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新幹線の「最高速度効率」を計算する
こんにちは、かいねっしゅです。
今回は普段とは打って変わって鉄道の話題です。
新幹線は最高速度をどれくらい活かせているのだろうか?
とかく新幹線で注目されがちなのが、最高速度です。最高速度は新幹線のウリであります。
新幹線は最高速度だけで定義されている(全国新幹線鉄道整備法第2条)ことをはじめとして、大げさにいえば「最高速度=新幹線の性能」のように考えられがちでしょう。
しかしながら、新幹線の所要時間は最高速度だけで決まるものではありません。列車の加減速性能、カーブや直線の多さ、最高速度で走れる区間の長さなど、様々な要因がかかわっています。
いくら最高速度が高くても、カーブが多かったり、加速性能が悪かったりしてフルスピードで走れる時間が短いのでは、あまり意味がありません。
そこで、新幹線が最高速度をちゃんと活かせているのかどうかを測れる指標が欲しいと考えました。
というわけで私がいいなと思ったのが、最高速度効率です。
最高速度効率 e の定義は、以下の通りです。
e ≔ (表定速度) ÷ (最高速度の平均)
定義より、0<e<1 です。
最高速度効率が高いほど、その新幹線は最高速度近くで走っている時間が長く、最高速度を「有効活用」できていることが分かります。
もちろん、最高速度効率は在来線や路面電車でも使える指標です。
計算方法の補足
最高速度の平均、と最高速度効率の定義にありましたので、これについて解説しておきます。
複数の最高速度がある区間にまたがって走る列車の最高速度効率を調べる場合、どれか一つの最高速度だけをとるのでは最高速度効率をうまく算出することができません。
そこで、最高速度効率の計算時は、分母を最高速度の平均にしておくのです。
具体的には、最高速度の平均は以下で算出します。
異なる最高速度の区間が $${A_1, … , A_n}$$ とあり、区間の合計長をA, そこの最高速度がそれぞれ $${h_1, … , h_n}$$ とすると、最高速度の平均 h¯ は以下のとおり算出される。
$${h¯ = \frac {\sum_{k=1}^n (A_k)(h_k)}{A} }$$
たとえば、合計150kmの区間のうち、100km区間の最高速度が 130km/h, 残り50km区間での最高速度が 100km/h だった場合、最高速度の平均は
1/150 (100 * 130 + 50 * 100) = 120(km/h)
となります。
※最高速度の平均の算出にあたっては、駅周辺やカーブなどにおける局所的な速度制限は基本的に考えないものとします。
また、最高速度効率を計算するときは、最も所要時間が短い列車で計算することを基本とします。例えば、東京~博多であれば、のぞみ64号の所要時間である4時間45分を使います。もちろん、ひかり や こだま、日中の のぞみ で計算してもいいでしょう。
選定区間
では、実際に最高速度効率を計算してみましょう。
今回選ばれた区間は、以下の11個です。
1. 東京~新大阪(東海道新幹線)
2. 東京~博多(東海道・山陽新幹線)
3. 新大阪~博多(山陽新幹線)
4. 新大阪~鹿児島中央(山陽・九州新幹線)
5. 博多~鹿児島中央(九州新幹線)
6. 東京~新函館北斗(東北・北海道新幹線)
7. 新青森~新函館北斗(北海道新幹線)
8. 東京~盛岡(東北新幹線)
9. 東京~新潟(東北・上越新幹線)
10. 東京~敦賀(東北・上越・北陸新幹線)
11. 東京~金沢(東北・上越・北陸新幹線)
計算
では、計算します。ここは私の知識整理も兼ねているので、ごちゃごちゃしていて繁雑です。
結果 から見ることをおすすめします。
※ニアリーイコールも = で表しています。
※有効数字の概念に反している部分がありますが、ご容赦ください。
1. 東京~新大阪(東海道新幹線)
・東海道新幹線の全区間であり、実キロは515.4km。
・最高速度は285km/hである。ただし、側面展望動画などから、東京~品川(6.8km)は100km/h、品川~新横浜(18.8km)は200km/h の制限がかかっていると推定できる。
最高速度の平均は、
[285 × {515.4 - (6.8 + 18.8)} + 200 × 18.8 + 100 × 6.8] ÷ 515.4
