【戯曲】愛おしくて D◎nuts
愛おしくてD◎nuts
作 サイトウナツキ
登場人物 8名
1 菊川 奈麩 (男)22歳
森下とは中学からの付き合い。高校は帰宅部。大学から筋トレに目覚める。
2 森下 津羅 (男)22歳
高校時代まで常に帰宅部。本当は一人称を「僕」にしたい。
3 船堀 天道 (男)22歳
森下とは高校からの付き合い。森下、菊川以上の友達はいない。
女 市ヶ谷 瑞江 (女)22歳
母の借金を返すためにバイトをしている。「お」を付けて話す癖がある。
B 住吉 咲 (女)22歳
瑞江の幼なじみ。小学校から高校まで同じだった。実家が太い。
母 市ヶ谷 篠 (女)年齢不詳
瑞江の母。自宅で水商売をしている。少額だが借金もある。バツ1。
〇 ハムマヨ (性別不明)年齢不詳
猫の着ぐるみを着た中背中肉の自称猫。見た目は男性だが、所作は女性。
・ 大島 (男)年齢不詳
登場しない。瑞江の結婚相手。高校時代に森下をいじめていた。
*備考
・上演時間 約90分
・シーン名以外の太文字の台詞は発話せず、
文字のみを舞台上に投影する台詞。
台詞中に登場する太文字は発話と同時に投影する。
シーン0 開演
ダンスミュージックが流れる。役者、各々場位置につき始める。
「僕は普通の人間だ。秀でた個性も特徴もない、普通の人間だ。普通。普通。普通。普通でいいんだ。何事も。僕の身体以外に、人生でも。普通でいい。大きな出来事も特別な気持ちもいらない。背伸びをしたようなものはなにもいらない。僕は普通で。至って普通で。それで、きっとこれでいいんだ。」
役者、コンテンポラリーダンスのように全身を曲に合わせて開放する。
次第に役者全員が同じように統率の取れたダンスを取り、
各々場位置につく。
シーン1 喫茶店
静かな喫茶店。店内はジャズミュージックがかかり、誰でも落ち着いてしまうような雰囲気を醸し出している。
店の中心には3人掛けのソファとローテーブル、
そしてそれを囲うようにカウンターや、テーブル席が並べられている。
それはまるで、ソファを取り囲む一つのドーナッツのように。
2、冷めたスパゲッティをいじっている。
1 「でさ!あいつの写真をでかでかと載せて〆るの、どう!」
2 「…なにそれ、できんの」
1 「できるって、あんときの仕返しするチャンスだって!」
2 「うーん」
1 「別に白けたっていいじゃん」
2 「うーん」
1 「どうせあいつの嫁とかちょーブスだろうし、
それ見てゲラゲラ笑いたいもんだよ」
2 「うーん」
1 「それおいしい?」
2 「うーん」
1 「お酢の味する?」
2 「うーん」
1 「そのうーんってなに、そのうんともううんとも受け取れない返事」
2 「うーん」
1 「あの、すm」
2 「あのさ」
1 「ん?」
女 「いらっしゃいm」
2 「それ、おれかな?もっと他にいるしさ、出来そうなやつ」
1 「いや、お前じゃなかったら他に誰すんだよ」
2 「うーん。ああそうだ一之江とかさ」
1 「すみません、アイスコーヒー一つ」
〇 「おいらもアイスコーヒー」
2 「お前ってそういうとこ変わってないよな。」
〇 「あ、ジョッキで」
1 「ん?そういうとこ?」
2 「そういうとこ」
1 「どういうとこだよ」
2 「その声デカいとこ」
1 「そんな声でかかった?」
2 「でかいよ。こういうところはもうちょい静かにさ」
1 「そう?そういうの気にするタイプだったかな。
あ、ちなみにペリーには話つけてるから。
あいつ今仕事で映像とか作ってるからそっち系はまかしとけって、
おい聞いてんのかよォ」
2、ハムマヨの姿が目に入る。目を奪われる。
2 「ん、ああごめんごめん。」
1 「まあいいや、お前にもちゃーんとやって欲しいんだから。
んでその練習つーか作戦会議したいんだけど時間的にどう?」
2 「ああ、まあ空けれなくはないって感じかな」
〇 「あ、あとドーナッツ1つ」
1 「あ、てか就活は?」
2 「うーん。ぼちぼち、あそうだお前便通だったよね、面接ってな」
1 「はいもしもし菊川です。あ、はい。その件についてはですね。
はい、はい。
ごめん。コーヒー代置いとくから、予定空けといてね。じゃ」
2 「うん。じゃあ」
1、店を出る。
「働きたくねえなァ。てかおスパゲッティってなんだ。
おコーヒー(おホット・おアイス)。
おメロンソーダ。
おサンドイッチ。
おドーナッツ(おあんこ入り)。」
2 「すみません。ホットコーヒー一つ。」
女 「あの、おスパゲッティまだ食べます?」
2 「変なネクタイ」
女 「おスパゲッティ、まだ食べます?」
2 「え、ああもう大丈夫です。」
沈黙。女をわけもなく見つめる2。
女 「おホットコーヒーになります」
「おホットコーヒー(ストロー付き)」
2 「あの」
女 「はい?」
2 「ネクタイすごいですね」
女 「ダメですか?」
2 「あいやそういう。すんません」
ホットコーヒーを一口
2 「あっつ」
女 「(ハンカチを差し出しながら)大丈夫ですか?」
2 「ああありがとうございます。ラベンダー。」
〇 「あのードーナッツもう一個」
「あァこんなことなら頼むんじゃなかった。昔からよくある。
なんでこんなことしちゃったんだっけって少し後悔すること。
こういうちっさい後悔でも少し頭をよぎると、
その日は何もできなくなってしまう。」
2「幼稚だ。」
「親や友人からはそうよく罵られた。」
「最終面接、もういいかな」
シーン2 河川敷にて
どこにでもあるような河川敷。
大きく息を吸い込むと言い表しようのない嫌な臭いが漂ってくるような。
でもどこか心地がいい。そんな河川敷。
母、ドーナッツ屋の店員として出る。
身体は出さず、手足にのみが舞台上に出る。
2 「すみません、ドーナッツ一つ。」
母 「あいよ120円ね」
2 「ありがとうございます」
〇 「すみません、おいらもドーナッツ」
母 「ごめんねぇ、今ので最後なの」
〇 「えェ!?」
2 「河川敷で食べるドーナッツが俺にとっての、そこそこ普通の、
