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24.11月オケ練②:ソロデビュー。
チェロレッスンの際、うっかり師匠に月謝を渡すのを忘れた。レッスン室に入ってすぐに私がおしゃべりを始めてしまったからだ。
レッスンのあった日、寝る前に気付いて、急いでLINEを送った。
「お月謝渡すの忘れてました!すみませんッ!!」
すぐレスがあった。
「次回で全然構わないよ。」
ホント、すみません…。
先生からは続けてメッセージが入った。
「レッスンの時言わなかったんだけど。今ボクは、夜がバッハで学んだ事も踏まえつつ、基本的な事もしっかり身につけていけるようなレッスンを考えてるよ。
この前夜がボクに言ったこと、ちゃんと返事できていないから、その辺もいずれ話したいと思ってる。
今はちょっと忙しいから、そのうちゆっくり時間を取ると約束する。
じゃあ、おやすみ。」
私がレッスンに対する姿勢を改めたことから、私の『キチンとチェロを弾けるようになりたい』という本気の気持ちが師匠に伝わったようだ。
師匠の本気モードのレッスンはなかなか怖そうだが、師匠がそこまで私のことを考えてくださっているのなら、頑張るのみである。
★
昨日夕方、オケのチェロLINEで、チェロトップが練習会を欠席するとの連絡があった。
体調不良ではないとのことで、ほっとする。
トップ不在となると…席順が繰り上がり、トップサイドがトップに座り、私がトップサイドに座ることが予想される…指揮練だというのに。
今回、ビバルディとピアソラの曲にチェロのソロが多く入っている。
チェロソロは、演奏会本番ではトップが弾くが、練習会ではトップとトップサイドの二人が担当することになっている。
私はつい先日まで発表会の曲練習に集中していて、オケ曲の練習は二の次になっていた。
ソロなんて、モブである私には関係ないと思い、すっ飛ばして練習していた。
よりによって指揮練でソロデビューなんて、笑えない…。
きっと、ほかの誰かがトップサイドに座ってくれると期待して、出かけた。
開始時刻15分前に会場に到着したところ、ちょうどチェロメンバー6人がそろった。
パートリーダーが席を割り当て始めた。
「今日はトップのMさんがお休みなので、トップには私が座ります。
トップサイドは、夜さんお願いします。」
「私ですか?!」
思わず一歩下がる私に、
「だって、ほかにいないでしょう。」
と、さも当たり前のようにリーダーが畳み掛ける…いや、私じゃなくても...。
渋々、指揮者の真ん前に座った。
「あのう、ソロの部分なんですけれど…。」
左隣に座ったリーダーにおずおずと言った。
私は弾かなくていいですか、と言おうとしたところ、
「私だけだと落ちちゃうかもしれないから、夜さんも弾いてね。」
先に言われてしまった。
…仕方がない。できるだけがんばろう。
★
ビバルディ 四季「冬」。
「出だしのチェロ、もっとソリスティックに弾いてください。」
との指示。不穏な空気を醸し出す役割。
1楽章を特に丁寧に指導を受けた。
「22小節からは『寒くて足を踏み鳴らす』です。
チェロ、もっと雑な感じに弾いて。」
雑に?!それなら得意。
ガシガシ弾くと、
「ああ、いいね!」
と言われる。
26小節3拍目からいよいよチェロソロ。
いつもなら休みになるところを、休まず続けて弾く。
H先生からのストップもなく乗り切った。
良かった…。
★
2曲目 ピアソラ。
ピアソラ、チェロソロ多すぎ。最初のページと最後の1ページなんか、ほとんど全部ソロじゃん。
だから、ソロじゃなければちょっと楽なんだけれど…そう思っていた私に、天罰が下ったのかもしれない。
「練習番号11 con energico、もっと低弦激しく!」
H先生、前列のリーダーと私に指示を出す。
ヨシ来た!
遠慮なく弾くと、H先生ちょっと驚いた表情。
「…なんか異常に上手いね。」
だって、好きなんだもん。
練習番号17から先はヴァイオリンに合わせてチェロのソロを弾く。
ヴァイオリンがやり直しになる度にチェロソロも付き合わされるものだから、最後の方は無意識にH先生を正面から無言で睨んでしまった。
私の視線に気付いた先生、
「1st(ヴァイオリン)、もう一度119から…あ、チェロは休んでいいよ。」
ありがとうございます。
★
練習会の最後はチャイコフスキーの弦セレ。
チェロトップとトップサイドはここからまた厳しい戦い。
「1楽章B、チェロだけで。」
キター!難所単独練習!!
みなさん、気の毒そうに我々を見ている…。
私たちが苦戦していると、H先生が指示した。
「テンポ落としてピチカートで弾いてみようか。」
ピチカート?
言われるままに難所をピチカートで弾いた…あれ?1音1音がはっきり聞こえる。弾けてるじゃないか。
「わかりましたか?左手は音が取れてるんです。問題は弓のアーティキュレーションなんです。」
ああー!そういうことか!
「じゃあ、弓使って今のところもう一度。」
さっきより全然いい。
H先生も頷く。
さすが先生。目から鱗でした。
★
練習が終わって椅子でグッタリしていると、コンマスがやって来た。
「はい。お土産。」
コンマスが私に差し出したのは、ムーミンのキャラメル。
先週、コンマスは仕事でフィンランドへ行っていた。
「わっ。ありがとうございます!」
冗談半分でお土産お願いLINEを送ったけれど、本当に買って来てくれたんだ。何気にコンマス優しい。
「夜、トップサイドお疲れ!」
コントラバスのJさんに肩を叩かれた。
「はー、なんとか終わりました…。」
キャラメルをもぐもぐしながら返事をする。
「疲れただろうけど、勉強になっただろ。」
と、オケの大先輩Jさん。
「はい。とても。」
気が付けば、ずっと指揮に注目していた。
後ろに座っているときには、トップばかり気にして見ていた。だから、トップが落ちると私まで一緒に落ちていた。
前列には指揮者しかいないから、見るのは譜面と指揮だけ。H先生はちゃんと私たちに向けてザッツを出していた。それに合わせれば落ちることはないのだ。
「トップだって落ちることはあるだろう。後ろのプルトがそこを支えてくれるとトップとしては心強いし安心なんだよ。」
Jさんの言うこと、体感としてよくわかった。
後ろのプルトに座っても、ちゃんと指揮を見よう。
「ソロデビューおめでとう!」
そう言って、Jさんは帰って行った。
でも、ソロはもう勘弁だ。