= 279.45… = 279.5km/h。
・東京~新大阪の最速は、上り最終の のぞみ64号であり、所要時間は2時間21分=2.35時間。
計算
表定速度 = 515.4 / 2.35 = 219.31… = 219.3 km/h
∴ e = 219.31 / 279.45 = 0.7847… = 0.785
2. 東京~博多(東海道・山陽新幹線)
・東海道・山陽新幹線の全区間であり、実キロは1069.1km(東海道新幹線515.4km, 山陽新幹線553.7km)。
・最高速度は、東海道新幹線で285km/h, 山陽新幹線で300km/h である。新大阪~姫路(85.9km)で270km/h の速度制限がかかっているとのことなので、これを考慮する。
山陽新幹線における最高速度の平均は、
{300 * (553.7 - 85.9) + 270 * 85.9} ÷ 553.7
= 295.34… = 295.3 km/h
よって、東海道・山陽新幹線における最高速度の平均は、
(279.45 * 515.4 + 295.34 * 553.7) ÷ 1069.1
= 287.67… = 287.7 km/h である。
・東京~博多の最速は、のぞみ64号であり、4時間45分=4.75時間。
計算
表定速度 = 1069.1 / 4.75 = 225.07… = 225.1 km/h
∴ e = 225.07 / 287.67 = 0.7823… = 0.782
3. 新大阪~博多(山陽新幹線)
・山陽新幹線の全区間であり、実キロは上記の通り553.7km。
・最高速度の平均は、上記の通り295.3(4) km/h。
・この区間の最速列車も、のぞみ64号。所要時間は2時間21分=2.35時間。
計算
表定速度 = 553.7 / 2.35 = 235.61… = 235.6km/h
∴ e = 235.61 / 295.34 = 0.7977… = 0.798
※ e が 1, 2 の平均より高くなってしまいましたが、これは、1, 3 の計算で新大阪での停車時間を含めていないことによると思われます。
4. 新大阪~鹿児島中央(山陽・九州新幹線)
・山陽・九州新幹線の全区間であり、実キロは、山陽新幹線の553.7kmに九州新幹線の256.8kmを加えて810.5km。
・最高速度は、山陽新幹線で300km/h, 九州新幹線で260km/h。先述の新大阪~姫路の速度制限のほか、博多から博多総合車両所との分岐点までの8kmでは120km/hの速度制限がある。
九州新幹線における最高速度の平均は、
{260 (256.8 - 8.0) + 120 * 8.0} / 256.8
= 255.63… = 255.6km/h。
よって、山陽・九州新幹線における最高速度の平均は、
(295.34 * 553.7 + 255.63 * 256.8) / 810.5
= 282.75… = 282.8km/h。
・新大阪~鹿児島中央の最速便は、下り最終の みずほ615号であり、所要時間は3時間42分=3.7時間。
計算
表定速度 = 810.5 / 3.7 = 219.05… = 219.1km/h
∴ e = 219.1 / 282.75 = 0.7748… = 0.775
5. 博多~鹿児島中央(九州新幹線)
・九州新幹線の全区間。上記の通り、実キロで256.8km。
・最高速度の平均は、上記の通り、255.6(3)km/h。
・最速便は、上と同じく みずほ615号であり、所要時間は1時間16分=1.266… = 1.27時間。
計算
表定速度 = 256.8 / 1.266 = 204.83… = 204.8km/h
∴ e = 204.83 / 255.63 = 0.8012… = 0.801
6. 東京~新函館北斗(東北・北海道新幹線)
・東北・北海道新幹線の全線。実キロは、東北新幹線が674.9km, 北海道新幹線が148.8km の合計823.7km。
・最高速度の平均を計算するにあたり、速度制限をみる。
最高速度は、東京~大宮(31.3km)が130km/h, 大宮~宇都宮(77.7km)が275km/h, 宇都宮~盛岡(387.5km)が320km/h, 盛岡以北(327.2km)は260km/h である。
ただし、青函トンネル周辺の新在共用区間では、青函トンネル内(53.9km)が160km/h, それ以外(28.2km)が140km/h に制限される。実際に盛岡以北で260km/h運転ができるのは、245.2kmに限られる。