普通の幸せ。そう、これでいい。あっま。」
〇 「そのそこそこ普通ってなんなのよ」
2 「俺の普通は俺の普通なんだよ。え」
〇 「さっきから女々しいことばっかり。
やあね最近のニッポンダンジは。
あ、おいら、ドーナッツ好きなんだよね。
半分こ、してくんない?ドーナッツ」
2 「お前誰。てかでっか。」
〇 「どうだっていいでしょ。ほい」
2 「えぇ。こいつ誰だよ。なんかでけえし。」
〇 「うわァ。甘。こりゃ糖尿だ。」
2 「年号変わったら不審者とか増えんのかな。
てか食うのはや。こっち見ながら食うなよ。」
〇 「あーいるよね、
痴漢するやつとか、受験落ちたくらいで喚くやつとか
あんたの言う通り、年号変わると変なの増えんのかな。」
2 「え。聞こえてんの?しゃべってないよな俺」
〇 「聞こえてるっつうか、見えてるし。」
2 「?ほんまや。なにこれ。」
〇 「あんたのこころの声だっちゅ~の。」
2 「いやSFかよ。あれドーナッツ」
〇 「゛んん、突っ込めやい!おい!」
2 「お前誰だよ。てか俺の分のドーナツ」
〇 「食べないのかなと思って。ってそこかい」
2 「はァ、いやもういいや。うわドーナツ湿ってる」
〇 「うるさいわねー。おいらの食べかけは綺麗よ。」
2 「んだよもう」
その場を去ろうとする2。
〇 「あ、あんた、おいらのこと覚えてない?」
2 「は?」
〇 「覚えてねェか、まあええか」
〇 「初めまして猫です。あ、見たらわかるか。
名前はハムマヨです。ちなみに芸名です。
アピールポイントはセクシーさで売っていこうと思ってます。
よろしくお願いしマンモス。(決めポーズ)」
2 「これが僕とこいつのファーストコンタクト、
いやワーストコンタクトだった。」
シーン3 ドーナッツシェアハウスwithハムマヨ
森下の自宅。6~7畳くらいのザ・独身部屋。
面白そうなものは何もない。ザ・平凡。
2 「それからハムマヨとのヘンテコドーナッツシェアハウスが始まった。
どっからどうみても不審者だけど。
特に何かしてくるわけでもないし。悪い奴っぽい感じが全然しない。
変な名前で呼ぶのが少し恥ずかしい」
〇 「がはは。そうですわたすが変なおじさんです。がはは」
〇 「なんだよ。恥ずかしガンなよ。童貞かよ。」
2 「なんでハムマヨなの」
〇 「まあなんか成り行きで」
2 「へんなの」
〇 「いや、へんなのて、雑雑」
ドーナッツの袋を投げたりして遊び出す〇
2「なんとなくこいつの生態がわかってきた。わかってきたというより、
猫の生態と合致しているなあと思うぐらいだけど。
はっきりしていることは、こいつに猫っぽい愛らしさは
かけらもないということぐらい。」
〇 「あ、そうだ。あんたはさ、夢とかないの?目標とか。」
2 「何、急に」
〇 「いや、なんかドーナッツいっぱいもらっちゃってるし。」
2 「関係あんの、それ」
〇 「ん?言ってなかったっけ」
2 「?」
〇 「なんか叶えてほしいこととかあったら、叶えてあげるよ。」
2 「なにそれ」
〇 「いや言葉のまんまだって。なんかないの?」
2 「なに神龍的な?」
〇 「いや、夢を叶えるゾウ的な。あ、あれだよ死んだ人は蘇んないタイプよ、おいら」
2 「ふーん。嘘コケ」
〇 「噓ちゃいまんがな。んー。あ、じゃあ彼女つくってあげよっか。」
2 「…いらない、いらない」
〇 「ちゃんと心から好いてくれる好きね。笑うせぇるすまんみたいにネタばらし的なのないし。」
2 「…」
〇 「誰がいい?あ、少なくとも関わりある人にしてね、結構疲れるから。」
2 「…」
〇 「え、ほんとにいらない?」
2 「いらないね」
〇 「えー。まあしょうがないか童貞だし」
2 「童貞じゃねえし」
〇 「じゃあこの前の店員さんにしよっか」
2 「え、いや、いいって」
〇 「ハンカチずっともってんでしょ」
2 「あ、」
〇 「え、性癖?」
2 「ちがうけど」
〇 「けどなによ」
2 「いつか返そうと」
〇 「そのいつかを明日にしてやろうと」
2 「え、あした?」
〇 「明日」
2 「いや、明日って」
〇 「なに、なんかあんの」
2 「ないけど、」
〇 「でしょ。」
2 「…気持ちの整理的な。」
〇 「とりあえず服脱いで」
2 「え?」
〇 「早く、ほら」
2、白タンクトップになる。
〇 「せーの、ほい」
〇、ハリセンでお尻をぶったたく
2 「いった」
シーン4 カラオケインアワエリア
高校時代、通いなれたカラオケ屋。
客が少ないから、大体いつも通される少し大きめのカラオケルーム。
1 「何してんの」
2 「え」
3 「そんな暑さしのぎある?」
2 「ああ、あーあはは。どうもフレディ・マーキュらないです。」
1 「なにそれ」
3 「マーきゅらないってなんだよ。なにをしてないんだよ」
2 「服なくなっちゃった。」
3 「え?」
1 「マーきゅったてこと?」
2 「はは、そうじゃなくて。服なくなっちゃった。
つーか、とら、取られちゃった」
3 「え?ガチ?」
1 「誰に?」
2 「大島」
3 「ガチかそれ。」
2 「文化祭の衣装足りないからって、俺の服使われちゃったんだよね。あは」
3 「モッさんとこ、お化け屋敷だよね。なんで」
2 「キョンシー。キョンシーの衣装なくなっちゃったんだって。わけわかんないよね学ランじゃキョンシーじゃないじゃんってせめて金次郎とかにしろって。あは」
1 「それでお前は何で笑ってんだよ。笑い事じゃねえだろ」
2 「だせえもん!だってなんかださいじゃん。笑ってないと。俺二人の前で泣きたくねえもん。」
雰囲気、空気を変えるように、ゆずの「夏色」を3が歌い始める。
3、1,2の順番にマイクを奪い合い、最終的に三人で歌う。
3 「あの、実は、2人に隠してたことがあります。」
1 「なになに」
3 「なんと、ついに、僕に、彼女が出来ました!」
12 「゛えーーーーーーーーーーーーーーーーーー誰々」
3人盛り上がりを維持したまま、転換に入る。
3 「あはは、いや、まあそれは内緒で」
1 「いや教えろよ」
2 「ホントだよ」
