてないです。」
上司「まあ、覚えてないよね、3年もたってしまったらね。僕ももう先月の結婚記念日をちゃんと祝わず、嫁から怒られたことは覚えてるんだけど、何言われたかまではもう覚えてないんだよね」

同僚「そうですか」

上司「でもね、結婚記念日があるってことは、嫁がいるということで、
嫁がいるということは、帰った時に飯があるということで、これは紀元前から決まった事実なんですわな」

上司「ということは、挨拶も同じくであり、やっぱりねされる前に元気よくおはざいまーすって挨拶するっつうことが、これもまた古生代から決まってるんだわな」

同僚「私挨拶しましたけどね、セクハラですか?」
上司「届いてなかったらそれはあいさつではありましぇん。あとセクハラではありましぇん」
同僚「で、古河さん今日休みなんですよね?」
上司「うん、今日休みなんだけどさー、でもちょっと聞いて~」
同僚「全然いやですけど、ていうか、今日」
上司「今日さ、猫山さん一人じゃない?あのー派遣の、中国人のなんだっけ」
同僚「マオさんですか」
上司「そうそう、とあともう一人、いたよね、ドーナッツいっつも食べている」
同僚「ハムマヨさんですか」
上司「そうそう!その人とマオさんも辞めちゃってさ、今日から猫山さんと古河さんの二人体制で、忌引とはいえ、初日から一人なのはしんどいじゃない?だから朝、電話したの。『もしもしおはよう。おはよう。八木です。今日って出勤できるかな。ああ、うんそれはね、わかっているんだけど、先週二人辞めちゃって、猫山さん一人しかいないじゃない?だからちょっと休みっていう体ではいるんだけど、今日出勤できないかなと思ってね。いや、まあそんな、ね、ああ、こっちは、いつだってお前をクビにできるんだぞっとか言ってみたりしてね。え?いやいや、嘘嘘、やめる?辞めないでよ。冗談じゃん、いやあ、いや、処理しといてって、どうすんのよ、退職日とか、ええ、退職金なんて出ないよ、ええ?ちょっと』ってね。最後死ねとかまでいわれちゃってさ、これ僕が悪いかな。」
同僚「ああ、わかんないっす」
上司「だよねーわかんないよねー」

キーンコーンカーンコーン

同僚「じゃ、時間なんで行ってきます」
上司「うーん、僕が悪いのかな」
同僚「あ、これ、はい」

OLスーツを投げ渡す。

上司「えっ」
同僚「一人は流石に無理なんで、お願いします。」
上司「えっ」

上司「一応上司なんだけどね」

シーン5

昼間。校舎の屋上。
学生服の男がいちごみるくと焼きそばパンを持って出てくる。
空気を感じて背伸びをする。

椅子に座る。

女、友達も追って出てくる。

友達「人がいるの久しぶりって感じだね」

友達「3組だよね?」

友達「3組のサッカー部の」
男「俺?」
友達「見るからにサッカー部って感じだよね」
男「ああ、まあ」
女「ちょっと」
友達「それだけで足りるの」
男「ああ、まあ」
友達「なんか、運動部ってさ、もっと土管みたいなお弁当じゃないと足りないんじゃない?イメージ」
男「土管?」
友達「水筒の方がいいかな、1Lの水筒みたいな」
男「いつもは二段弁当だから」
友達「でも今日は焼きそばパン。早弁?早弁ってばれない?」
男「早弁じゃないし、休み時間ならばれないし」
友達「ばれたら怒られる?」
男「休み時間に飯食って怒られるとこみたことある?」
友達「ない」
男「じゃあ、いいんじゃない?」
友達「いいんじゃないって」
男「さっきから何?」
友達「いや、別に。一人で屋上とか、漫画かよとか思っただけ」
女「何言ってんの」

男、機嫌悪く屋上を去る。

友達「あーあ」
女「あーあって」
友達「友達いないのかな」
女「イメージで喋るのよくないよ」
友達「イメージじゃないよ、事実から読み取った」
女「それがイメージじゃない」
友達「でもイメージでもよくない?」
女「偏見ってことじゃん」
友達「そういうと聞こえ悪いけどさ、でも大体あってるよ」
女「大体って」
友達「私の見立てでは、同い年でサッカー部で、サッカーへたくそで
ついていけなくて、サッカー部やめて、喧嘩別れしたみたいな」
女「サッカー部だからって彼女いるとは」
友達「いや部活ね、部活の人とか顧問とか誰かわかんないけど、なんか喧嘩して退部したとかそういう、喧嘩別れって意味。今の話で彼女いると思ってるコガネがイメージで喋ってるじゃん。」
女「いや、誘導尋問じゃん」

