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同級生に引かれる“意識高い系”ノートの実態
私がパーソナリティを務めるラジオで「手書きのノート」について話した。
配信でも話した通り、ビジネスパーソン向けの手書きノート活用法については不案内だが、授業中のノートの取り方にはこだわりがある。もちろん、成果を出せる(試験で点を取れる)ノートであることも重要だが、勉強オタクとしてはやはり「いかに自分が楽しくなれるか」が第一だ。
今回は、私が実際にどのような授業ノートを取っているのかを実例を交えて紹介しよう。
ネット初公開!勉強オタクの世界史ノート
こちらは、NHK高校講座 世界史「第11回 西アジア・中東の新展開」を半分まで見て取ったノートだ。
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動画の授業は対面授業よりどうしてもペースが速くなるため、だいぶ字が汚い。ただ同時に「ノート取り、楽しい!」という興奮が伝わってくる字だなとも我ながら感じる。
こちらを振り返りながら、特徴的だと思うポイントを3つ挙げてみよう。
1.リアクションしながら授業実況プレイ
「(イスラーム教は)商人の宗教のイメージ、めっちゃある」
「武力でメッカを制圧?! 怖い……サーダリー*1やん」
「豚肉を食べちゃいけない背景、初めて知った!(衛生)」
上記のように、授業を聞いている際の自分自身のリアクションもメモしている。「マル私」マークがその印である。
さっそくだが、このノートの取り方に実用的な意味はあまりない。しいていうなら「感情移入できるので理解や記憶が定着しやすい」という効果はあるかもしれない。しかし私にとってはそれ以上に「テンションが上がるからやっている」側面が大きい。独り言をまき散らしながらテレビゲームをやると、ゲームのライブ配信をやっているような気分になって盛り上がる。そういう感覚に近い。
この私見メモを始めたのは大学生の頃だ。大学の講義はテンポが遅いことが多く、退屈してしまいがちだった(勉強オタクでも授業に退屈することはある)。周りの学生は突っ伏して居眠りしたり、内職をしたりしていたが、勉強好きの私にはもったいない気がして、自分なりに大学の講義を味わい尽くす方法を編み出したのだ。そう考えると、授業中の居眠り防止策としては有用だといえるかもしれない。
*1 筆者がプレイしているアプリゲーム「FFBE 幻影戦争」に登場する宗教家。軍隊を持って列強と戦っている。
2.分野横断で妄想スマブラ
「(スーフィーって)神秘主義だっけ? 調べる」
「(『コーラン』の内容)倫理(の勉強)にも使えそう。復習!」
「(7世紀前半)同じ時代にビザンツ帝国、唐。復習!」
青文字や青丸で示した部分は、ほかの科目や過去の授業で勉強したことを思い出してメモしたものだ。
同じ科目内での参照については、はっきりとした実用的な意味がある。「同じ地域で別の時代には何があったか(縦串の歴史)」「同じ時代にほかの地域では何があったか(横串の歴史)」を思い出すためのトレーニングで、主にセンター試験(当時)や二次試験の論述の勉強に役立つ。高校時代の塾の先生が、授業の途中に突然こういった質問で生徒を当てるのが好きだったので、その対策として始めたのがきっかけだ。
一方、科目横断をしているものについては1と同様、大学時代の退屈防止策のひとつとして始めた、よりエンタメ要素の強いノートの取り方だ。スポーツ社会学のノートに「これは国際社会学で出てきたあの話に通じるな」といった形で思い出したことをメモしたり、商学部のレジュメに書いてある説明を社会学部でよく使う用語で翻訳したりしていた。
これの何がエンタメなのかというと、一言でいうなら「オールスター演出」である。自分だけの「大乱闘スマッシュブラザーズ」*2や「タカラヅカスペシャル」*3をノートに展開して「豪華だなあ」なんて妄想しているような心持になるのだ。
大学で分野横断的なレポートを書けば「A」や「秀」の評価をもらいやすくもなるかもしれない。だが、私にとっては結果論でしかない。あくまでエンタメファースト、快感ファーストである。
*2 ゲームの人気キャラクターたちがオールスターバトルを繰り広げる格闘、アクションゲーム。例えば、マリオ、ピカチュウ、セフィロス、ロックマンが同じフィールドで対戦できる。
*3 宝塚歌劇団の各組(花、月、雪、星、宙)の役者たちが年に一度、一堂に会して演じるショー形式の公演。天海祐希と真矢ミキは宝塚時代、別々の組で活躍する男役だったが、TMP音楽祭(当時の名称)では舞台上で夢の共演を果たした。
3.ページ無視の矢印で伏線回収を堪能
メッカは主にアラブ人(が住んでいた町)→7世紀前半アラビア半島統一でアラブの部族を支配下に
ムハンマドの顔が描かれていないのは偶像崇拝禁止の話だな→神と預言者は異なる、神が絶対(預言者を崇拝しないように)
見開きページを横断している矢印が2ヵ所ある。前半ページを書きながら気になっていたキーワードがその後強調されて再登場したり、授業の前半でメモしていた私見が授業の後半で取り上げられたりするときに、こうやって矢印でつないでいる。
この矢印は「気持ちいい!」と感じた伏線回収を視覚化したものだ。とはいえ、実際には意識しているわけではなく、ほとんど無意識に、勢いで書きなぐっている。1のようなノートの取り方で思いっきり感情移入しているから、ちょっとしたキーワードの再登場でも、ミステリー小説よろしく盛り上がってしまう。ページの境目をためらいなく突っ切っているところに、その興奮が見て取れる。
私のノートは、私が私を満足させるためのもの
以上、勉強が好きすぎる私が取っているノートの実態を紹介した。
私はあくまで楽しんでやっているのだが、傍からはかなり意識が高いノートに見えるので、試験前にノートを貸した友人によく引かれていたのを思い出す。当時はそれなりに恥ずかしかったし、今でも決して自慢するべきものではないと自覚している。
ただ私が伝えたいのは「意識が高いのではなく、オタクが趣味を楽しんでいるだけなんだよ」「私が私を満足させるためのノートなんだよ」ということ。どうか誤解しないでほしいと思う。そして「こういう人間もいるのだな」と、ご笑覧いただければ幸いである。