3 「まあ秘密が大事っていうか?」
1 「隠すとこそこじゃないだろ」
〇、素知らぬをして入ってくる。13は気づいていない。
〇 「いつまで寝ぼけとんねん」
2 「うえ?ああ」
〇 「これ着て。これもって」
2 「なにこれ」
〇 「いや童貞か」
女の歩く音。パンプスでフローリングを歩くような。
〇 「あ、ほら来ちゃう来ちゃう」
2、着ながら転換。
シーン5 初めまして、瑞江ちゃん。
ネクタイが結べない瑞江。
心のどこかで実は「星の王子様は本当にいるんだ」と思っているような。
そういう儚さを持った女の子。
2とクロスするように女入り 入りきっかけで喫茶店店内M
女、開店準備を進める。
グラスをめんどくさそうに片付け、布巾で机を拭き、メニューを置く。
途中ソファに座り、携帯を見る。
鬱屈とした表情でメールを返す。
携帯開き、少しくつろいでから入店音
女、急いで支度をする。
女 「いらっしゃいませ、お好きな席どうぞ」
2、首で会釈
2 「アイスコーヒー一つ」
〇、合図する
2 「あ、あとドーナッツも、二つ」
静寂。歩く音、店内BGMが静かに鳴り響く。
女 「おアイスコーヒーとおドーナッツ二つになります。ごゆっくり」
2 「あの」
2 「ネクタイ、結びましょうか、綺麗に。」
女 「え」
2 「いや、なんか、いややっぱり大丈夫です。」
女 「…」
2 「…」
女 「おネクタイ、結んで、欲しい、です。」
女 「あの、自分じゃ結べなくて、なんかいっぱい失敗しちゃって、
おダンゴムシみたいになっちゃって、格好わるいから、
ずっと誰かに結んでほしくて、あ、すみm」
「気づいたら彼女のネクタイを同意もなくほどいてしまっていた。
優しく、不器用だなと感じられてしまうような手つきで。」
2 「かった」
結び目が硬くてほどけない。
〇、ポーチをとるように合図。ポーチを開けるとネクタイが入っている。
女 「かわいい」
2、ネクタイを女につける。
女、ネクタイを見に鏡のある方へ。
自分に何かしてもらうことが初めてな様子でとても嬉しそう。
〇、神妙な面持ちで喫茶店を後にする
女 「あのお名前」
2 「森下です。森下津羅。三重の県庁所在地に羅針盤の羅で」
女 「いいね、その名前。グットラーック!」
2 「多分、この気持ちは生涯感じることのない特別な気持ちなんだろう。」
2 「この人に名前を言えただけなのに。たったそれだけなのに。」
女 「 の名前を聞いただけなのに。たったそれだけなのに。
私はとても罪悪感を感じています。息がしづらくなるような。
窮屈な罪悪感。でも、今、私はとてもうれしいのです。
だから、嫌な方の気持ちを悟られないように、
綺麗な方の気持ちだけをわざと見せるように
「そろそろお店の準備しなくちゃいけないから。
夜はおバーをしているんだけど、その準備、
手伝わなきゃいけないから。またね。」って。
そしたら彼は「またね」って言ったような表情でお店を出ていった。」
2、名残惜しそうに店を出る。
女 「私、ずっと一人ぼっちでした。
母子家庭の一人っ子で、友達いなくて、
今もこうして、人っこ一人いないちっさいおカフェで
一人でアルバイト。最初のころはお店長さんと2人だったのに。
私がちょこびっと仕事を覚えちゃって、人もいないし、
じゃあ一人でって」
女 「いらっしゃいませ、あァ」
女 「一週間に一度こうしてお母さんがおカフェにやってきて
おアイスコーヒーをがぶがぶ飲みにきます。
空のお封筒を突き出して、お小遣いの三万円をせびってきます。
だから私いつも、
「ごめんなさい、まだお給料貰ってないの。お給料は来週末に頂けるの。
だから今日は」」
母、女を抱きしめる優しく。慈愛をもってなでるような。
女 「多分、私は望んで続けているんだと思います。
これまでずっと、褒められたことも笑ってくれたこともなかったから
こうして愛のない愛撫でも、
私の骨身を通り越して心臓、心の奥底を、
まるで凍ったハンバーグを温めるみたいにじんわり、
赤外線で優しく触れられている、たぶん、
そんな気持ちになるんだと思います。」
母 「はい、じゃあ学校いってらっしゃい。
冷凍庫にハンバーグあるから。温めて食べなさい。じゃあね」
女 「今日はお家いる?」
母 「お仕事だから、明日の朝帰る」
女 「そう」
母 「なに?なんか文句ある?」
女 「う、もう少し、お家いて」
母 「甘えたこと言わないの。もう中学生になるんでしょ。
一人でなんでもできるようにならなきゃ。
彼氏の一人もできないわよ。」
女 「彼氏…」
母 「なに、できたの?」
女 「ううん。私、いくじなしだから。」
母 「そういう奥手な所はあの人に似たのね。じゃあね」
女 「お母さん」
母 「何よ」
女 「これ、今週のお金。大事に使ってね。」
母、大事そうに持ってハケ
女 「お母さん。お嘘ついてごめんなさい。
私、中学生の時も高校生の時もたくさん男の人と
付き合ったことあるよ。でも、
私がずっと一人ぼっちなのは変わらなかったから。」
母のカバンを見つける。中には、お見合い相手の写真。
女 「これ」
シーン6 久しぶり、住吉
当時学園のマドンナだった女の子。
大学もバイトも家のことも大体中途半端。
でもいいの、周りは思った通りに助けてくれるから。
入店音
女 「いらっ…しゃいませ…」
B 「あんた。何してんの。」
女 「バイト」
B 「ふうん」
女 「咲ちゃんこそ。なにし」
B 「なんでもいいでしょ。」
女 「ごめん」
B、ずかずかとソファに座る。
B 「ルイボスティー頂戴」
女 「え」
B 「ルイボスティー。二回も言わないと伝わらないの変わんないのね」
女 「いや、そうじゃなくて。ないの。」
B 「は?」
女 「おルイボスティー、仕入れてないからないの」
B 「なんでないのよ、じゃあアールグレイでいいわアールグレイ、ミルクで」
女 「ないの。おアールグレイティーも仕入れてないから。」
B 「はァ、なんで紅茶のひとつもないのよ。」
女 「ごめんなさい。お店長さん、お紅茶が苦手で」