さらに例外があり、最繁忙期には青函トンネル内の最高速度が260km/hに引き上げられる。ただし、ここでは平時の速度で計算する。
よって、最高速度の平均は、以下の通り算出される。
(130 * 31.3 + 275 * 77.7 + 320 * 387.5 + 260 * 245.2 + 160 * 53.9 + 140 * 28.2) / 823.7
= 274.08… = 274.1km/h。
・東京~新函館北斗の(平時の)最速便はいくらかあるが、所要時間は3時間57分 = 3.95時間。
計算
表定速度 = 823.7 / 3.95 = 208.53… = 208.5km/h
∴ e = 208.53 / 274.08 = 0.7608… = 0.761
7. 新青森~新函館北斗(北海道新幹線)
・北海道新幹線の全線。実キロは148.8km。
・最高速度の平均は、6. より、
{260 * (148.8 - 53.9 - 28.2) + 160 * 53.9 + 140 * 28.2} / 148.8
= 201.03… = 201.0km/h。
・新青森~新函館北斗の(平時の)最速便はいくらかあるが、所要時間は57分 = 0.95時間。
計算
表定速度 = 148.8 / 0.95 = 156.63… = 156.6km
∴ e = 156.63 / 201.03 = 0.7791… = 0.779
8. 東京~盛岡(東北新幹線)
・東北新幹線のうち、整備新幹線ではない部分である。実キロは496.5km。
・最高速度の平均は、6. より、
(130 * 31.3 + 275 * 77.7 + 320 * 387.5) / 496.5
= 300.97… = 301.0km/h。
・東京~盛岡の最速便はいくらかあり、所要時間は2時間10分 = 2.167時間。
計算
表定速度 = 496.5 / 2.1666 = 229.16… = 229.2km/h
∴ e = 229.16 / 300.97 = 0.7614… = 0.761
9. 東京~新潟(東北・上越新幹線)
・上越新幹線の全線と、東北新幹線の東京~大宮。ただし旅客案内では全線が「上越新幹線」扱い。実キロは、東京~大宮が31.3km, 大宮~新潟が269.5kmの合計300.8km。
・最高速度は、東京~大宮が130km/h, 大宮~新潟が275km/h。
最高速度の平均は、
(130 * 31.3 + 275 * 269.5) / 300.8
= 259.91… = 259.9km/h。
・東京~新潟の最速便は とき312号であり、所要時間は1時間31分 = 1.5167時間。
計算
表定速度 = 300.8 / 1.5167 = 198.32… = 198.3km/h
∴ e = 198.32 / 259.91 = 0.7630… = 0.763
10. 東京~敦賀(東北・上越・北陸新幹線)
・東北新幹線の東京~大宮、上越新幹線の大宮~高崎、および北陸新幹線の全線。旅客案内上では「北陸新幹線」として扱われる。実キロは、東京~大宮が31.3km, 大宮~高崎が77.3km, 高崎~敦賀が470.6kmで、合計579.2km。
・最高速度は、上述の通り、東京~大宮が130km/h, 大宮~高崎が275km/h。また、高崎~敦賀は260km/hである。
最高速度の平均は、
(130 * 31.3 + 275 * 77.3 + 260 * 470.6) / 579.2
= 254.97… = 255.0km/h。
・東京~敦賀の最速便は、かがやき503号の3時間8分=3.1333時間。
計算
表定速度 = 579.2 / 3.1333 = 184.85… = 184.9km/h
∴ e = 184.85 / 254.97 = 0.7249… = 0.725
11. 東京~金沢(東北・上越・北陸新幹線)
・東北新幹線の東京~大宮、上越新幹線の大宮~高崎、および北陸新幹線の高崎~金沢。旅客案内上では「北陸新幹線」として扱われる。実キロは、東京~大宮が31.3km, 大宮~高崎が77.3km, 高崎~金沢が345.4kmで、合計454.1km。
・最高速度は、上述の通り、東京~大宮が130km/h, 大宮~高崎が275km/h。また、高崎~金沢は260km/hである。
最高速度の平均は、
