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ペソア『不安の書』と『不穏の書、断章』って何が違うの?

先日、Twitter を眺めていたら「ペソアの『不安の書』と『不穏の書』ってなにが違うの?」というツイートを拝見しまして、

「確かにペソアの本は、似たようなタイトルが並んでいて、とてもわかりにくい!」と感じたので、記事にしてみました。

ご購入や検索のときに、お役に立てれば幸いです。


■ペソアの、似たタイトル書籍一覧■

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『不安の書 【増補版】』(彩流社)2019/8/6発売

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『不安の書』(新思索社)2007/1/1発売

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『[新編]不穏の書、断章』(平凡社)2013/1/12発売

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『不穏の書、断章』(思潮社)2000/10発売

①『不安の書【増補版】』と『[新編]不穏の書、断章』は何が違うの?

結論を先に言えば、彩流社の『不安の書【増補版】』は、ペソアが書いた Livro do Desassossego(不安の書 or 不穏の書)という本の完訳で、
平凡社ライブラリーさん『[新編]不穏の書、断章』は Livro do Desassossego の一部と、ペソアの他の作品も載った本、ということになります。
なので、「ペソアの Livro do Desassossego を全部読みたい!  じっくり味わいたい!」という場合は彩流社の『不安の書【増補版】』がいいと思います!
「いやいや、でも私は Livro do Desassossego だけでなく、ペソアの他の詩も味わってみたい!」という方は平凡社ライブラリーさんの『[新編]不穏の書、断章』がオススメになります!(※1)

そしていま(2020/6/13現在)新刊書籍で手に入るペソアの Livro do Desassossego はこの二つしかありません。つき合わせはしていませんが、『[新編]不穏の書、断章』の中の Livro do Desassossego 部分は、すべて彩流社の『不安の書【増補版】』に入っています(はず)。

「はず」、と書いたのは、彩流社の『不安の書【増補版】』と、平凡社ライブラリーさんの『[新編]不穏の書、断章』の中の Livro do Desassossego とではバージョンが違うからです。

細かな話なので読み飛ばしていただいて構いませんが、ペソアが亡くなったとき、Livro do Desassossego の原稿は本として一冊になっていなかったので、整理&編集されるのですが、各編者によって違いが出て、同じ Livro do Desassossego でもいくつかバージョンができました。ここがまたややこしいですが、これもペソアの魅力ですので許してください。
彩流社の『不安の書【増補版】』は「1986年のクワドロス版」を底本とし、「1999年のゼニス版」を適時参照したものに、「2010年のピサロ校訂版」から6篇の断章を増補したもので、底本に違いがあります(平凡社ライブラリーさんのはアティカ版かと思われます)。
編者によってペソアの文を Livro do Desassossego に入れるかどうかに相違があるので、『不安の書【増補版】』にはAが入っているのに、『[新編]不穏の書、断章』の中の Livro do Desassossego 部分にはAが入っていない、という可能性もなくはないので、「はず」と書きました。

ただ、そこが気になるようでしたら、もうそれは立派なペソア・マニアの証みたいなものなので、ぜひ両方買って比べてみてください。

また、もう一つの大きな違いは、訳された方の違いです。
『不安の書【増補版】』の訳者は高橋都彦さんで、『[新編]不穏の書、断章』は澤田 直さんが訳されています。訳の違いを味わうのも、読書の楽しみの一つですよね。

(※1)わかりづらくなるので文中には書きませんでしたが、いろいろなペソアの詩や作品を楽しみたい場合は『ポルトガルの海 増補版』(彩流社)もオススメです。

②彩流社の『不安の書【増補版】』と新思索社の『不安の書』はどう違うの?

弊社の『不安の書【増補版】』は、今はなくなってしまった新思索社さんという出版社から2007年に発売された『不安の書』(第3刷2012年)の増補版です。
先ほども書きましたが、Livro do Desassossego の「1986年のクワドロス版」を底本とし、「1999年のゼニス版」を適時参照したものに「2010年のピサロ校訂版」から増補したものになります。
増補した分量ですが、ページで言えば12ページほどの分量になります。さらに中身の検索がしやすいように、巻末に主にタイトルと文頭の文を載せた「断章集」を24ページ増補し、新たに「訳者あとがき」と『不安の書』の原稿図版を付しています。

③『[新編]不穏の書、断章』(平凡社)と『不穏の書、断章』(思潮社)はどう違うの?

どちらも彩流社の書籍ではないので、確かなことは言えませんが、『[新編]不穏の書、断章』に「本書は二〇〇〇年十月、思潮社より刊行された『不穏の書、断章』を増補改訂したものです」とあります。また「今回の増補で『不穏の書』は八七から一二六章になった」とあり、さらに池澤夏樹さんの書き下ろしエッセイが所収になった部分も、増補部分のようです
(私が読んだ限りのことなので、間違いがあればご指摘ください)。

④まとめ

まとめると平凡社ライブラリーさんの『[新編]不穏の書、断章』はペソアの『不安の書』の一部と、『不安の書』以外の作品も入っています。
弊社『【増補版】不安の書』は完訳なので、ペソアの他の作品は入っていません。
また、同じ『不安の書』ですが使用されている底本が異なります。
どちらも素敵な本なので、ぜひ手に取ってみてくださいね。
          (彩流社 ナカノヒト記)


彩流社から刊行しているペソア書籍一覧

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『ポルトガルの海 増補版 フェルナンド・ペソア詩選』
フェルナンド・ペソア 著, 池上 岑夫 編訳
1985/9/5発売
定価:2,200円 + 税

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『ペソアと歩くリスボン』
フェルナンド・ペソア 著, 近藤 紀子 訳
1999年06月25日
定価:1,900円 + 税

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『アナーキストの銀行家 フェルナンド・ペソア短編集』
フェルナンド・ペソア 著, 近藤 紀子 訳
2019/6/18
定価:2,000円 + 税

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『不安の書【増補版】』
フェルナンド・ペソア 著, 高橋 都彦 訳
2019/8/6発売
定価:5,200円 + 税

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