24.12月オケ練習会②:私は雑用係。
「夜、おはよう。
今日、チェロセクションの見学者連れて行くからさ、よろしく。」
その日、朝早くコントラバスのJさんからそうLINEがあった。
PLのKさんには言ったのかしら?
練習会開始10分前に会場に着いた。
ソリストOさんが、立奏で曲をさらっている。だけど、まだ指揮のH先生がいない。
「夜、こっちおいで!」
Jさんが手招きしている。
チェロケースを置いて側へ行くと、私と同じ年くらいと思しき女性が椅子から立ち上がった。
「見学のSさん。A音楽教室の生徒さんで、大学オケの経験があるって。大学オケ出身ってアンタと一緒だよ。」
私はヴィオラだったけれどね。
「夜です。よろしくお願いします。」
「Sです。お邪魔します。」
Sさん、織り目正しくお辞儀をした。可憐な方だ。
「夜さーん、ちょっと来て!」
背後から代表の声がかかる。
Sさんに礼をして、代表の元へ。
「プログラムに載せる出演者名簿、各PLからもらった?」
「いえ。それがまだなんです。」
「コンマスの曲紹介原稿もまだ届いてないんだよ。今日コンマス欠席だから、夜さん後でコンマスに督促の連絡してね。」
「わかりました。」
背後でチェロPLのKさんが「チェロのメンバーはわかってるよね。」と私に言う。
私は、はい、と返事をした。
「夜さーん、クリスマス会出席だよね?」
今度はVc Rさんからお声が…忙しい。
「なんか、Mさんから手伝い頼まれてるので、私は強制参加ですよね。」
「オーケー。」
Rさん、名簿にぐりぐりとマルを書き込む。
代表がパンパンと手を叩いて、皆を注目させた。
「皆さん。H先生がいらっしゃる前に連絡です。
各PLは、夜さんに出演者名簿を提出してください。」
私、立ち上がって発言する。
「一緒にプルト表もください。ステージ係のJさんとステージ配置表を作りますので。」
代表が続ける。
「来週はクリスマス会を開催します。VcMさんに出欠をお知らせください。出席する方は、何か赤いものを身につけてきてくださいね。」
連絡を終えたところで、H先生ご到着。
★
ヴィヴァルディから練習スタート。
出だしは、Vcパートから。
「あー、そんな上品に弾かないでよ。駒寄りでソリスティックな音を出してほしい。ヒッチコックの映画みたいな。曲の合間に女性の悲鳴が入るヤツ。」
みんなが「ああーっ。」と納得の声を上げるものの、私にはわからなかった…。
Oさんのソロは、とても美しかった。
凍てついた草原にダイヤモンドダストが煌めくイメージ。
続くピアソラは、チェロでタンゴのリズムを刻むのが楽しい。
低弦が元気良すぎてH先生が「Vn、負けないで!」と言ったくらい。
グリッサンドにも慣れた。
2曲終えたところで、休憩。
★
「クリスマス会の手伝い、1stVnとVlaから2人ずつ探してきてください。」
Mさんにお願いされる。ハイハイ。
「ケーキ配りをお願いしたいです。」
声をかけてまわる。
「ケーキ切る係?できないよー。」
「いいえ、配るだけですから。」
「食べる係ならいいよ。」
「それは、全員です。」
何とか、4人埋めた。
見学に来ていたSさんは、ここで帰るという。
演奏会のチラシをお渡しして、PLのKさんと見送る。
「入団されますかねぇ。」
私が言うと、Kさん
「さあねぇ。どうだろ。楽器持ってきてなかったしね。本当に見学だったね。」
1年前に入団したVlaのS君など、見学の時からトップに座らせられていた。それでも臆せず入団してくれたから、スゴい。
そういえば、私も入団して2回目の練習会から立て続けにトップサイド代理、トップ代理をさせられた。今も時々代理を指名される。。
その話をチェロ師匠にしたら、
「若者を率先して前列に座らせるのがセオリー。」
と言われた。次世代を育てるためだそう。
プロオケでも、新人を積極的にトップサイド代理、トップ代理をさせるのだとか。
大学オケでは大抵学年順(学年上から前)だったからだいぶ違う。
★
後半。
チャイコの弦セレ。
この曲の最初も、聴く側をドキッとさせるような、悲劇的な演奏をするように、と指示される。
一度、1楽章を通した。
その後、H先生は大型スコアを最初のページに戻してから「はい。ではチェロ。」と言う。
Vcセクション、全員背筋が伸びる。
「お久しぶりです。練習番号B!」
キターッ!超絶イヤなところ。毎っ回言われる。
「最初ゆっくり。ほら、16分休符必ず入れる!ズレてるよ!