B 「その、なんにでも「お」つけるのにむかっ腹たっちゃうのも
久しぶりね。なに、また人の男取って遊んでんの。」
女 「…」
B 「はあ、なんでもいいから飲み物なんかだしてちょうだい」
3、店に到着。
3 「ごめん。遅れちゃって。」
B 「ううん。全然待ってないよ。それより決めてくれた?」
3 「あ、うん。きめたきめた。すみません。アイスコーヒー一つ。」
女 「あ、はい」
3 「ここにしようかなって。」
B 「ねえ」
3 「ん?」
B 「なんで私がいるのにあの人のことじろじろ見てたの?」
3 「え、そんな見てないけど」
女 「お待たせしました。おア、(咳払い)アイスコーヒーおふたつになります。」
3、女に向かって会釈
B 「ほら!やっぱり、ホント私のこと好きじゃないんでしょ。」
3 「そんなことないって」
B 「そんなことあるよ。この前だってコンビニの人と手つないでたじゃん」
3 「いやあれおつりもらってたまた当たっただけだし」
B 「たまたまとかないでしょ。だからいつも肉まん食べられちゃうとかあるんだよ」
3 「いや、深夜だししょうがないだろ…」
B 「なにそれ!私が悪いみたいじゃん!なんでよ、船堀クンは私の味方なんじゃないの?(ウソ泣き)」
3 「ああごめんごめん。(女に向かって)すみません。」
女 「あ、いえ」
3 「これ飲んでちょっと落ち着こうか。ね。」
B 「うん、(匂いを嗅ぐ)げ(女をにらむ)私、コーヒー嫌―い」
3 「ええ。ああじゃあ、どうしようかな」
女 「オレンジジュースとかどうですか」
B 「それでいい」
3 「じゃあ、それで」
女、オレンジジュースを用意する。
3 「咲ちゃん。咲ちゃん。これみて(携帯の画面を見せる)。前、言ってたやつ」
B 「美輪明微妙じゃん!どうしたのこれ」(美輪明宏みたいな胡散臭い写真)
3 「たまたまポチって抽選押したら当たったんだよね。行きたいって言ってたでしょ?」
B 「うん!言ってた」
3 「だから今度ここ行こうよ、新宿から歩いてすぐだし」
B 「(食い気味に)行かなーい」
3 「え」
B 「今占いの気分じゃないから」
女 「(囁くように)お、オレンジジュースです…」
B 「私、今、デイズニーいきたいんだよね。デイズニーランド。
シーでもいいけどランドがいいなあデカチュロスと
ちっさポップコーン食べて、ヒッキーの引きこもりハウスで
グリーティングして、夜はパレード見て、帰るのめんどくさいから、
ホテル借りて一緒に泊まろ?ね、いいじゃん」
3 「ああ、うん」
B 「てか、今、いこうよ!」
3 「え!?」
B 「こういう時こそ、タイムイズマナーでしょ!。
じゃあお手洗い行ってくるからお金払っといてね!」
3 「ああ。」
B 「店員さーん、
(小声で)なんでオレンジジュース100%果汁じゃないの。
体調壊したらあんたのせいだからね。
(声量を戻して)お手洗いってどっちですか?」
女 「あッちを左です。」
B 「ありがとうございまーす。」
二人でBを見つめる。
3、残ったコーヒーを飲んで台詞
3 「すみません。お会計いいですか?」
女 「あ、はい。400円になります。」
3 「じゃあこれで。」
女 「丁度お預かりいたします。」
B 「ちょっと。もう払ってくれた?」
3 「あ、うん。今さっき。」
B 「じゃあいこ!」
3 「うん」
店を出る瞬間、2と鉢合わせる3B。
2、小さな紙袋を持っている
3 「おお、久しぶり」
2 「ペリー。久しb、」
3 「あ、ねえキックンとのやつって明日だっけ。」
2 「多分。」
B 「早くいこ?」
3 「ごめんごめん。(2に向かって)じゃあまた」
2 「あ、うん。また」
シーン7 緊張しちゃうね。秘密
お互いに同じような人種なのだと分かっているような距離感になっている
2回目の会話。
女 「いらっしゃいませ」
2 「お久しぶりです」
女 「お久しぶりです」
2 「あの」
女 「あの」
2 「じゃあ先に」
女 「じゃあお先に」
恥ずかしい雰囲気が両者前面に出る。
2 「これ」
小さな紙袋にはハンカチとネクタイが。
2 「この前、借りてたハンカチ、返そうと思って。それだけっていうのもと思って。」
女 「ありがとうございます。可愛い。」
女 「つけてもらっていいですか?」
2 「はい」
女 「どうですか」
2 「え」
2 「買って良かったなって思います。」
女 「おアイスコーヒーでいいですか?」
2 「はい」
女 「おアイスコーヒーです。」
2 「これから」
女 「?」
2 「これからもお話しませんか。僕と。ここだけじゃなくても色んな所で、もっと」
女 「お客さんがいない間、とっても暇なので、ドーナッツでも食べながらでどうでしょう」
ムーディーなダンスミュージックが流れる。
曲に合わせて13B 母が二人の後ろで踊る。
2 「この日を境に僕の普通は幕を閉じた。
みじめったらしい今までの生活をこれでもかと
否定しているような雰囲気を感じてしまうけど。
そんなことはどうでもよかった。何日も何日でもこの人に会って、
もっともっとこの人を知って。この人と普通に暮らしていければ、
なんて思ってた。」
女 「はい。おドーナッツ揚げたてです。」
2 「あっつ」
女 「あは。はい。」
2 「(ハンカチ)洗濯したのに。」
女 「冷めるまでの間、ネクタイの結び方教えてください。」
2「楽しいってこんな気持ちなんだ。」
我ながら気色が悪いなと思って口にしたことを少し後悔した。
けれど彼女は微笑みながら「変なの」って。
この一分一秒は専らお互いの秘密を楽しんだ。
彼女が言うには、いつものコーヒーはどれもインスタントで一杯30円、
スパゲッティも350円の冷凍食品。
夜に働くと酔っ払いにセクハラをされたことがあるから入らないとか、
前のバイトは中華料理屋だとか、そういうどうでもいい秘密。
けれど、彼女は自慢げに」
女 「おドーナッツはね、自分で揚げてるの。お油怖いから、一日30個だけだけど。」
「おドーナッツ?お油?」
女 「だからいつも頼んでくれるの少し嬉しいの」
