ドスケベマン(21)
南関東地区。
ここは、かつて輸送の基地としてにぎわった港湾地帯の人工島を中心に、関東地区以外の地域との交易や交渉を行う商業地帯が広がっている。
メタリックな巨大建築物や大規模な施設はそのままドスケベアーミーの武器や装備、加工食品や衣類まで様々な工業製品の生産拠点となっていた。
その生産に携わる人々は皆希望に満ち溢れた顔をしており、ドスケベアーミーたちも活気が溢れていた。
ドスケベがなく明るく清潔な近代都市、それが南関東地区であり、そこを治めるのはドスケベ四天王の1人、マリリンであった。
「マリリン様、お目覚めの時間です」
シンヤは居室のドアをノックしながら声をかける。
「――起きてるわ」
部屋の中から声が聞こえ、シンヤは扉を開ける。
よほどのことがない限りマリリンはシンヤが声をかける時間には身支度を終えている。
それでもシンヤは必ずノックをして確認をしていた。
――マリリンの傍に仕えるドスケベアーミーはシンヤだけだ。
他のドスケベアーミーや生産拠点長への連絡や会議は基本的にシンヤを介して行う。
無論、会議の際はマリリンと直接話すのだが、その時間や調整は全て秘書官であるシンヤが担当していた。
「本日の予定がこちらです」
シンヤはマリリンに予定表を渡す。
「――ふうん」
マリリンは物憂げにそれを一瞥して、立ち上がった。
「それと……ドスケベキング様より西地区への出兵命令がきております」
「そう」
マリリンはしばし考える。
「……西地区は私がどうにかしろってことね」
はあ、と小さくため息をつく。
アーマード倫理観が死んだ報が入ってからすでに1か月半が経っていた。
「まあそろそろいい時期でしょ。準備は」
「――できております」
シンヤの顔に一瞬ためらいの色が浮かぶ。
「姉さん――僕は」
「シンヤ」
言いかけた言葉をマリリンは強い口調で遮った。
「準備を、してちょうだい」
シンヤはその目を見て、口をつぐむ。
「――は、了解しました」
くるりと踵を返し、シンヤは部屋を出る。
西地区への準備はすでにできている。マリリンは机に置いてある報告書をもう一度パラパラとめくりながら、これからの動きについて思考を反芻する。
そう――まずは、レジスタンスの解体からだ。
ほほえみながらマリリンは立ち上がった。
続く