次、通常テンポ!速くなっても必ず休符!」
だいぶ練習してきたので、ようやくついていけるようになった私である。
余裕ができるとみんなの音も聴けるようになった…うん。H先生の言うとおり、ズレてる。
「チェロ、ここが最大の鬼門だと思ってください。メトロノームを必ずお供にして、本番まで毎日練習すること!」
ハイッ!
ほかのセクションの皆さん、いつもBのチェロ練に付き合わせてごめんなさい。
2楽章。
「チェロ。練習番号Bアウフタクトからのメロディを弾いて。」
二段目まで弾いたところで止められる。
「んー。なんかただ弾いているだけなんだよね。もっと歌って。Vlaなんか2楽章はずっと伴奏だから、Vcが羨ましいんだよ。」
うんうんと頷くVlaの皆さん。
「強弱を派手に。オレたちが主役って顔で。Vlaの皆さんががますますVcが羨ましいって思うくらいに。」
歌えって、私の個人レッスンでも師匠に言われたなぁ。どう弾きたいかイメージして、それを音にすること、と言われた。
今度はメロディを最後まで弾かせてくれた。
「そう。そういうことだよ。その調子で弾いてください。」
4楽章。
練習番号Bからのメロディでストップ。
(チャイコ、全楽章“練習番号B”にチェロのポイントがある…)
「音、ブツブツ切れすぎ。8小節単位で繋げること。車に乗って滑らかに山を登って降りるような感覚で弾きなさい。」
ここも、ちゃんと歌えということ。
ここを越えると、チェロは不気味な伴奏が続く。
「おどろおどろしく。そのほうが、最後の派手さが目立つ。」
なるほど。
「最後なぁ。溜まったフラストレーションを発散させるような重音だなぁ…ま、今日はいいか。」
H先生、ちょっと呆れたように言って、本日の練習会終了。
★
「チェロとコントラバスセクションは居残りです。」
PLが言う。
ロビーコンサートの練習である。
演奏会の前に、ロビーで低弦セクションが2曲演奏する予定だった。ロビーで弾けないとのことで、ステージで弾くことに。
ロビコン、ならぬ、ステコンの練習だ。
先週、私は3rdから2ndパートに移るよう指示された。
2nd…ちょっとスコア見ただけでわかる。どのパートよりも一番難しい。
1stもVnパートを弾くから高音ポジションが多い。でも、メロディーなので、音は取りやすい。
「ちょっと夜、スコア貸して。そして、しばらく貸してて。」
とJさん。
独自のコントラバスパートを作るためだ。
「いいですよ。一日100円の貸与です。」
「何だよソレ、高いよ〜。」
「冗談です。あげますよ。私、データで持ってるから。」
「お!サンキュー。」
Jさん、早速書き込みを始めた。
はじめに、眠れる森の美女のワルツ。
最初はいい。ズンチャッチャの伴奏だから。
それが後半は複雑な伴奏になっていく。
「私、練習できてないから、夜さんよろしく!」
と、私の表に座るPL。
ひーッ!それはないです!私だって、後半の複雑な部分はまだ弾けません!
スミマセン、スミマセンッ!と言いながら、初見大会をこなした。
弾けたら、とても優雅なワルツになるだろう。
2曲目は、オペラ座の怪人。
今年のパリ五輪のオープニングシーンを彷彿とさせる。
カッコイイ曲で人気なのだが…やっぱり2ndが複雑。キメの部分も多い。そして、キメをキチンと弾けないと格好悪い。
「最後の2ndの刻み、ハッキリ聴こえるように弾いてほしいの。1stはずっと音を伸ばしているから、その刻みが聴こえないとどこまでも伸びちゃうの。」
と、トップ。
言わんとすること、よくわかる。
がんばります。
マトモに弾けないから居残るのに気が引けていたが、繰り返すうちに曲調が掴めたので、やはり出席しておいてよかった。
あとは、個人練習をがんばろう。
居残りを含めると6時間ぶっ続けで弾いていた…疲れた。
でもって、帰宅してすぐに夕飯をすませて、さらに2時間練習したのだった(それでも、まだ足りない)。