2 「そういった時、僕のやってきたことはきっと正しかったんだなって思えた。」
スケートボートに横たわって滑りながら〇
〇 「あのぉ、暇なんですけど。」
13B母、〇をいじめる。
〇 「おいら、さっきまで出番いっぱいあったのに、
今全然なくてすごーく暇なんです。
もうちょっとしゃべりたいんですけど。
ドーナッツ!え、あ、ちょドーナッツ、ドーナッツ!」
2、女の手を握る。
女 「え」
〇 「今日のドーナッツ!まだ!アァ!」
〇「ひいやあナニコレ、どういうこと!アァ!」
〇「ちょっとお尻触らないで!ドーナッ、オォ!」
2、ゆっくりと同意を求めるように女が身につけているものを脱がす。
羽織物、シュシュ、ネクタイを緩めて、シャツの上のボタンをゆっくりと
2が衣服に手をかける度に〇這うように入りハケを繰り返す
女もその流れに身を任せるように、少しの恥じらいと緊張を持ちながら。
2が女のシャツを脱がせた時、感情や自分以外の人間を思い出してセリフ
心臓の鼓動SE
女 「あのね、私ね、(サイレント)」
2「彼女はそう言った。僕にとっては突飛なことで、一瞬だけ、
ほんの一瞬だけ、外の雑音が聞こえてきた。(雑音SE)
この『単純なセリフ』に少し恥ずかしくなって
自分がしたことはまるでなかったかのように体裁を整えて
『面倒じゃない?』って答えてしまった。
なんでこんな酷いことを言ってしまうんだろうか。
でも、それがお互いの関係を、いや、認めたくはないのだけれど、
多分、極めて自己中心的な関係を保つために必要だからだ。
それと同時にこれからもう少し彼女を知ってしまって、
勝手に抱いてた僕の理想的な展開と違ってしまったらどうしよう
なんて思ってしまった。それでも彼女は」
女 『そっか、優しいね。森下君」
2 『あぁ。』
2『これが、罪悪感って言うんだ。そう感じたから、
僕は堂々と跨ることにした。』
〇 「ハッピーバースデートゥーユー、゛ンン!」
13B母〇、ハケ
シーン8 こんにちは、お母さん。
水商売でしか稼ぎ方を知らないお母さん。
昭和のクラブで踊ってそうな、気の強いお母さん。
今は少し落ち着いていそうで。
入店音
母 「あ、ごめんなさい。あの私、お写真忘れていかなかったかしら」
女 「お写真」
母 「あれがないと、私、私、あなたに私、なにもしてあげられない。
そしたら私、どうしてあげればいいか。分からない」
女 「お母さん、これのこと」
母 「あァ!それよそれ。ごめんねェ。私迷惑ばっかりかけて。
もっとあなたに」
女 「お母さん。私、なにも聞いてないよ。」
母 「大丈夫よ、お相手さんとってもいい方だから。」
女 「そういうことじゃなくて」
母 「好きな食べ物はドーナッツだって。
瑞江ちゃんドーナッツ好きだったでしょう。気も合うと思うし」
女 「お母さん、お客さんいるんだから、やめてよ。ご、ごめんね。」
女母、2を気遣い、バックヤードに向かう。
「今、僕の中にあるこの気持ちはなんていうんだろう、なんてすっとろいことはとっくになくて。今、僕は、彼女に何をしてあげればいいんだろう。どんな言葉をかければいいんだろう。どうすればこの場を切り抜けられるんだろう?。アァ夏目漱石ならこんな時どんなことを言うのだろう。考えて、考えて、考えて。あ、ふと及第点の答えが頭によぎって」
2 「あの、お母さ」
2 「いないじゃん。」
シーン9 思い出せキスの味
あの頃、想像したキスのこと。
想像通りでいてほしかったキスのこと。
でも少し期待を裏切ってほしかったキスのこと。
1 「もうついてんのかい」
3 「電話かけてもかえってこないから何かと思ったよ」
2 「ああ、ごめん。気づいてなかった。ごめん。」
3 「気付かないことあるー?あ、てかさ、あれどうなった」
2 「あれ」
3 「告白したんだっけ」
1 「返事どうだった?」
2 「ああ、いや、まだ言えてないんだよね」
13 「言えてないんかい!」
3 「どうすんの」
2 「いやあ」
1 「流石に今日いうでしょ」
2 「やっぱり今じゃないかなって思っちゃたり」
1 「もう最悪めーるだよね」
3 「メール正直きつくない?」
1 「まあそれはそうなんだけど」
2、携帯で告白のメールを打つ。
「to:sumiyoshi.karin@sakuramail.jp
From:aidorudaisuki-morishita@doqomo.jo
いきなりメールしてごめん。ずっと前から好きでした。付き合って下さい。]
123、祈りのポーズをとる。
着信音
123 「きた!」
「よっす、俺モツ鍋潤。今、川P、鶴梨と一緒に新宿で飲んでるんだけど
一緒に飲まない?また会いたいっていってたからメールしちゃった。
見たら返事してね!cheenmailttesaikinnminaiyone.jp」
1 「チェーンメールかい」
3 「なんだよモツ鍋潤って」
着信音
「メールありがとう。でも彼氏いるし、そもそもメールで告るやつだいぶ無理。」
13 「ドンマイ…どんまい!」
1 「まあ大声で歌って忘れよう。ペリー、曲選任せた。」
3 「任された!」
斉藤和義 「ずっと好きだった」を選曲する。
2 「いや、彼氏いるんかよ!!!」
1 「まあ、それはねしょうがないとしか」
2 「え、だれなの彼氏ってさァ!」
3 「この町を歩けば 蘇る16才」
1 「教科書の落書きは ギターの絵とキミの顔」
2 「俺たちのマドンナ イタズラで困らせた
懐かしいその声 くすぐったい青い春
123 「ずっと好きだったんだぜ 相変わらず綺麗だな
ホント好きだったんだぜ ついに言い出せなかったけど
ずっと好きだったんだぜ キミは今も綺麗だ
ホント好きだったんだぜ 気づいてたろうこの気持ち
話足りない気持ちは もう止められない
今夜みんな帰ったら もう一杯どう? 二人だけで」
1 「歌って忘れよ。今日は(デンモクいじる)」
2 「あは、馬鹿にしてるでしょミスチルの「しるし」は」
1 「してないしてない」
2 「最初の歌詞がさァ」
1 「この町を離れて しあわせは見つけたかい?
