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6月1日は、真珠の日。

 もう10数年前のこと。思い立って、ちゃんとした貴金属を身に付けたくなり、6月初め頃に真珠専門店に入って行ってみた。

 ガラスケースの中を覗き込みながら、いろいろと説明を聞き続けた。真珠の養殖の仕方から、真珠と並ぶダイヤなんかの石たちの、産地の土の成分の違いによる色味の違いや希少性の差など。ほんとにいろいろ。
 やっぱちゃんとしたお店の人って商品のこと詳しく知ってんなー、と思いながら興味深く聞いては、ほぅ、ほぅと鳴き続けた。そういう事情がわかると楽しいしどれも欲しくなります、ほんとにお話が面白い、と感想を述べると、お客様の聞き方がお上手だからつい話してしまうんですよ、と、のどかな褒め合戦となった。
 そして最終的に私はある指輪の真珠の光沢に惹かれ、それまでシルバーのデザインリングなどを好んでいた身としてはけっこうなお値段となる一粒リングさまを、地味にがんばってきた自分のためにお金を使ってやろうよ、と思い切ってお一つ購入した。
 その日から毎日普段使いで指にはめているおかげで目に入るその、フジタホワイトの一部と呼べそうな一粒のおかげで、ここまで気分が良くなるもんなのか、と感じ入った私は、その後ちょくちょく ”ちゃんとした” 貴金属のお店を覗くようになった。

 お店に入って行ってまず店員さんに向かい、ただのひやかしではなく好きなものがあれば買いたいと思ってはいるのですが、なにせまだ何もわかりません、今日は多分見せていただくだけになると思います、と伝えると、どおおおおぞ、どおぞ、ご覧ください、と受け入れてくださる。
 あるお店でまたそうやってショーケースを覗いていたら、宝石店らしい黒の半袖ワンピースの店員さんが、その何も知らない私に端から順に一つずつ説明を始めてくださった。その頃30代半ばか後半だった私より、そうねー、少し上のように感じられた、とても品の良い、ネイルも整え、明るい栗毛の毛先をカールさせて垂らした髪型の、おねいさまだった。ここでも、お店の方は実に熱心に、丁寧に、がんがん教えてくださった。

 指輪やネックレスについての細やかな説明に、またほぅほぅと鳴き続け、一点、また一点と目を移して行って視野が完全に狭まっている私は、ただただ次から次へと、キラキラ輝くモノたちを順に追っていた。あるところまで来た時、店員さんが私の視線の進行を遮るような手の動きで、「あの、ここからは、もう・・・」とおっしゃる。

 「ここからはもう、ね、あの、”結婚指輪” になりまして・・・」いい歳をして指輪を自力で買うために今さら知識を身につけるとこから始めようとしているあなたのようなお客様には縁遠いことでございますね用は無いでしょうから説明はもう要りませんよね、という微風を感じるやわらかな差別化。

 「けっこんゆ・・・あぁ、なるほど、あ、そうですか」
 「はい、ここからは材料も ”プラチナ” という金属を使っておりまして、お値段もぐんと上がりますし。」
 「はぁ、そうですか、あ、ほんとだ、桁が変わりますね」

 「プラチナ "という" 金属」とまで言われなくても、そんな、それって、”という” って、初対面の外国の人の名前おしえる方法ですやん、ねーさん。プラチナって名前くらいは、知ってますがな。
 とは一瞬感じたけれど、まぁ、何も知らない客だからこそここまで親切に教えてくださっていたのだ、その流れとして、受け身の姿勢で聞き続けた。

 「ええ。プラチナは永遠にサビないという性質がありますのでね、”永遠” ということで、よく結婚指輪に使われるんですよ」

 だからそんくらいはいくら何も知らん客の私でも聞いたことありますがな、小さい頃から。「プラチナ、それは二人の永遠の輝き。」的な。貴金属店のテレビCMとかのやつ。まぁ、そんなふうにもまた思ったけれど、それも「はぁ、そうですかー」と受け流しておいた。

 そしてこの際、何も知らないついでだ、心の片隅で常々納得のいかなかったことについて、誠心誠意、何でも教えてくださるおねいさまに尋ねてみた。

 「・・・・でも、どうして "永遠" と "結婚" を結びつけるんですかね?」

 その女性は次の瞬間、ふっ、と姿勢を正し、私に正面を向いてゆっくりと深く頭を下げながら、おっしゃった。 

 「・・・・・勉強になりました。」


言葉の棚卸しは続く。むかしの歌詞カード。


= 還月歌 =

誕生日の夜が満月
どうでもいいような でも気になるような

昨日のスープを片付けたら
ルーティンでポットを火にかける

真珠の白さの湯気が立つ
香りをかき混ぜながら

季節の中に あの日招き入れられ
特別を嫌えと教わった
あの月と また向かい合う

タバコの匂いが流れた
下の部屋の人も
きっと空を見てる 今日はそんな夜


誕生日を過ぎたら また
憂いを増して 細く戻ってゆく月

戻っていけない昨日は
足を止めず 斜めにふり返る

なんてちゃちなナイフだけで
薮を切り拓こうとしてた
前しか見ないで

命と共に あの日与えられた
少しの力と 名前と
腐るほどの不条理を
すべて喜びに換えて
月に戻れるよう
誰も恨まぬよう
浅く騒がぬよう

命と共に あの日与えられた
少しの力と 名前と
腐るほどの不条理を
すべて喜びに換えて
月に戻れるよう
きっとそれを
試されるために 生まれた


さち・ド・サンファル!
(まえに歌っていた。メロディもコードも忘れた。)


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