(130 * 31.3 + 275 * 77.3 + 260 * 345.4) / 454.1
= 253.53… = 253.5km/h。
・東京~金沢の最速便は、かがやき503号の2時間25分 = 2.4167時間。
計算
表定速度 = 454.1 / 2.4167 = 187.90… = 187.9km/h
∴ e = 187.90 / 253.53 = 0.7411… = 0.741
結果
結果をまとめると、以下のようになります。
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意外にも、どの区間でもそこまで大きな差は出ませんでした。
こうして見てみると、大きく分けてJR東海系(東海道・山陽・九州新幹線)とJR東日本系(東北・上越・北陸・北海道新幹線)で値に傾向があることが分かります。前者の方が高く、後者の方が低くなっています。
これには以下のような要素がかかわっていると考えられます。
1. 車輛性能の違い
JR東海系ではN700系やその派生車輛が多く使われています。N700系は起動加速度2.6km/h/s であり、通勤列車に匹敵する加速性能を持ちます。
いっぽう、JR東日本系ではE5系とH5系、E7系とW7系がメインで使われています。前者は起動加速度1.71km/h/s(併結時は1.6km/h/s)、後者は1.6km/h/s とかなり加速力に劣ります。
加速力が弱いと最高速度に達するのに時間がかかり、そのぶん最高速度で走れる時間が短くなります。これがJR東日本系で最高速度効率の低い原因でしょう。
2. 最高速度の違い
JR東海系の路線では、最高速度は一番高いものでも300km/h(山陽新幹線)であり、東北新幹線の320km/h と比べると低めに抑えられています。
これも最高速度効率の傾向に影響していると考えられます。最高速度が高いとその速度に達するのに時間がかかるからです。
じっさい、最高速度320km/hの区間をおおぶんに含む東京~盛岡、東京~新函館北斗の値は、速度制限の多い新青森~新函館北斗に比べて明らかに低くなっています(新青森~新函館北斗の最高速度効率は、JR東日本系で最も高い)。
また、JR東海系においては最高時速が一番低い九州新幹線全線(博多~鹿児島中央)の最高速度効率が 0.801 と最も高くなっていることも、この考えを裏付けるものです。
補足:東海道新幹線は例外的
ただし、2. では東京~新大阪の微妙に低い最高速度効率を説明できませんので、ここで補足しておきます。
東京~新大阪は東海道新幹線の全線ですが、東海道新幹線は他の新幹線と比べ曲線が多く、しかもカーブがきつくなっています。具体的には、他の新幹線の最小曲線半径が4000mなのに対し、東海道新幹線は2500mです。
N700系は車体傾斜装置を備え、高速でカーブを走行できるようにはなっていますが、それでもカーブでは270km/h と最高時速マイナス15km/hでの通過を余儀なくされています。
このことが、東京~新大阪の最高速度効率が低い理由でしょう。
補足2:なぜ東京~敦賀は遅めなのか
また、表では東京~敦賀の区間がぶっちぎりで値が低く、0.725となっています。値の傾向からすれば、もはや外れ値といっていいくらいです。
不思議に思ってかがやき508号(これは上りの電車で503号とは走行方向が逆ですが、参考にはなるでしょう)の側面展望動画を閲覧したところ、ある事実に気づきました。
福井~金沢で速度を落として運転しているのです。具体的にはおおむね210~230km/h です。また、軽井沢付近の急カーブでも100km/hほどまでに速度を下げて通過しています。
東京~敦賀における最高速度効率の低さは、これらが原因と思われます。
結論
・最速達種別の表定速度を求めるには、最高速度の平均にだいたい 0.75~0.8 を掛ければいい。
・計算に単なる最高速度を使うなら、平均を考える際の速度制限区間を考えない分を加味して 0.7~0.75 をかければよいだろう。
今日も、私の記事をお読みくださいまして、ありがとうございました。
(参考資料)
・「新しい新幹線路線の今がわかるページ」…実キロ程について参考にしました。
・「T-LOG」… 速度制限区間について参考にしました。
・ Wikipedia … 車輛の性能などを参考にしました。
・【4K車窓】北陸新幹線敦賀開業!かがやき508号 敦賀→東京 W7系 … かがやき号の走行について参考にしました。