教えてよ やっぱいいや あの日のキスの意味」
1 「キスしてぇーーーーーーー!」
2 「どうでもいいんだけどさ、ピュレグミってキスの味すんのかな」
1 「初恋の味でしょ」
2 「初恋=キスでしょ」
3 「口臭いとまずいよ」
12 「え」
3 「ずっと好きだったんだぜ まるであの日みたいだ
ホント好きだったんだぜ もう夢ばかり見てないけど
ずっと好きだったんだぜ キミは今も綺麗だ
ホント好きだったんだぜ 帰したくないこの気持ち
1、演奏終了を押す。
2 「え、したの?したの!?」
1 「まさかの抜け駆け!?」
3 「何のことk!?」
123、もみくちゃになる
2 「もうしたの?え、もうしたってこと?」
1 「どういうこと、口臭いとやばいってこと」
3 「やばいっていうか、まあくさ!ってなるよね」
2 「ちょっとまって、俺トイレいってくるわ」
2、ハケ
1 「今から歯磨き!?」
3 「まあムードだよ。大事なのは。飲み物取ってくるわ」
1 「えいや、ちょっと。カラオケで一人はだいぶ寂しいって。俺の分とってきて!」
3 「何がいい?」
1 「初恋サイダーで」
3、ハケ
1 「ムード…」
1 「ムード…」
1、一人でエチュードを始める。
キス顔したり、あたかも彼女がいるかのような素振りで
母、カラオケ店員としていり。手にスパゲッティのお皿持ってくる
母 「ご注文の品お持ちしました。ナポリタンです。」
1、キス顔で一瞬静止。気まずい空気が流れる。
母 「きんも」
1 「あ」
母 「失礼いたしました。」
1 「あの」
1 「キスってどんな味しますか?」
母 「はあ?」
1 「あ、ドーナッツ食べますか。ドーナッツ。
ほら、一個余っちゃってて、ほら、あはは。」
母 「知りたい?」
母、押し倒す。ドーナッツをくわえさせる。まるでポッキーゲームのように
母、服を脱いだり、脱がせたり。
唇が触れる寸前、取りやめる。
母 「はい。」
1 「え」
母 「5000円」
1 「まだなんもして」
母 「したかしてないかじゃないの。時間だから、はい、5000円」
女 「お母さん」
母 「お客さん来てんだから急に来ないでよ」
女 「ごめんなさい」
女、立ち尽くす
母 「うちの娘、見世物じゃないんだけど」
1、そそくさとその場を後にする。
母 「変だよね。水商売に差し入れドーナッツ」
母女、ソファーに座り、ドーナッツを食べる
「誰なんだろう。あの男の人。冷たい。お母さんともっとお話したい。もっとお母さんのこと知りたい。もっとお母さんに私のこと見てほしい。」
「あ、そうだ。今日のテスト」
女 「あの!あのね、今日、テストで私、」
母 「あんたどっかいかないの。」
女 「今日?」
母 「あと1時間くらいしたら次の人来るから、
予定あるならいって来なさい。」
「予定とかないよ」
女 「……咲ちゃんと遊んでくる。」
母 「はいはい」
女 「お母さん」
母 「なに」
女 「なんでもない」
女、ハケ
母、お皿や食べかすを掃除。
1 「さっきの店員さんくそタイプかもしれん」
2 「さっきの?」
3 「すれ違った人か」
1 「え、ばちくそタイプだったんだけど、あ」
母 「失礼いたしましたー」
3 「今の人?」
1 「今の今の」
3 「ばばくさくね」
1 「いや、守備範囲が広いと言ってほしいね」
2 「てかだれだよナポリタン頼んだの」
3 「あ、ねえ、ちょっと口開けて」
2 「ん?」
2、口開ける
B、店員として入ってくる。
13 「くっさ!!!!!!!」
13、2を突っぱねる。
B 「すみません、さっきドーナツ、頼んだと思うんですけど、
うちドーナッツないっす」
2、スローモーションで、Bのスカートを覗くように倒れる。
2 「漆黒の追跡者」
B、2を蹴っ飛ばす
B 「まじ最悪。店長!店長!」
13 「やば、逃げろ逃げろ」
2 「いってえ。」
〇、店長として出てくる。
〇 「ほいほーい。どうしたのー。なんだい。あんたかい。
洗濯機回してくるからちょっとまってて」
洗濯機の音が鳴り響く。
2 「はあ」
〇 「どうだった。初黒パンティー。じゃなくておいらの魔法は。」
2 「…」
〇 「なにその反応」
2 「まあ、うん」
〇 「え、嘘やだ」
2 「でもまあなんかなんだろうね。感謝はしてるよ。」
〇 「ほ?」
2 「別に話しかけなきゃよかったなあなんて思ってないし。
いつもの地味なフツーの生活に戻っただけだし。
あでもお前の魔法も嘘だったから、
今日からただの変なおじさんってだけで、通報していい?」
〇 「いや、だめです。変じゃないですし、おじさんでもないです。」
2 「じゃあ今日からマジヤバい人とか?」
〇 「いや、洗濯とか掃除とか全然、働きます。」
2 「あはは、ああ、そうだ。ドーナッツ買いに行こうよ。」
〇 「よしよしよし。ラッキードーナッツ」
〇 「あ、明日」
2 「ん」
〇 「明日ってどうすんの」
2 「ああ、明日、やべ練習してない。連絡しなきゃ」
〇 「いや、先にドーナッツ、買いに行こう」
2 「なんか、(優しくなった?)」
2、先に出る。
〇 「なんかってなによ」
シーン10 正直に素直になろうよ。もう僕たち大人なんだから。
船堀と菊川はここで偶然、そして久しぶりの再会。
船堀と菊川、瑞江と住吉、お母さん、三者三様に少し気まずい空気感。
女、カーテンをいじる。まるで洗濯物を干すように
母、ソファに座り、カタログを持ってくる。
母 「瑞江ちゃん」
