日本初開催・ギフテッド教育の国際研究大会「The 18th Asia-Pacific Conference on Giftedness(通称APCG2024) 」参加ご報告 その2
APCG2024は香川県の高松市で開催されました。瀬戸内海に面した高松市は観光名所も多く、海外からの学会参加者の方は思い思いに時間を作って楽しんでいらっしゃいました。サムネイルの画像は高松市内にある栗林公園です。私は数年前に訪問しましたが、日本庭園がとても素晴らしく、観る角度により異なる世界観を感じることができました。
2日目の様子
さて、APCG2024の2日目が始まりました。2日目と3日目は朝9時~夕方5時までプレゼンテーションが続きます。午前中には2つの70分間の基調講演がありました。学会ではよくあることなのかもしれませんが、大変贅沢なことに基調講演は同じ時間枠に2名が異なる会場でお話しをしてくださいます。つまり、参加者はどちらを聴講するか選ばなくてはなりません。あらかじめタイトルがシェアされているので、関心が高い内容を選ぶ事が出来ます。
基調講演 その1
私は1つめの基調講演はカリフォルニア大学のDr. Rena F. Subotnikの「Enhancers and Inhibitors of Lifespan Development in Talent Domains: Examples from Science and Music」を選びました。この先生は科学と音楽の才能育成においてメンター、教師、コーチの存在がいかに大切かということを話され、それらの存在が個人の能力の可能性を技量に変え、さらに専門性へと導くと話されていました。また、それぞれの役割の違いや指導者が身につけておくべき能力についても言及されていました。また、そうは言っても指導者の力だけではなく本人の鍛錬、社会性の獲得、精神的強さや業界の知識の取得などが、創造性を発揮する上ではとても重要な要素であると述べられていました。指導者のそれぞれの立場と役割の違い、持つべき能力は時に混同されがちなのでとてもわかりやすく、学びの多い内容でした。
基調講演 その2
2つ目の基調講演は、日本のジャズピアニスト・数学教育者・実業家、株式会社steAm創業者、経済産業省委員、2025年日本国際博覧会(EXPO)のテーマ事業プロデューサーの一人である中島さちこさんのお話を伺いました。
国際数学オリンピックの日本人初の金メダル受賞者でありながら、ジャズピアニストとしても活躍されている中島さんのお話はまさにご自身の持つ才能を思う存分に表現されているかのように感じました。能力とご経験を活かして企画された子ども向けの様々なプロジェクトの紹介や、大阪EXPOの内容などを情熱的に語られる姿は圧巻でした。日本でも多くのプログラムが提供されていることを海外に紹介してくださり嬉しく感じました。最後に中島さんがキーボードで韓国の民族楽器の打楽器奏者の方と即興でパフォーマンスをしてくださり、会場にいた参加者は熱いグルーヴ感を共有できて大変楽しい時間でした。
ペーパープレゼンテーション
軽い昼食を学食で頂いた後、午後はペーパープレゼンテーションとポスタープレゼンテーションがありました。これらは、あらかじめ学会で発表を希望する参加者が自分の研究内容を事前申請をした上で審査を通って発表の機会を与えられる場です。国際的な集まりで発表をするということは研究者にとりとても貴重な機会であり、他国からの評価や将来の協業など様々な可能性が広がります。
審査後に内容によりカテゴリー分けをされてグループが作られます。そのグループ毎にペーパープレゼンテーションとポスタープレゼンテーションが行われます。
ペーパープレゼンテーションでは、約5人程度のグループが1人につき20分程与えられて、スクリーンに資料を投影しながら順次発表と質疑応答を行います。このペーパープレゼンテーションも同じ時間枠で5セッションが並行して開催されました。参加者は最も関心の高いセッションを選んで教室へ向かいます。
正直言って、このセッションを選ぶのはとても難しかったです。タイトルからは面白そう!と思って参加しても、期待していた内容と少し違ったり、時にはプレゼンターの英語が聞き取りずらかったり(殆どの参加者がネイティブの英語話者ではないので)もしました。ただ、これは私自身の英語理解力の問題ですし、ネイティブでない方の英語でのプレゼンをお聴きするのも国際研究大会の醍醐味なので、それはそれで面白かったのですが、今ひとつ深く理解できなかった後に、他のセッションに参加した人から「今のプレゼンすごく面白かったよ」と聞くとちょっと残念と思う事もありました。次回機会があれば、プログラムをもっと事前に読み込んで自分の関心にあった内容を学ぼうと思いました。
ペーパープレゼンテーションで感じた事
上記の写真はインドにあるギフテッド校の先生であり、研究者でもある友人のペーパープレゼンテーションの様子です。プレゼンテーションのタイトルは 「Holistic Personality Assessment: Self Rating Scales as a Tool to Assess Perceptions of High Schoolers」といい、高校生に総合的性格評価を学校で受けてもらい、各人の持つ認識を確認し、その結果を受けて教師が更にコメントをして保護者に共有するというような試みでした。この評価ツールは知的能力の評価だけではなく、身体的、感情的、社会的発達に加えて態度やリーダーシップの要素から構成されており、学生が設問に答え、その結果から分析されます。
このプレゼンは私の関心のど真ん中な内容でした。時にギフテッドの子ども向けの教育は大人が「こうしてあげたらきっと良いのではないか」と想像しながら作り上げる傾向があり、子どもたち自身がどう感じているのか、ニーズに合っているのか、望む刺激を得られているのかなどをヒアリングして、教育内容を見直す機会がやや少ないのではないかと感じることがあります。以前ニュージーランドを訪問した際に、沢山のギフテッドの子どもたちに話を聞く機会を頂いたのですがその時に感じたのは「子どもたちには学びに対してしっかりとした意見がある」ということでした。「子どもたちの声を聞くこと」この仕組み作りが日本のギフテッド教育でも不可欠ではないかと感じており、学ぶ点のとても多い内容でした。
ポスタープレゼンテーション
ポスタープレゼンテーションは、テーマ毎に分けられた会議室の壁に10名ほどのプレゼンターが発表内容をまとめたポスターを掲示します。参加者はそれぞれのポスターを読みながら内容についてプレゼンターへ質問をすることができます。会議室にはコーヒーと軽食が用意されており、和やかな雰囲気で過ごすことが出来る時間です。2日目は2つのペーパープレゼンテーションの間に50分間のポスタープレゼンテーションがありました。
お写真を取り忘れてしまったのですが、以前講演などで大変お世話になりました上越教育大学大学院の角谷詩織先生もポスタープレゼンテーションに参加をされており、リアルでご挨拶をすることができました。出会いに感謝しております。
パーティー
この日の締めくくりは、参加希望者のみのパーティーでした。地元の無形文化財である獅子舞の迫力ある踊りとお囃子が披露され、参加者の皆さんが楽しんでいらっしゃいました。
3日目へ続きます。