ヨロイ竜 フテンマの想い出 25 黒田晟比胡 2021年9月21日 13:08 巨大ヨロイ竜 フテンマの想い出 幾億年の昔々。まだ、人間はこの地球には居ない時代 。沖縄の海は、どこまでも青く 沖縄の空は、どこまでも高かった。 そのころの沖縄には 恐竜が、たくさん住んでいた。 ほかの恐竜を食べてしまう、おそろしい肉食竜もいれば、草ばかり食べている大人しい竜もいた。草食竜のなかに、フテンマ、という変わった竜がいた。フテンマの背中には、固い固い甲羅があった。 フテンマは、草ばっかり食べている大人しい男の子。 だけれども、もめ事やケンカが 大嫌いだった。 ティラノサウルスが 草食恐竜の子どもをおいかけていて 食べようとしたら、コウラのなかに隠してやった。 「まだ、子どもの竜じゃないか!食べるだなんて可哀そうだ!」 トリケラトプスの、草食恐竜の群れ同士が もめ事になったときも、ケンカをさえぎっていった。 「僕たち、草食竜は大地の草や恵みをもらって、生きてるんだ!話し合えばわかる!」 ある日のこと。 ティラノサウルスは、村で一番賢い長老に文句を言いに行った。 「おい、長老、俺たちは肉食恐竜。せっかく、おいしく草食恐竜を食べようとしてるのに、どうして、ヨロイ竜のフテンマはジャマをしやがるんだ」 「そうだ、そうだ、俺たち、肉食恐竜が草食恐竜を食べなければ、草食恐竜ばっかり増えすぎて、沖縄はじきに砂漠になっちまうぞ」 ・・・こういった。 「お前さんたちが食べようとしたのは子供の竜だろう?食べたいなら、正々堂々、大人の草食恐竜と勝負して、勝ってから食べたらいいさ」 また、あるときのことだった。 草食恐竜の王、トライセラトプスが、長老恐竜に文句を言いにきた。 「フテンマが優しいヤツなのは、わかる。でも、ヨロイ竜のくせに、どうして俺たちのケンカに首を突っ込むんだ。あいつのコウラに隠れられたら、固くて痛くて、もう手出しできやしない」 ・・・長老恐竜は、たしかにそうかもしれないが・・・と思ったが、こういった。 「トライセラトプスや。君たちは、強い角をもち、草をたくさん食べ、頭だって、恐竜のなかでは一番良い。ケンカなどせず、話し合いで解決してみたらどうだね?」 そんなある日のこと、長老のもとに、あの ヨロイ竜フテンマが、相談に来るではないか。 おや、まあ、フテンマ。 しばらく見ない間に、ずいぶんとコウラが 大きくなったではないか。 「・・・長老、実は・・・」 フテンマは、とても心配そうな顔をしていた。 どうした、フテンマ、わたしは キミの味方だ。なんでも言ってごらん。 「・・・実は、何日か前から、どんなにたくさん草を食べても、お腹がすいてすいて、仕方がないんです。それに、どんどん、背中のコウラが大きくなって、もう、他のヨロイ竜の何十倍も大きくなってしまいました。それで、どんなに食べても、お腹いっぱいになりません・・・。ひょっとしたら、僕は病気なんでしょうか?」 長老は、とても心配になった・・・。 でも、フテンマの手や足はがっしりと強そうで 心配そうな表情ではありましたが、コウラもしっかりと ツヤがあり、病気には見えませんでした。 「フテンマや、だったら、夕陽に向かってあるきなさい。そこには、たくさん草が生えていて、そこには恐竜は誰も住んでいない。イリバルという場所だ。そこの草を食べるといいよ」 わかりました、といって フテンマは、夕陽のほうに向かっていきました。 「また、なにか困ったらおいで」 長老は、そういってフテンマを 見送りました。 「見ろよ、フテンマのやつ、ずーっと草を食い続けてやがる」「ほんとだ、きっと胃袋がおかしくなったに違いないぜ?気味が悪い・・・」 そうして、しばらく平和な毎日が続きました・・。 そんなある日のこと。 