女 「なに?」
母 「こんど、お母さんとドレス見に行かない?」
女 「うーん」
母 「代官山のほうでね、お相手の方がやってるお店が
ウエディングドレスもやってるんだって。
ほら、これとか可愛いじゃない。」
女 「お母さん。」
母 「なに?」
女 「やっぱり結婚式とかやらなくていいんじゃないかな。」
母 「どうして?」
女 「お金もかかるしさ、お相手のかたにずっと迷惑かけているのかなって。それに、私、呼ぶようなお友達とかいないわけだし。」
母 「でも人生に一度しかないのよ。こんなことできるの」
女 「ううん、なんでも」
Bを男13で抱えて持って入り
3 「あ、すみません。もう営業終わってますよね。」
女 「ああ、いや大丈夫ですよ。」
B 「お水」
3 「すみません、頂いてもいいですか」
女、会釈をしてお水を持ってくる
母 「こっちくる?」
3 「いいですか?すみません」
13、Bをソファまで運ぶ
B、力が抜けて母に膝枕をする形になる。
母、我が子のように見つめる。頭をなでたり。
3 「なんかごめん」
1 「いや、全然。てかなんでこんななっちゃたの」
3「なんかお酒飲んでみたいっていうから居酒屋連れていったら
思いのほか弱くて」
1 「筋トレしててよかったわ」
女 「お二人もなにか飲みます?」
13 「ああ、じゃあコーヒー、おアイスで」
B 「お水…」
女 「仲良し」
1 「アイスコーヒーとか飲むタイプだっけ」
3 「そっちこそ」
女 「おコーヒー。どうぞ」
13 「あっつ。」
13、なんだか面白くなって笑い出す。
女、携帯電話をみて、バイトの終わりに気づく。
なんとなく自分が喋らないほうがいいような感じがして
その場をあとにする。
1 「ずっと気になってたんだけどさ」
3 「ん」
1 「いつから付き合ってたの」
3 「高2の夏、ぐらいから」
1 「やっぱそうだよね、住吉だよね」
3 「モッさんにもずっと言えてなかったんだよね」
1 「ああ。」
3 「だから」
1 「なあ、喫茶店にカラオケ置いてあるの珍しくね。」
3 「…確かに」
母 「何か歌う?」
1 「え」
母 「ちょっと古いから歌本になるけど、こっち」
13B母、地下のバーに向かって店を出る。
シーン11 3回目のデートで告白しようって決めてたのに。
2〇、ドーナッツの入った紙袋を持っている。
森下の自宅と喫茶店の丁度真ん中を通る大通り。
夜。ほとんどのお店が営業終了になった頃。
〇 「期間限定マタタビドーナッツ。くううううううう。震えるぜハート。」
2 「燃え尽きるほど?」
〇 「あんこ!」
女、偶然通りかかる。
何かテレパシーのようなものをお互いに感じ取る。
2 「あ」
女 「あ」
2 「ごめん、先帰ってて」
〇 「じゃあ?」
2 「3分の1」
〇 「純情な感情は?」
2 「全部いいよ」
〇、変な顔してガッツポーズ、先に帰る。
女 「この前はごめんね。」
2 「いや、全然。こっちこそなんかごめん」
女 「森下クンは何もしてないじゃない」
2 「今日は」
女 「これからお家帰るとこ」
2 「そっか」
女 「なんか、ありがとう。今まで」
2 「(今までに疑念を抱きながら)なんか?」
女 「なんていったらいいかわからないけど、」
2 「…」
女 「多分、私がこうなれたのは森下クンのおかげなのかなって」
2 「明日ってさ」
女 「ん」
2 「明日、」
女 「行くよ」
2 「…」
女 「ホントはずっと嫌っていうか」
2 「じゃあさ、明日は僕といようよ。」
2 「瑞江ちゃん、言ってたじゃん。いつかわかんないけど、
でも、ちゃんとこれからはちゃんと、
自分を見てくれる人がいいって。ちゃんと、ちゃんと認めてくれて、
一緒にあるいてくれる人がいいって」
女 「うん」
2 「だし、面倒じゃない?この前だって、その」
2 「だから、その、なんていうか、てか、」
女 「初めてだね」
女 「初めて、お名前、呼んでくれたね」
女 「じゃあね」
女、足早に帰る。
取り残された2は、全てを失ってしまったような様子で
その場に立ち尽くす。
シーン12 やりたいことってなに?
2、ソファに突っ伏すような姿勢になる。
2「あー。あー。あー。」
「なんか全部どうでもいいな」
「全部、全部、全部」
ユーガッタメイルSE
「【就活】内定まで最短2週間!本八幡建設現場職のご案内!」
携帯電話を投げ捨てる
「あー。あー。あー。」
「なんでも「お」つけるってことはさ。」
「SEXの時はちんぽじゃなくておちんぽっていうんだろうな。」
2「へへっ」
「じゃあまんこじゃなくておまんこだよな。」
「あー。あー。あー。」
「俺はどうしたかったんだっけ。何がしたかったんだっけ。」
「瑞江ちゃんとキスがしたかったのだろうか。瑞江ちゃんとSEXがしたかったのだろうか。瑞江ちゃんと手をつなぎたかったのだろうか。」
「あー。あー。あー。」
「好きってちゃんと言えなかったな」
「あー。あー。あー。」
「あー。あー。あー。」
「あー。あー。あー。」
「あ、ハンカチ」
2、駆り出されるように喫茶店へ向かってはけ
シーン13 こんな終わり方でもいいのかな?いいよね。なんか
13、店をでる。3はおんぶをしている。
二人はカラオケを楽しみながら、お酒も飲んでいた。
母は店の中にまだいる様子。
1 「ありがとうございました。すんません」
1 「駅までそれでいくの?」
3 「ああ、まあしょうがないよ。一駅先だからギリいける。キックンは?