お弁当の占いグラタンを食べる。

友達「あ、今日の占い大吉だって星5」
女「なんか釈然としない」
友達「さっきのイメージあってたんじゃない?」
女「外れてるね」
友達「そっちの占い見せてみ」

友達「ほら、末吉。星1、絶対私の予想があってるから」
女「ふーん」
友達「今度会った時確かめてみよ」
女「相手にされないよ」
友達「わかんないよー、女の子に話しかけられてうれしくない人いないもん」
女「何それ」
友達「あ、この前借りた小説、全部読み切ったよ。」
女「面白かった?」
友達「んふふ」
女「面白くないなら面白くないって言えばいいのに」
友達「まあ、口に合わなかったかな」
女「ブリーチにリボーン好きならハマんないよな」
友達「私はいつでも少年心がジャンプしてるから」
女「少年っていうかおこちゃまってカンジ」
友達「やるか?おこちゃま戦争」
女「私が勝つからいい」
友達「なんかムカつく。だから、返すわ・・・と思ったらカバン下だったわ。取ってくる!」
女「取ってこなくていいよ。もう昼休み終わるんだから」
友達「取ってくる!」

友達、カバンを取りに屋上を去る。
照明変化
放課後。

女、カバンをもって立ち上がり
男、屋上に現われる。

女「あ」
男「?」
女「あの、昼休み、友達が言い過ぎた感じでなんかごめん」
男「ああ、いや、全然」
女「なんかごめん」
男「じゃあ」

女「あの!ちなみに部活ってサッカー部であってますか」
男「え」
女「ああ、いや、サッカー部だったのかなとか思って」
男「・・・違うけど」
女「え違うの?」
男「違うけど」
女「え、じゃあ何」
男「一応野球部、だった」
女「野球部なんだ」
男「なんで嬉しそうなの」
女「いや、別に嬉しくはないんだけど」
男「野球部っぽくないよね。」
女「いや、まあそんな野球部と言われたら野球部と」

女「ていうか、だった、なんだ」

男「弁当、二段弁当がどうとか言ってたよね」
女「ああ、友達がね」
男「二段弁当食べれないんだよね。食べきれないっていうか」
女「それはまあイメージ通り」
男「俺、細いから、肩も弱いし、スタミナもないし。逆に早いとか、
ピッチング器用とかそんな感じでもないし。」

女「概ねイメージ通り」

男「1年続けてみた。1年は続けてみたけど。上手くなることは、まあなかったし。一生懸命やってても先輩とかも笑い半分で馬鹿にしてくるし。」
女「それで喧嘩しちゃったんだ」
男「そうそれで副部長と喧嘩してって、え、なんでわかったの」
女「ああ、なんか、星の導き?」
男「星?」
女「まあ、そこはどうでもよくて。ていうかまああんたの話もどうでもいいんだけど」

男「多分サッカーやっても同じだったんだろうな」

女「それはそうだね」

女「なんで野球部入ったの」

男「野球選手かっこいいじゃん」

女、思わず笑ってしまう。

男「そんな面白い?」
女「いや、いやいや、なんか、いいなと思って」
男「何が」
女「なんか、そういう思いつきっていうか、気持ち一個でちゃんと踏み出せるのすごいナと思って」
男「馬鹿にしてる?」
女「まあちょっとだけ」
男「してるんだ」
女「いや、してないしてない。グットラック」
男「してるじゃん」

男も自然と笑みがこぼれだす

友達「ごめんごめん、遅れた。いや、ちょっとそろそろ屋上集合するのしんどいかもね」
男「あ、じゃあ」
友達「お、昼間のサッカー部じゃん」
男「どうも・・」
友達「帰んの?」
男「ああ、まあこの後予備校が」
友達「予備校?かしこじゃん」
男「まあ、来月センターだし、じゃあ」

男、去る。

女「来月センターか」
友達「うちらは来年だよ」
女「じゃあ、あの人先輩じゃん」
友達「うわー外したかー。あ、ねえ他のとこはあってた?サッカー部とか。いやサッカー部は当たってたか、あの感じ」
女「あー、まあおおむね?当たってたかな。」
友達「いえーいラッキー。」
女「じゃあ」

友達「なに?」
女「いや、先輩なのに終始ため口使ってた罰として、今からあの人に謝ってこないと」
友達「それはコガネだって同じじゃん」
女「私はなんか許されてる感じだし。まあセーフ」
友達「えなに、そういうこと?」
女「え、どういうこと?」
友達「ちょっとやだ!受験生だよ!落ちたらどうすんの!」
女「確かに」
友達「あ、そうだこれあげる」

