とりあえず建物診断?
管理組合は、管理会社から、大規模修繕工事が近くなってくると「とりあえず劣化診断をやりましょう」という提案を受けることがあります。しかし、この提案に対して私は疑問を感じざるを得ません。確かに建物の劣化診断は、大規模修繕工事の実施の際に必要なプロセスではありますが、十分な理由や計画がないままに実施することには慎重になるべきです。その理由についてご説明いたします。
1. 「とりあえず」の意味するところ
「とりあえず劣化診断をやりましょう」という提案は、一見すると管理会社が建物の維持を真剣に考えているように思えます。しかし、「とりあえず」という言葉には、具体的な根拠や必要性が明確でないまま進めようとする曖昧さと大規模修繕工事を管理会社のイニシアティブによって進めたいという思惑が含まれていることがあります。本来、建物の劣化診断は、過去の点検記録や現在の建物の状態、修繕履歴などを踏まえて計画的に行われるべきものです。まして管理会社の思惑で行うようなものではありません。「とりあえず」という曖昧な理由で診断を進めることには慎重であるべきです。
2. 診断の目的が不明確
劣化診断を行う目的は、建物の安全性や快適性を確保し、適切な修繕計画を立てることです。しかし、「とりあえず診断を行う」という提案では、その目的がはっきりしません。例えば、「特定の箇所に異常が見られるため詳細な調査が必要」というような明確な理由があるのであれば、診断の意義も高まり、理解もできます。しかし、特に異常が報告されていない段階で「とりあえず」という形で診断を行うのは、費用対効果の面でも疑問が残ります。
また、劣化診断を行うことで、どのような修繕計画を立てることができるのか、どの程度のコストが発生するのかといった点も明確にされるべきです。建物劣化診断を行うのであれば、それに基づき、大規模修繕工事の設計予算なども合わせて作成されれば、大規模修繕工事の実施時期を判断するうえで明確な資料となります。とりあえず建物劣化診断を行った結果、特に問題が見つからなかった場合、その診断は本当に必要だったのかという疑問が生じます。
3. 不必要なコストの発生
劣化診断には当然ながら費用がかかります。管理会社が提案する診断が、本当に必要なものであれば納得できますが、「とりあえず」という理由で実施することで、無駄なコストが発生する可能性があります。建物劣化診断の費用は、一般的には修繕積立金から支払われます。管理組合の修繕積立金は、管理組合の皆さんが毎月積み立てた大事なお金ですので、不必要な診断に予算を割くことは避けるべきです。
また、診断を実施した結果、大規模修繕工事が必要だと判断された場合、それに伴う修繕工事の費用も発生します。もちろん、適切な修繕は建物の資産価値を維持するために重要ですが、診断の必要性が十分に検討されないまま工事へと進むことで、本来の優先順位とは異なる形で予算が使われてしまうリスクもあります。
4. 管理会社の利益優先の可能性
管理会社が提案する劣化診断には、管理会社の利益が関係している可能性も否定できません。診断を実施することで、管理会社はその点検費を得ることができますし、さらに診断結果をもとに修繕工事を請け負うことでさらに利益を上げることができます。このような構造を考えると、必ずしも管理会社の提案が建物の維持管理のためだけではなく、彼らのビジネス戦略の一環として行われている可能性もあるのではないかと疑う余地があります。
もちろん、すべての管理会社がこのような営利目的で動いているわけではありませんが、管理組合としては、提案の真意をしっかりと見極める必要があります。管理会社の提案を無条件で受け入れるのではなく、診断の目的や必要性について具体的な説明を求めるべきでしょう。
5. どのように対応すべきか
管理会社から「とりあえず劣化診断をやりましょう」と提案された場合、管理組合は次のような対応を取るべきです。
①診断の目的を明確にする
何のために診断を行うのか、どの部分を重点的に調査するのかを確認し、過去の点検記録や修繕履歴と照らし合わせて、本当に必要な診断かどうかを判断する。
②費用の見積もりを確認する
診断にかかる費用が適正であるかどうかをチェックし、複数の業者から見積もりを取ることも検討する。
③管理会社以外の専門家の意見を聞く
必要に応じて、第三者の修繕コンサルタントなどに相談し、中立的な意見をもらう。
④診断のタイミングを見直す
長期修繕計画に基づいて診断の時期を見直し、計画的に進めることで無駄なコストを削減する。
6. まとめ
「とりあえず劣化診断をやりましょう」という管理会社の提案には慎重に対応すべきです。診断には明確な目的と計画が必要であり、管理組合としてはその必要性をしっかりと見極めることが求められます。不必要な診断や修繕工事を避けるためにも、管理会社の提案をそのまま受け入れるのではなく、冷静に判断し、必要に応じて第三者の意見も取り入れながら対応していくことが重要です。