家どの辺?」
1 「俺、多分逆かも。曙橋の方」
3 「そっか。」
1 「あ、でも駅までは一緒に行こうよ。疲れたら全然変わるし」
3 「いやあ、キックン女の子と関わると急にこじらせちゃうからなァ」
1 「それ高校ン時の話ね。成長してますから、心も?体も」
3 「どうかな」
2、偶然通りかかる。女のいく先を見ていなかったから、
恐らく喫茶店にいるだろうと思って。
3 「モッさん?」
1 「どうしたの」
2 「え、ああ、あの、店員の女の子いた?」
1 「女の子」
2 「あのネクタイつけて、いっつも働いてる同い年位の」
3 「ああ、いなかったけど」
2 「そっか、そっか、そっか。うんありがとう。じゃあ」
1 「なあ、久しぶりに三人で帰らね?」
3 「卒業してから結局集まったことはなかったもんね」
2 「ああ、いや」
3 「ごめん、ちょっと座ってもいい?流石に重いかも」
1 「ああじゃあ俺コンビニいってくるわ。住吉も水欲しいだろうし」
3 「ああ、そうだねじゃあおねがい」
1、少し遠いコンビニまで行く。少しウキウキしている様子。
3 「あーあーあーいってなかったよね」
2 「え」
3 「住吉と付き合ってたってこと」
2 「ああ、そういえば聞いてなかったかも」
3 「そうだよね」
2 「まあ別に気にしてないって言えば気にしてないし」
3 「そっか」
2 「え、もしかしてこれ?あ、これって言っちゃった」
3 「うん。これ」
2 「こんな感じだったっけ」
3 「高校卒業してからなんか変わっちゃったんだよね。
元々影響受けやすい性格だったし?」
2 「そうなんだ」
1、到着。
1 「はい、これ」
3 「え、まだ飲むの?」
1 「いや森下きたし、久しぶりだし」
2 「ありがとう」
3人でお酒を飲む。
B 「お水」
2 「あのさ」
2 「なんかわかんないけど2人に言わなきゃいけないことがあって」
1 「なに怖い話?」
2 「いや、なんも怖くないし、ただ俺が少し恥ずかしいんだけど。」
2 「あの、ありがとう。離れてもこうしてまた会ってくれて。」
1 「いや、こっちが恥ずかしいわ」
2 「なんかずっと言葉にしなきゃいけないとは思ってたんだけど、
ずっと言う機会なくて、てか恥ずかしくて、
恥ずかしいが9割なんだけど、あの、ホントに二人ともありがとう。」
1 「しょっぺー!!!」
3 「なにしょっぺーって」
1 「しょっぺえもんはしょぺえんだ」
3 「こちらこそありがとう。ほら、お前もいえよ」
1 「え?おれも?…ありがとう。」
2 「そうだ、ハムマヨ!」
〇 「ん?」
2 「あ、洗濯ありがとう」
〇 「どいたまどいたま」
1 「誰?」
3 「知らない」
2 「全然忘れてたんだけど、初めて会ったときのあれなに?」
〇 「あれ」
2 「覚えてない?ってやつ」
〇 「そんなん言ったっけ」
1 「喫茶店で見たかも」
3 「さっきの?」
2 「いったよ。申し訳程度に」
〇 「あァ。あれね。あれ。」
2 「あれなに?」
〇 「よのなかばかなのよ!」
2 「なにそれ!」
〇 「回文だよ。回文。知らない?まあ兎にも角にも、
君はまたこうしてこの世迷い言から解放されたし!viva!恋せよ森下!
恋せよドーナッツ!」
〇 「新しい森下誕生日おめでとう!」
カーテンコール
あとがき
こんにちは。サイトウナツキです。
ここまで読んでいただいて誠にありがとうございます。
今作は私が数年前に実際に上演した2作目の戯曲になります。
最近になって、ふと少し名残惜しい気持ちになってしまったので、当時の台本にほんの少しだけ付け足して、今回書かせていただきました
本作のテーマについて
今作の主なテーマは「エン」です。
円、縁、宴…
「エン」という言葉は色んな意味を持ちます。
そして、それらはどれも大切であると同時に、
どれも軽々しく扱えてしまうものだと考えています。
お金の使い方、人間関係、宴会等々、どれを取ってもとても面倒くさくて、簡単に避けることが出来てしまいます。
でも、私はもう少し面と向かって大切にしてもいいんじゃないかなと思うんです。
面倒くさい人間関係に面と向かって取り組めば、思いもよらない繋がりが生まれるかもしれないし、思ってたものじゃなかったりするかもしれないし。
面倒くさい宴会に少し顔を出してみれば、嫌だと思ってた上司の意外な側面が見られるかもしれないし…。
今作みたいに嫌な気持ちに終わってしまうこともあるかもしれないけど、でもそういう「縁」にもう少し寄り添ってみては?ほら、大事な友達はすぐそこだよ、と思いながら今作を書きました。
登場人物について
森下はザ・平凡な男性です。何かがあるわけでもないわけでもないザ・普通。少女漫画に出てくるならページの端っこ、半分見切れたにいるような彼。でもそんな彼が少しだけ、ほんの少しだけいいことあればなと思っているところから物語は始まります。
それに対して瑞江は、もう少し相手が良ければ少女漫画の主人公になれていそうな女の子です。彼女はこれまで色んな縁に揉まれて少しだけ心の端が黒く染まってしまった、そしてその結果、色んな言葉に「お」を付けて話してしまう、いわば自己防衛が身体に染み付いてしまった、そういう女の子として書きました。森下も、ある種自己防衛の表れとして一人称が「俺」になっています。「僕」を使っていることで大島にいじめられるという過去を持っているからです。こういう二人のちょっとした共通点をお互いに感じていたのかもしれません。
篠はというと、瑞江と同じような縁を乗りこなそうとした結果、それにしかすがれなくなってしまった人です。それが悪であるというわけではなく、一つの分岐点の先にいる人として。森下と出会わなければ、もしかしたら瑞江もこうなっていたのかも知れません。篠は来店された奥手な客と偶然、瑞江を産んでしまいます。それでも育児放棄をせず、曲がりなりにも瑞江を育てたのは心の根っこにある篠の優しさであり、ちゃんとそれは瑞江にも遺伝しているのです。
菊川と船堀は二人とも、「久しぶりでも一緒にいると気持ちがいい友達がいればいいな」と思って登場させました。住吉はその逆です。ペリーと別れたらどうなっちゃうんだろうって演出を付けている際にふと思ったことを思い出しました。
最後にハムマヨ。この子はあくまで話を進める役目なのですが、この子もちゃんと過去を持っています。でなければ、魔法は使えません。ちなみに、魔法の能力は過去を少しだけ実際に変えることです。そのためには大量の糖分が必要になります。発動条件はハリセンでお尻をぶったたくこと。今回は森下がメールでも告白をしなかったという過去を変えました。少しお茶目な性格なので、戻る過去を間違えましたが、森下にとってはきっと良かったことでしょう。
設定としてはこんなところでしょうか。どうして名前が都営新宿線の駅名なのか、どうしてハムマヨは魔法が使えるのか等々、まだまだ書きたい設定はあるのですが、長くなってしまうのでまた別のところで。
終わりに
再びにはなりますが、
ここまで読んでいただき誠にありがとうございました。
もし、本作を上演したいと思っていただける方がいらっしゃいましたら是非ご連絡ください。飛びはねて喜びます。
次回は本作のアナザーストーリーになる「人思 i 念‐ジンシアイネン‐」という作品を更新出来ればと考えています。もしよろしければ、合わせてお楽しみください。
それではまた、どこかで