普段は、暴れん坊のティラノサウルスが 空を指して言いました。 「あの赤い火の玉は、なんだ?」 トライセラトップスも、言いました。 ・・・沖縄じゅうの、賢い長老たちが集まって会議しましたが、どうしていいものやら、とまどうばかりでした・・・。 そのときです!!巨大な山がしゃべった、みんな思いました。でも、山ではありません。フテンマでした。「あい!みんな!フテンマだ!ボクの腹のしたに隠れれ!!ティラノも、トリケラトプスも、おサルさんもアリさんも長老も!!」「あの、赤い球は、争いや戦いをやめられない、恐竜の怒りそのものだ!僕らが振りまいた怒りが、空からふってくる!でも、大丈夫だ!」 フテンマは、お腹のしたに全員を避難させました。そして、がっちりと四本の脚を地面に踏ん張りました。 やがて、本当に真っ赤な隕石がふってきました。フテンマのしたに隠れたみんなは、怖くて怖くて、ブルブル震えていました。 巨大な赤い破片は、容赦なく、フテンマのコウラやアタマに突き刺さります・・・。 そして、何時間かが、経ちました。隕石は、降りやみました・・・。そして、フテンマは、永い永い眠りにつきました。 ティラノが、駆け寄ります。「フテンマ!!隕石が降りやんだ!!目を覚ましてくれ!!フテンマ」 ティラノは、泣きました。トリケラトプスも、泣きました。長老竜も、泣きました。 草ばかり食べていた、フテンマ。 いつも独りぼっちだった、フテンマ。 争いごとが嫌いだった、フテンマ。 身体が大きくなりすぎて、自分は 病気なのかもしれない、と心配していフテンマ。 ひとりぼっちで暮らし ひとりぼっちで隕石に立ち向かった、フテンマ。 ・・・わかってあげられなくって、ごめん。恐竜たちの涙が、やがて川になり、泉になり、いまでも沖縄の地下に流れています。。 恐竜たちは、フテンマは眠っているだけ、と言い合いました。 誰一人、死んでしまったとは、言いませんでした。 それからというもの 一年間に一番、月がきれいに見える夜に、フテンマの身体にあつまって みんなで、フテンマに話しかけるようになりました。 その夜だけは、どんなに仲のわるい 肉食恐竜も、草食恐竜も 決してケンカをしないことにしました。 「フテンマ、今日は月が本当にきれいに見えるぞ」 「フテンマ、沖縄の海はきれいだろう?また眼を覚ましておくれよ やがて、幾億年の時が流れました。恐竜たちは姿を消し、おサルさんたちの時代。「知っているか?」「この岩場は、フテンマという偉大な竜王の身体だったんだ」「オレたち、サル族を隕石から守ってくれた偉大な竜だ」 ・・・さらに幾百万年。「ねえ、ここが暮らしやすいんじゃない?」「そうだな、ここなら見晴らしもいいし、お魚もとれる」 「西の海の賢者がいってた。この場所は、巨大な竜の化石だって」「ははは、まさか。どんなに巨大な竜だって、この半分の大きさもないさ」 そして、2020年。いまでも、その街の名前を、フテンマ、といいます。人々は、フテンマの身体のうえに家を建て、ビルを建て、車で走り、毎日を暮らしています。 全ての人々が、フテンマの存在をわすれてしまった?いいえ、そんなことはありません。ユタのおばあたちは、言います。「沖縄の土地、偉大な竜の神様の身体。わたしたち人間は、竜の身体のうえで生かされているだけ。そのことを、決して忘れてはいけないよ」 沖縄じゅうの命を、隕石から 守ってくれた、やさしくって 不思議なヨロイ竜、フテンマ。 もう、沖縄に隕石はこないとおもうけど・・・ だけど、もし、空から隕石が降ってくるような こわーいことが、またあるとしたら ヨロイ竜のフテンマは 永い永い眠りから、眼をさまして 沖縄の子どもたちを、守ってくれるかもしれませんよ。 #マンガ #絵 #創作大賞2022 #紙芝居 #君の言葉に救われた 25