友達は私に色んな星のビーズアクセサリーがついたような
数珠ともセボンスターのおまけとも取れそうなブレスレットのようなアクセサリーを渡す。

友達「これ、あげるわ」
私「何、セボンスター?懐かしい感じする」
友達「セボンスター懐かしいけど、違う。私のお手製」
私「これ作ったの?」
友達「高円寺とか下北の駅降りてすぐのフリマみたいなとこで買ったアクセの寄せ集めだけど。私が作ったお守り。あげる」
私「ありがとう」
友達「捨てないで持ってたら、ちゃんと効果あるから」
私「絶対?」
友達「多分」
私「多分なんじゃん」
友達「グットラック!」
私「何グットラックって」

女は友達とわちゃわちゃする。

シーン6

暗転

それから何度か屋上で会って
チナのおかげもあってだけど
ドラゴンボールとワンピースといきものがかりの話をして
話の流れで、なんとなく連絡先交換して
受験が終わって、
バッティングセンターとフットサルにいって
プラネタリウム見て
なんとなく付き合った。

その後1年経たないくらいでなんとなく別れた。

明転

友達「ちょっとやせた?」
女「やせ、たかも」

友達「なんやかんやでちゃんと傷ついてるんじゃん」
女「でも、最初から最後まで別になんとなくだったから」
友達「とかいって、お熱だったんだから」

女「馬鹿」

友達「これ」
イヤホンを差し出す。
私「何?」
友達「私が最近聞いてるバンドの新曲」
私「なんていうバンド?」
友達「コー・・コーデイ・・なんて読むかわかんない。」
私「ホントに好きなの?」
友達「ホントに好きだよ」

友達「ホントに好きだったんだよね」

友達「曲がね。でも一人脱退しちゃってさ。」

二人で曲を聴く。星を眺める。
うっすらと曲が空を舞う。

女「ねえ、あれ何?あそこの星なんて言うの?」
友達「あれってどれ」
女「あれだよ!」
友達「どれだよ」
女「あの2つ並んでるやつ」
友達「あれ?あれはカストルとポルックス。ふたご座の星。」
女「あれがふたご座なんだ」

友達「カストルとポルックスは双子だったんだけどさ、
カストルは普通の人間で、ポルックスは不死身だったの。
カストルはいつか死んじゃうんだけど、ポルックスはいつまでも死ぬことが出来なくて、悲しむ姿を見かねた神様が、二人をいつまでも一緒にいられるように星座にしたんだって。」

女「ふーん」
友達「興味なさそうで私とてもがっかり」

女「興味ないことないけど」

女「神様ならカストルも不死身にして蘇らせてあげればよかったのに」
友達「神様でもいなくなっちゃった人には何もしてあげられないんじゃない」
女「星座には出来るのに?」
友達「ロマンチックだから」
女「神様はメルヘンに生きてるんだね」

友達「ねえ、もし私が死んだらさ」
女「死んだらとかやめてよ」
友達「もしだよ、もし」

私のこと星にしてほしい。
イメージでいいから
神様じゃないから無理
なんだ、残念

これがチナとの覚えている限りで最後の会話

それから、学校にも来ず、携帯も反応なく、家にもいないようだった。
病気で亡くなったことを知ったのはその後、
高校を卒業してすぐのことだった。

シーン7

明転

同僚「いらっしゃいませ、受付こちらになります。はい、フランス」

上司「冬の星空周遊懐かしの旅90分コース2名様分ですね、
はい、2名様分で確認できましたので、こちらからおはいりください。
なお、上演中は写真撮影、飲食、お手洗いなどの途中入退場は出来かねますので、ご了承ください。では、星空の旅へどうぞ~」

上司「最近の人ってホント人の話聞かないよね」
同僚「そうっすね」
上司「この前なんかさ、大学の後輩がいっぱいこっち来てさ、飯連れてってくださいよとかいってきたから、よしじゃあ、行ってやるかとか思って、連れてったんだけど、それがさ、韓国料理の店でさ、トンガって店。あそこ言ったことある?ああまあ別にいったことなくてもいんだけどさ。そこでさコースの説明してくれるんだけど、まあわかりやすく言うと上中下でコースがあんのよ。んで、まあそこでいう竹、竹くらいのコースだとさ、生がつかない代わりに、カルビが追加で多くついてくるってカンジで、説明をさしてくれんだけど、店員さんが。たださ、後輩その説明全然聞いてなくて。これ発泡酒だろとか、めちゃくちゃクレームつけちゃってさ、いや、ホントこんな後輩に育てた覚えはないんだけどなとか思って、まあその場は諌めたんだけど。僕がね、僕が。うん。で、後輩っていっても7個くらい違うのよ。で7歳離れるってこんな違うんだ、文化?環境というか、種族が違う気がして、
まあ小1と中1で同じ価値観は無理かとか思ったりしたんだけど。って勝手に納得しちゃって、まあ納得するだけでなんともないんだけどさ。星が違うってこういうことだよね、なんか、さっきの人とか見てるとそれ思い出しちゃうよね。」

