日常雑記:尊敬する努力の人//ヘリコプターに乗る
「先日の研修会はオンラインだったんです。
で、その内容がとても良くて。私の知りたいことが全部入っていて、いやー、有意義でした。」
他院からヘルプで来てくださったS先生と雑談中、私はそう話した。
S先生が首を傾げた。
「その研修の配信元は〇〇院のA先生ですよね。実は私、配信中にA先生の側にいたんですよ。」
「ええ?そうだったんですか。」
「A先生、この研修内容を考えたのは夜先生だと話していましたけど。違うんですか?」
なんですって?!
「そんなわけない...いや、もしかしてあの時のこと?」
6月に私が〇〇院のヘルプに行った際、同じ研究会で研修リーダーのA先生に「9月の研修内容、何にするか困っているんです。」と相談を受けた。
私は事細かに、こんなことが知りたい、こうしてくれるといい、など、思いつくままに話をした。
A先生、律儀にメモを取っていた。
「思い出したしました…私でした。」
「A先生、資料作成に10時間要したそうですよ。」
じゅ、10時間!!
ただでさえA先生忙しいのに…私は絶句した。
「夜先生が良い内容だったって言っていたと知ったら、A先生喜びますよ。」
ニコニコとS先生がそんなことを言う。
手が空いたところで、私はA先生へ電話をかけた。
「私、また何かミスしましたか?」
私からの電話に、オドオドと出るA先生…私ってA先生にとって、そんなに怖い存在だったか?
「いえ、何もミスなんてないですよ。そうではなく、先日の研修のことです。私の希望をだいふ聞いてくださったそうで。私の思いつきで大変なご苦労をおかけしました。申し訳なかったです。」
電話の向こうでA先生は、「ええ?!」と驚いた後、ふふ、と笑った。
「夜先生に相談したのは私ですから。それに、医院長が『夜先生は裏ボスだから、言うこと聞いておいたほうがいいよ。』と話していました。」
今度は私が「ええッ!?」と驚いた。
S医院長は、昨年まで私の上司だった。
「S教授…なんてことを言うかな。」
A先生、またクスクス笑う。
「裏ボスは語弊があるかもですけど。夜先生の言うことを聞いておけば間違いないことは確かですね。で、研修内容はいかがでした?」
「そのことも先生に話したかったんですよ。ホント、素晴らしかったです。私の疑問が解決しました。ありがとうございます。」
「夜先生にそう言っていただけるのなら、苦労の甲斐がありました。実は他の先生方からも良かったとの感想をたくさんいただいたんですよ。やはり夜先生の言うことを聞いておいて良かったです。」
A先生、含み笑いをしながらそんなことを言う。
「よしてください。それはA先生の実力ですよ。その資料、素晴らしいものでしたから、残して多くの人がいつでも閲覧できるようにしてはいかがでしょう。」
「そのようにするには、データを提供いただいた先生方の承諾が必要なんですよ。」
「私も手伝います。」
「それはありがたい。よろしくお願いします。」
A先生のように困難なことを前向きに取り組もうとする人が身近にいると、自分もがんばろうと思えるから、こちらこそありがたい。
★
「ねぇ、夜。たまにはデートしようよ。」
ある日の晩、ダンナにそう言われた。
「誘うからには、どこか行きたいところでもあるの?」
「うん。ヘリコプターの体験フライトに行かない?」
ダンナ、パソコン画面を私に見せてきた。
その情報によると、NEXCOと観光ヘリコプターの会社がコラボして、パーキングエリアからのフライト体験を期間限定で行っているという。
ダンナは乗り物好きだ。
ヘリコプターに乗ったことがないので乗ってみたい、という。
私はというと、以前、ドクターヘリに搭乗していたので、ヘリには嫌というほど乗っている。
仕事現場の緊張感を思い出すので、あまり気が進まない…。
「1組3人まで搭乗できるの。オレ一人で乗っても、二人で乗っても料金が変わらないから。
もちろん、料金はオレが持つよ。」
子どもたちも誘ったそうだが、興味がないと、アッサリフラれたのだそうだ。
近頃ダンナとでかけることないもんなぁ、ということでOKした。
「日にちなんだけど。一日丸々休めそうにないから、当直明けの昼間でいい?で、移動中の車の中で寝かせてほしいんだけど、それでもいい?」
ダンナ、子どものように喜んだ。
「もちろんいいよー。楽しみだなぁ。」
当日の昼。
私はねむねむの状態で車に乗った。
起こされたら、もう目的のパーキングだった。
ダンナが受付をしてくれる。
私たちのほかに、もう一組ご家族が受付をしていた。
天気は生憎の小雨。
それでもスタッフさん、晴れ間をぬって飛べそうです、とのこと。
スタッフさんと歩いてヘリポートへ向かう。
先に、私たちが乗り込むことになった。
観光フライトなので、我々は特に準備等はいらない。長い傘や大きな荷物があれば、置いていく。
雨が止んだ。
スタッフさんの誘導で、早速ヘリに乗り込む。
紅葉はまだだけれど、田んぼがパッチワークのように色とりどりでキレイだった。
今回の最高高度は300m。
パラグライダーでは1,000m上空をよく飛ぶので、あまり高く感じない。
ダンナは、操縦に目が釘付けだった。
私は仕事の緊張感がないのが良かった。
フライト時間は3分間。あっという間だった。
ヘリポートに着陸後。操縦席を見学させてもらう。
操縦席に座らせてもらったダンナは興奮気味だった。良かったね。
体験終了後は、パーキングでソフトクリームを食べ、ダンナのヘリコプター解説をうとうとしながら聞いて帰った。
たまにはこういうデートもいいものだ。