同僚「そうスカ」
上司「何、あんたもマジンガー世代なの?Z」

上司、一人で話し続ける。

同僚「いらっしゃいませ、受付こちらです」
女「大人一人で」
同僚「はい、5000円になります。丁度いただきました。こちらからおはいりください。どうぞ」
上司「今の子、どっかであったことあったかしら」
同僚「もう忘れたんすか」

上司「ハア、もう時間か。はい、じゃあ入口締めちゃって。僕、前説入るから」
同僚「うっす、あざーす」

暗転

シーン8

明転

彼氏「ああ、こんなに」

彼氏は散らかった舞台を片付ける。
ラジオを流しながら、断捨離を続ける。

彼氏「これもいらないかな」
次第にゴミ袋はパンパンになる。

ラジオから今日ふたご座流星群があることを知る。

彼氏「今日、ふたご座流星群なんだ。何時に帰ってくるか聞かなきゃ」

シーン9

上司「本日は当館にご来場いただきありがとうございます。これより上演を開始いたしますが、いくつか注意事項がございます。上演中の写真撮影や飲食、喫煙等は禁止となっております。なお、上演時間は約90分となっています。上演開始後、お手洗いなどの途中入退場は出来かねますので、ご了承ください。それでは星空の旅へごゆっくりどうぞ」

女、座る。隣に友達も座る。

女「え」
友達「久しぶり」
女「なんで」
友達「シィー!」

友達「上演中は静かにね」
女「ああ、うん」

女「あれはシリウスで
あれがプロキオン、あれが、ベテルギウス」
友達「正解」
女「あれがオリオン座で、北斗七星」

女「今のこれはふたご座」

友達「もう終わっちゃうね」
女「終わんない」
友達「終わんないって、腰痛くなっちゃうよ。」
女「別にいい」
友達「腰は悪くすると残るよ」

女「そうだね」

静かなダンスミュージック
役者、舞台隅で社交ダンスのような舞をする。

女「知ってるかもしれないけど、私、より戻したよ」
友達「知ってる」
女「より戻してからは別れてない。」
友達「知ってる」
女「あの頃のまんま。何にも出来なさそう」
友達「だろうね」
女「でもいい人だよ」
友達「よかった」

私「あの曲もまだ聴いてる。」
友達「まだ解散してない?」
私「してないと思う」
友達「ありがとう」

女「あと、私、ちゃんとまだ持ってるよ。あれ」
友達「ちゃんとかなったでしょ。色んなこと」
女「ううん、かなわなかったこともあるよ」
友達「例えば?」
女「流星群見損ねちゃったこととか、星の王子さまの良さを伝えられなかったこととか、あと」
友達「あと?」

女「恥ずかしいから内緒」

友達「ずるいね」

女「話戻るんだけど。高校生の時、何でなんとなくで付き合っちゃったんだろうって考えることがあってさ。なんとなくって言葉でごまかしてたけど、なんか最近思うことがあって。
あの時、向こうから告白してくれて、付き合ったんだけどさ。
なんか、なんとも言えないんだけど、好きってちゃんと言ってくれることが初めてで、それに応えるには付き合うしかないんだなとか、思ってあの時は付き合ってて、まあ、それでもなんか違うって思っちゃったから一回別れたんだけど。なんか、誰でもよかったのかなとか、思ったりする。最近。
そしたら今はなんか違ってたりするのかなとか、なんかね。
なんかって便利だね。なんか。」

友達「後悔してる?」
女「完璧じゃない」
友達「そっか」

友達「後悔してないなら!なんだっていい!人生グットラックだ!」

女「最後に、まあ最後じゃないんだけど、一個聞いてもいい?」

友達「うん」

女「なんで、病気のこと言ってくれなかったの?」
友達「病気って言っても、私、がんだったんだよね。子宮頸がん。
見つかるの遅かったし、死ぬのはわかってたんだけどさ、ほら、髪の毛抜けたり、瘦せてカリカリになってるときに会いたくないっていうか。会うのはちゃんと笑える時でいたくて。内緒にしてた。ごめん」
女「そっか、こっちこそごめん。ありがとう。ありがとう。」

友達「じゃあそろそろ行くね。もうプラネタリウムも終わりだから」
女「うん、じゃあね。また会いにきてもいい?」

友達「元気だったらね」
女「うん」

友達「グットラック!」

今終わった、これから帰るね
わかった。今日はグラタン作って待ってる。占いついてないけど
ありがとう。あと
今夜、ふたご座流星群だって

おわり



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